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第37話 いいように縛られてしまったぞ

 白銀ゆめほど面白いおもちゃはない。

 けた外れに強い精神力と、感情の豊かさ。

 明らかに、これまでのおもちゃとは違う。

 

 白銀ゆめは、オレの灼熱しゃくねつの魔法には決して屈しない。

 そのくせに、オレが三人の被害者たちの話を詳細にすると、悔しそうに身体を震わせる。ついには、耐え切れずに叫び声を上げる。


 オレがなぶりぬき、いたぶりぬいた女たちへの同情と苦しみが、自分の現実の苦痛よりも上回っているようなのだ。


 

 白銀ゆめは、すでに暑さにやられて目を開けることもできなくなっている。

 眼球の乾きが限界を超えたのだろう。


 ずっと目を閉じ、体育座りをしている。

 そして時々ガクッと首を落とし、それからノロノロと元の姿勢に戻る。意識を保つのも難しくなってきているようだ。

 


 白銀ゆめには、さすがにもう、反撃する気力も体力も残っていないはずだ。

 そろそろいいかもしれない。

 

 オレは白銀ゆめがとくに朦朧もうろうとしだしたところを狙い澄まし、同じ部屋に足を踏み込む。

 熱気がオレの全身に襲いかかる。強烈な暑さ。こんなところ、オレならものの3分だって耐えがたい。よく何時間も粘ったものだ。

 

 素早く無数の縄を現出し、白銀ゆめを縛り上げる。

 もはやまともな抵抗はない。

 両手に生えていた危険極まりない鉤爪も、後ろ手に縛り上げてしまえばもう脅威ではない。

 ついにオレは、白銀ゆめの自由を完全に奪うことに成功したのだ。

 

「あっはっはっはっはっは。どうだ? 同級生のかたきにいいように縛られてしまったぞ」

「……くそ……『白の女王』さえ……残っていれば……お前なんか……」

 

 やはり、なんらかの必殺の魔法は不発だったようだ。

 だったら、もう少し早く踏み込んでしまってもよかったかもしれない。


 

 オレはまず、室温を下げる。

 白銀ゆめをもっといたぶってやりたかったが、同じ部屋にいるオレが耐えられない。

 

 白銀ゆめは、全身が汗まみれ。憔悴しょうすいしきった表情は、すでに死人のようだった。

 そんな状況でも、いや、そんな凄惨な状況だからこそますます、白銀ゆめは美しかった。

 

「あっはっはっはっは。さあて、お楽しみの前に一度身体を清めようか」


 オレは、白銀ゆめの頭上に水源を現出させる。

 その水源から、滝のような水が流れ落ちてくる。大量の水が白銀ゆめの全身に叩きつけられる。

 その肢体が、なすすべもなく水に打たれて痛々しい音を奏でる楽器となる。

 大量の水は、そのまま床に流れ落ちて消えていく。


 オレは結界内の温度と湿度を自在に操れる。湿度を操れるということは、水も自在に操れるのだ。

 

「汗くさい女は嫌いだからな。清めてやったんだ。感謝しろ」


 当然ながら、白銀ゆめは返事をしない。まあ、それならそれでよい。


「さあ、お楽しみをはじめようか」


 オレは片手を伸ばし、白銀ゆめの両ほほを握りしめる。

 そのまま自分の顔を近づけ、白銀ゆめと両目を合わせる。

 まだ意識は朦朧としているようだ。うまくいけば、小学4年生の時に届かなかった唇を、このまま奪えるかもしれない。

 

 オレは試しに、自分の唇をさらに近づけてみる。

 突然、白銀ゆめの口が、歯が、迫ってくる。オレは慌てて顔を後ろに引く。

 ガキィ!!

