28
しかし、首には依然として、腕が巻きついている感覚がある。
今度は両手で首の後ろを探る。
が。
「?」
やはり、何も掴めない。
「な、何だ、テメェは!?」
理解不能な事態に、マスルは動揺した。
視界の端に、女の栗色の髪が見える。
居る。
やはり、女は居る。
それは間違いない。
では何故、女の身体が掴めないのか?
マスルの大声を聞いた、女を連れてきた手下が部屋に入ってきた。
「ボス!?」
マスルの緊迫した様子に驚いた手下が、そう言った途端。
その顔面に、細いナイフが突き立った。
声も出さずに手下は倒れた。
ナイフだと!?
女がナイフを持ち込んだ?
いったい、どうやって?
どこに隠していたのか?
「クソがっ!!」
マスルが吼えた。
そして。
手下が入ってきた扉側の部屋へと、猛然と突進した。
壁に激突する。
マスルの鋼鉄の身体はコンクリート製の壁を楽々とブチ破り、隣のフロアへと抜けた。
辺りにコンクリートの破片が飛び散る。
「何だ!?」
「敵か!?」
マスルと銀行を襲った手下の9人が、武器を手に慌てて集まってくる。
マスルは男たちに背を向け、叫んだ。
「おい! オレの背中の女を撃て!」
男たちは混乱した。
が、だからこそ、素直に自分たちのボスの言葉に従った。
男たちの銃では、マスルはダメージを受けない。
遠慮なく攻撃できる。
マスルは手下たちの銃撃を待った。
5秒。
10秒。
15秒。
「?」
静寂。
マスルは背後に向きを変えた。
手下は全員。
倒れていた。
1人目の男と同じように、顔や首筋にメスのような形状のナイフが刺さっている。
皆、死んでいた。
「ふざけやがって!!」




