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マスルが咆哮した。
何をされようとも、鋼鉄の身体の鉄壁の防御は崩せない。
オレに敗北は、あり得ない。
突如。
マスルの頭部付近に急激な変化が起こった。
低温によって冷やされていた強化装甲に、鉄をも溶かす灼熱の高温が襲いかかったのだ。
「何だ!? クソ女!! 何をしてやがる! やめろ!!」
マスルの怒号。
いや、それは自身の行く末を本能的に感じとった、マスルの悲鳴であった。
冷却された直後、高熱で熱せられた強化装甲に無数のヒビが走った。
その防御力は、一気に地に落ちた。
「ウワーーーッ!!」
マスルは絶叫した。
めちゃくちゃに手を動かし背後の女を掴もうと、あがく。
「シーア・デスモティア」
自分の叫び声と重なっているのにもかかわらず、女の囁き声が、いやにハッキリと聞こえた。
何だ?
何か言ったのか?
意味が分からねぇ。
何だ、何だ!?
女の左腕が右腕を引き、マスルの太い、しかし今や、ひどく弱々しい首を絞めつけた。
マスルの首が砕け、へし折れた。
空中へ飛んだマスルの頭はクルクルと回転し、自分の背中側へと落ちていく。
マスルは首の無い己の身体が腕を伸ばし、女を掴もうとしている姿を見た。
女はグニャグニャと身体を動かし、かわしていた。
左右の腕が迫ってくると、女の身体がアメのように伸び縮みし、マスルの指を空振らせるのだ。
アメーバの如く、自在に形を変えている。
(何だ!? こいつは何だ!?)
マスルの頭が床に接触した。
あれほどの強度を誇った強化装甲製の頭部は。
粉々になって、四散した。
まるでガラス細工だ。
マスルは死んだ。
静寂が訪れた。
女は姿を消していた。
惑星クレルラモンの大都市クレルラモア。
大勢の若い男女が集まるナイトクラブ。
真っ暗なダンスフロアには、色々なライトの光が飛び交い、ステージに設けられたDJブースの上では、ドレッドヘアの男性DJが、激しい音楽を流し続けていた。
フロアでは重低音の曲に合わせて、50人ほどの人々が各々、自由に踊っている。




