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叫びながら、マスルは両手を闇雲に振り回し、チラチラと見える女の髪の毛を掴もうとした。
しかし、指は虚しく空を掻く。
「フフフ」
女が鈴の音を鳴らすような声で笑った。
マスルは言い知れない恐怖を感じた。
(バカな! このオレ様が、『剛腕』マスル様が、女相手に…)
マスルはヒビの入った自尊心を、必死に奮い立たせた。
冷静になれ。
よくよく考えれば、女はオレを倒すことは出来ない。
首に、まとわりついているだけだ。
不本意だが、仲間の誰かに応援を頼めば、女を殺せる。
そう考えたところで、マスルは異常に気づいた。
顔の周りの空気が音を立てている。
ピキピキ、ピキピキと。
何だ?
おかしいぞ!
凍っているのか?
「女!? お前か!?」
女は答えない。
マスルの首の周辺が凍り始めた。
しかし、強化装甲に影響はない。
たとえ極北に放り出されたとしても、マスルの装甲は耐えうる強度を持つ。
「無駄だぞ! オレは、そんなことじゃビクともしねえ!」




