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第4話 喜びも不安もみんな、分かち合いましょう!

 俺は周囲を見回す。

 部屋だ。

 かなり広くて、高級そうな造り。

 だが、家具は何一つない。カーテンもかかっていない。

 そして俺たちが出てきた鏡は、クローゼットの扉に造り付けの、大きな姿見だったようだ。

 

 そんな俺の様子から察したのだろう、白銀しろがねゆめが答えを教えてくれる。

「ここはお父様の会社の空き物件です」

「え?」

「不動産会社の経営者なんです、私のお父様」

 ああ、テレビのCMとかでよく見るぞ、「白銀ビル」グループ。あちこちで高級マンションや複合施設を建設している巨大企業じゃないか。

 

「ジャーン」と言いながら、白銀ゆめはポケットからカードを出す。

「お父様からくすねた、マスターキーです。空き部屋のカギはすべて、この鍵で開け閉めできるんですよ。で、鏡であちこち飛び回りながら、部活がない日に活動をしているんです」

「活動?」

 白銀ゆめが一瞬恥ずかしそうにためらい、口を開く。

「妖精さんの保護活動と、なろう病の仲間を探す活動です。仲間はなかなか見つからなくて、秋葉野くんが最初の人なんですが……」

 

 なるほど。妖精さんの保護活動と、仲間を探す活動ね。なるほどなるほど。

「……そっか。次の人が見つかるといいね。じゃ、俺はこれで」

「いえ、まだです。秋葉野くんにここまで来ていただいた理由は、3つあります」

 

 3つもあるのか……。

 さっきは[じゃあ3分だけ、3分だけ付き合ってください!]とか言ってたのに。明らかに3分じゃ済まなさそうだ。

 

「1つ目は、さっきも言いましたけど、チェシャの能力の実証です。チェシャには、魔法を鑑定する能力があります。そしてチェシャの鑑定によると、私の『鏡の国』という魔法は、一度でも見たことのある鏡同士を、自由に行き来できる能力らしいんです」

「え、すごいな」思わず、驚きが声に出てしまう。「泥棒どろぼうとかのぞきとか、いくらでも悪用できそうだな」

 

「泥棒とか覗き?」

 白銀ゆめが軽蔑した目でこちらを見てくる。

 

「あ、いや、悪い奴が手に入れたら、って話だよ。悪い奴」

「……ま、いいです。で、なんでしたっけ」白銀ゆめが片手で頭をかく。

「あ、そうそう。この『鏡の国』、さらにすごい能力もあります。同じ資質をもつ者、つまり他のなろう病患者とは、手をつないでいれば一緒に鏡を通り抜けられるそうなんです」

「なるほど。それは確かに実証できたな」

 

「えっへん。でも、もっとすごいこともできるんですよ! 手をつなぐ相手が見たことのある鏡であれば、私が行ったことがなくても通り抜けることができるそうなんです。……あ、これは後で試させてください」

 おいおい、誘導尋問か?

「いや、それは別の奴で試してくれ。何度も言ってるけれど、今日は早く帰りたいんだ」

 

「……ねぇ、秋葉野くん」白銀ゆめはちょっとむくれたような表情を浮かべる。「そんなにそわそわしないでください。まだ時間はたっぷりあるんですから」

「3分だけっつったのは白銀さんだろ?」

「ご自宅に帰るつもりはありました?」

「え?」

「女の子の頼みをはねのけるほど重要な用事ということは、一度はご自宅に帰るつもりだったんじゃないですか? 制服を着替えて遠出をするとか?」

「? ああ、まあ、そうだな」

 

 白銀ゆめの顔に、満面の笑みが広がる。

「うふふふふ。大丈夫。用件が終わったら『鏡の国』でご自宅の近くまで届けます。最寄り駅はどちら?」

 まずい、はめられた。

「……秋葉原……」

「え、あんなところに人が住んでるんですか?」

「おま、失礼だぞ。めっちゃ人住んでるよ。とくに昭和通り口の方は普通に住宅街になってんだよ」

「……ふーん、そうなんですか。まあいいや、とにかく秋葉原が最寄駅ということは、高校からご自宅まで、電車で帰ったら30分くらいはかかるでしょう?」

「……まあ、たしかに」

「ほら。だから33分は時間の余裕があるんです。」

 

 そう言って白銀ゆめは、勝ち誇ったような表情を浮かべる。

 やっぱり全然おしとやかじゃないじゃん。

 

「分かった分かった。でも、なるべく早く用事を済ませてくれ。ほら、俺をここに連れてきた3つの理由のうち、まだ1つしか聞いてないぞ」

「そうですね。2つ目の理由……それは、お友達が欲しかったからです」

「友達?」

「はい。私と一緒に活動してくださる、お友達です」

「悪いけど、俺は嫌だよ」

「えー。何でですか? こんな特殊な能力に選ばれた、喜びを分かちあう仲間が欲しいと思わないんですか?」

 

 喜びを分かち合う? まったく理解できない。

「だってさぁ、こんなわけの分からん能力だぞ? 俺は白銀さんのように前向きになれねぇよ。めっちゃ不安だ」

 白銀ゆめは、俺の発言の意味がまったく分からない、という表情をしている。

 このお嬢様はきっと、今まで他人から敵意や悪意を向けられることなく、すくすくと育ってきたのだろう。

 

 俺はイライラしながら続ける。

「自分が特別な能力を持っていることが周りに知られたときに、どんな仕打ちを受けることになるか。俺はそれを考えると、不安で不安で仕方なくなるんだ」

 

「ではその不安も、私が一緒に分かち合いますよ。喜びも不安もみんな、分かち合いましょう!」

 自分は一切不安を感じていないであろう、底抜けに明るい笑顔。

 

「そんな単純なもんじゃねぇんだよ!」

 思わず、少し声を荒げてしまった。だが、彼女は俺と違って、凄惨せいさんな「あの事件」を知らない。

 

「……すまない。まあ、俺はそんなに前向きになれないんで、ひっそりと生きていきたいんだ。だから目立つ白銀さんとも、正直言って関わり合いになりたくない」

 

「にゃー。たしかにそなたは、強大な魔力を秘めているはずだにゃ」

 唐突に、巨大猫が横から割り込んでくる。

 

 そっか。白銀ゆめはさっき、こいつは能力を鑑定することができると言っていたっけ。

 俺は、巨大猫に向かって質問を投げかける。

「お前、俺の能力が分かるのか」

「もちろん。それがわらわの能力だからにゃ。正確には、目の前で魔法を見た時だけ、その鑑定ができるのにゃ」

 

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