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この地域は犯罪組織「バイパー」の縄張りと、敵対する組織の縄張りの緩衝地帯になっており、それを良いことに、どちらにも属さない新手のギャング集団が現れ、勝手にドラッグを売りさばいていた。
今もフロアで踊る大半の者はドラッグをキメており、売人同士の取引も活発に行われている。
「バイパー」などの大規模犯罪組織から見れば、スズメの涙ほどの額の取引ではあったが。
突然。
フロアに流れていた音楽が止まった。
皆の視線が、DJブースへと向く。
そこに、ドレッドヘアのDJの姿は無かった。
代わりに別の人物が立っていた。
細面に、逆立った白い短髪、20代後半の男。
バレエダンサーのような、黒くタイトなスーツを着ている。
その両眼は閉じられていた。
男は元は軍人で、前線の戦闘時に負傷し、視力を失っていたのだ。
そのときの戦場の地獄の様相にトラウマを受けた男は、瞳のサイボーグ手術を選ぶことなく、別の選択をした。
キシャール。