第7話 はじめてのSランク魔法
俺と白銀ゆめはしっかりと握手をし、仲間になることを誓いあった。
「うふふふ。秋葉野くんがいい人で良かった!」
「いや、俺は自分にメリットがあるから応じただけだよ」
「私、一人ぼっちでとっても心細かったんです。本当に嬉しい」
まあ、正直俺も、一人で悩みを抱えることに心細さがなかったといえば、嘘になる。
「では、目的も終わったし、私の魔法を使って秋葉野くんのお宅にお送りしますね。どこの鏡にしますか?」
俺は自分の家の周辺の鏡を思い出してみる。
しかし、どれも密室ではない。
公衆トイレの鏡などに出て行ったら、誰に目撃されてしまうかわかったものではない。
自分の家だとしても、共有部分の鏡を使って、万が一家族に見られたりしたらたいへんなことになる。だとすれば、自分の部屋にある姿見が一番いいのだが……。
俺は心配になってきたので、聞いてみる。
「俺の記憶をもとに鏡に入っていく場合も、二人一緒に入る必要があるのか?」
「はい。『鏡の国』は私の能力なので、秋葉野くんの記憶を使う場合でも、私も一緒に行く必要があります」
まあ、そりゃそうだよな。
自分の部屋を思い浮かべてみる。
エロいものは……大丈夫、ベッドの下に隠してある。
俺の下着をはじめとする衣類も……大丈夫、今日はたまたまちゃんとしまってあるはずだ。
「分かった。大丈夫。イメージできる」
「では、もう一度私の手を握ってください」
白銀さんの手を握るのも、早くも三度目だ。思春期になってこのかた、同じ年頃の女性の手を握るなんて、今日が初めての経験だったのに。それがもう三回。
それでも、やはり緊張する。俺は手汗をさりげなく服でふいてから手を差し出す。
「しっかりイメージできました?」
「……ああ。大丈夫だ」
「そのままお願いしますね。じゃ、行きます!」
白銀さんが鏡に飛び込み、俺もその後ろに続く。背後には巨大猫の存在も感じられる。どうやら巨大猫は、白銀さんと接触していなくても大丈夫らしい。
これも本日二回目となる、光り輝く水中のような空中のような奇妙な空間。
その空間を飛び出すと……たしかに俺の部屋だった。
あわてて周囲を見渡す。
勉強机とベッドとわずかな収納。それと、親のおさがりとしてもらった不相応に大きな姿見。
うん。見られてやばいものはない。きっと。
「ここは?」
白銀さんがきょろきょろとあたりを見回す。
巨大猫は俺の部屋の広さを察してか、普通の猫のサイズになって部屋中をくんくん嗅いでまわっている。やめてほしいんだけど。
「俺の部屋だよ」
「え……そうなんですね」
「なんだよ」
「いえ、べつに」
「わらわの知る限り、ご主人がオスの部屋に入るのは初めてだからにゃー。緊張しているにゃ」猫がからかうような口調で話す。
「ちょっとチェシャ!」
白銀さんの顔が真っ赤になっている。
まあ、部屋のあるじである俺自身もちょっと恥ずかしいんだから、客である白銀さんはもっと恥ずかしいのだろう。
とりあえず、赤面した白銀さんはめっちゃかわいい。猫、なかなか優秀だな。
「にゃああ。それにしても、そなたのベッドまわり、なんだか変な臭いがするにゃ。とくにベッドの下!」
前言撤回!
「気のせい気のせい! 白銀さん、猫といっしょにすぐ帰るだろ?」
「はい。あ、えっと、それで、その、連絡先を交換してください」
「あ、そうか、たしかに」
こうして俺は白銀さんの携帯電話番号とSNSのアドレスをゲットした。
これ、ほかの男子には絶対に言えねぇな。
「じゃあ、今日はこれで帰りますね。ありがとうございました。チェシャ、帰ろう!」
呼びつけられた猫は、「にゃああ。この変な臭い、たしかどこかで……」と言いながらも、しぶしぶ言われたとおりに鏡の前に行く。
うーん。この猫、どうも『不思議の国のアリス』のチェシャ猫にくらべて、従順すぎるんだよな……。
俺の部屋の姿見は自立式なので、ちょっとぶつかるだけで倒れてしまう。
そのため、俺は姿見の後ろに回ってそれを片手で支える。
「ありがとうございます。やっぱり秋葉野くんって紳士ですね」
「いや、鏡が倒れたら困るからさ」
「素直じゃないですねぇ。うふふ、じゃあ、また明日学校で」
やわらかな笑顔を残して、白銀は鏡の中にゆっくりと消えて行った。
が、猫はそのあとに続かず、まだ部屋に残っている。
よく見ると、瞳が赤くなっている。
「にゃああ。これはすごい。Sランク魔法だにゃ」
「え?」
「『栄光の左腕』。魔力に基づくものすべてに、5秒以上触れ続けることで『不滅化』する魔法だにゃ」
え? それってどういう……。
「あれ、どうして?!」
鏡の中から、白銀さんの声が聞こえてくる。
「『不滅化』は魔法の威力を永久に固定化するにゃ」と、猫が嬉しそうに説明をする。
「もしかして、俺の魔法で……?」
「そうにゃ。『栄光の左腕』によって、『鏡の国』が固定化されたにゃ」
俺の部屋に残ったままの猫が楽しげに話す。
俺は姿見の前に回る。鏡を覗き込むと、いつもと違っていた。
そこには反射して映る自分の姿ではなく……。
いかにも女の子らしい可愛らしい色彩の部屋と、困惑した表情の白銀さんがいた。
白銀さんが焦った声で話しかけてくる。
「私、さっきの部屋じゃなくて、自分の部屋に帰ろうとして……ねえチェシャ、どういうこと?」
猫は、こともなげに言い放つ。
「二人の部屋が、永久につながったということにゃ。おめでとう。便利になったにゃ」