 白銀ゆめの上下の歯が、大きな音を立てた。

 

「危ない危ない。まあ、そりゃそうだよな」

 白銀ゆめは、オレにかみつこうとしたのだ。

 

「うおおおおおおお!」

 白銀ゆめは叫び声を上げ、オレの縄たちがギチギチと悲鳴を上げる。

 縄の間の白銀ゆめの身体が大きく膨れ上がる。

 どうやら、先ほど見せられた巨大化魔法で、縄を引きちぎろうとしているようだ。

 

「バカだなぁ。オレの縄はそう簡単に切れないぞ」

 オレがそう言ったそばから、白銀はブチブチッ、と縄を何本も引きちぎっていく。

「うわっ! くそ!!」

 オレは慌ててさらに何本も何本も縄を新たに現出させて、それで白銀ゆめを何重にも縛る。

 

 しかし白銀ゆめはあきらめない。延々と巨大化魔法を自らにかけ続ける。自分の身体で縄を引きちぎり続ける。

 縄目にこすれて全身がアザだらけになろうと、魔法を使うことで体力が削られようと、白銀ゆめには関係ないらしい。


 白銀ゆめの魔力に圧倒されそうになるが、こんなのは明らかに、最後の悪あがきだ。

 オレも負けじと次々に縄をかけまくる。

 基本的には、すでに縛り上げているこちらの方が圧倒的に有利なのだ。

 

 そして結局、白銀ゆめは魔力が尽きた。

 白銀ゆめの巨大化魔法は、オレの魔法の縄に負けたのだ。

 

「ついに限界を迎えたか。ったく。時間をかけさせられた分、いたぶりぬいてやるからな」

 そう言ってオレは、白銀ゆめの制服に手をかける。


 もともとの計画では、白銀ゆめ自身の手で全裸にさせるはずだったので、オレはハサミなどの刃物は持って来ていなかった。

 しかたない。自分がかけた縄が邪魔だが、オレはブラウスをボタンごと引きちぎっていく。

 

 そしてついに、白銀ゆめの下着が姿を現す。青色をしたスポーティーなブラジャーだ。

「どうだ、ゆめは今、友達を殺した男に下着姿を見られているぞ」

「バーカ。……ユニ、フォーム、だ……」

「てめぇ」

 

 ブラウスをさらに開くと、たしかにブラジャーだと思っていた服には、「中野北」と書かれてた。素材もたしかにスポーツのユニフォームっぽい。セパレート型とかいうやつか。

 

 それにしても。制服の下に陸上部のユニフォームを着ていたなら、制服だけでも脱げばよかったのだ。

 あの灼熱の中、なぜそこまでして制服を脱がなかったのか。

 

 ……おそらく。オレを喜ばせる一切のことをしたくなかったのだろう。

 オレが脱げと言ったから。だから、白銀ゆめは一枚たりとも、服を脱ぐことを拒否したのだ。

 

 なんという強靭きょうじんな精神の持ち主なのだろう。しかし、それを褒めるわけにはいかない。


「これは、お仕置きが先だな」

 オレは太い縄を一本現出し、それを右手に持つ。鞭のようにしなる縄だ。

 

「覚えているか? 小学校4年生の時のこと。ゆめはある日から、鞭で叩かれたような跡をつけて、学校に来るようになったよな」


 白銀ゆめは答えない。


「あれは、誰に叩かれていたんだ? ゆめの家族の誰かか?」


 白銀ゆめは答えない。


「あれ、うらやましかったんだよ。いつか、オレもゆめを鞭打ってやりたいと、あれからずーっと思っていた。とりあえず、いま、その願いを成就することにするわ」

 

 そう言ってオレは、縄をしならせて白銀ゆめを叩く。

 ビシィッ!という音とともに白銀ゆめは「くっ」と声を上げる。

 叩かれたところは赤くなり、血がにじんでいた。

 

「あっはっは。かーわいい悲鳴だな。これを聞きたかったんだよ、オレは」

 そう言いながら、さらに強く、縄で白銀ゆめを叩く。

 白銀ゆめは懸命に口を閉じていたようだが、やはり「くぅっ」と声を上げる。

 

「あっはっはっは。情けない声を上げちゃって」

 白銀ゆめは答えない。

 

 白銀ゆめを鞭打つことで、ここまでの快楽を得られるとは。

 ああ、楽しい。

 人生って楽しいなぁ。

 生きてるって最高だぁ。

 

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