12
吊り下げられた遺体があった。
身体中の傷跡が息を引き取るまでの、彼女の地獄の苦しみを如実に物語っていた。
レラは絶叫し、慟哭した。
メフィストは機械音声の激しい泣き声を聞きつつ、そっと地面にレラを置いた。
メフィストが玄関に近づき、遺体を下ろした。
メフィストの背中で、遺体が隠れた。
レラからは見えない位置で、メフィストは小瓶をポケットから取り出した。
ピンセットで遺体の傷口から一片の皮膚を剥がし、小瓶に入れると、素早く白衣にしまった。
レラは悲しみのあまり、メフィストの動きには、まったく気づいていない。
「死後、1日かな。警察は来た形跡がない。『バイパー』を恐れて、事を構えたくないのか、それとも鼻薬を嗅がされたか?」
そう言って、メフィストは再び黙った。
時が過ぎた。
レラの嗚咽が止んだのは、メフィストがミアの遺体をエアカーのトランクに積み、その後、辺りをウロウロと10周、回った頃だった。
月は頭上からレラたちを優しく照らしている。
「さあ、君…あれ? まだ、名前を訊いてなかったな。まあ、名前なんて何だっていいんだけど。記号みたいなものだから」
そう言ってメフィストは、レラを覗き込んだ。
「僕が、こんなところまで、わざわざやって来た理由の本題、要するに君が『バイパー』の奴らに復讐するつもりがあるのか? そして、それを僕に観察させてくれるのか?ってことなんだけど。もし、許可をくれるなら、僕は君の復讐を全力でバックアップするよ。どうだい? どうなんだい?」
レラはメフィストの左右で色の違う瞳に、明らかな興奮を見た。
こいつは狂ってる。
他人の殺し合いを楽しむイカれた異常者だ。
だから、何だ。
あたしも狂ってる。
無惨に晒されたミアを見た瞬間から、あたしも狂ってる。
マンマ・ハッハと、そのチームを八つ裂きにするためなら、悪魔とだって取引する。
シーア・デスモティア。
地獄に堕ちろ。
「そろそろ、新しい身体にも慣れてきたかな、レラ?」