第35話 あはははは。面白い
オレの目の前で、白銀ゆめがもだえ、あえいでいる。
オレが白銀ゆめを閉じ込めた魔法の部屋は、すでに現実世界ではありえないほどの高温になっている。
裸になって土下座すれば許してやるというオレの提案を、白銀ゆめは決して受け入れようとしない。だが、それでもいい。こうして悶え苦しむ白銀ゆめの姿が、オレにとっては最高の見世物なのだ。
しかも、その見世物を楽しんでいるだけで、勝手に白銀ゆめは弱っていく。オレに反抗する力を、身体からも、心からも奪う。そうしたら……後はさらなるお楽しみの時間だ。
「……蟹江……君」
この期におよんでも、白銀ゆめはオレを君づけで呼ぶ。律儀というかなんというか。
「なんだい? ゆめ」
「く……」
下の名前で呼ばれたことで、悔しそうな表情を浮かべる。それがオレを喜ばせることも分かっていないようだ。
「君が……こんなこと……を、するのは、……私が、はじめてなの?」
「こんなことって、どんなことかな? みじめに捕まって、手も足も出ないまま嬲られること?」
「……私のことは、いい……。他の、人にも、やったの?」
「やったよ」
オレが言った瞬間、白銀ゆめの眼光に鋭さがよみがえる。今にもオレを殺しそうな目。おおお、怖い怖い。
「やったの!? ……同じ、ことを?」
「ああ。3人な。動物でいろいろ実験した後、やはり人体実験をしたくなってね」
白銀ゆめの眼光がさらに鋭さをます。ほとんど猛禽類みたいだ。これは楽しい。もっと話をしてあげるしかあるまい。
「一人目は知らない女性だった。たぶん女子大生くらいだと思うけど、ほら、オートロックマンションの高層階の窓ってさぁ、さすがにカギを閉めない人が多いんだよね。オレは縄で自在に登れるから、深夜に忍び込んでね。あの子、驚いていたなぁ。目を覚ましたら全身縄で縛られて、身動きとれないんだからね」
白銀ゆめは怒りによるものであろう、かすかに身体を震わせている。人間、他人のことでもこんなに怒れるものなのかと、オレは妙に感心する。
そういえば、昔から妙に正義感が強いやつだったよな。相手が先生でも、おかしいと思ったら指摘するタイプだった。
もっとじっくりいたぶった方がいいかもしれない。
オレは一人目のその後のことは後回しにし、二人目の説明を前倒しする。
「二人目は中学校の同級生さ。クラスは同じになったことがないんだけどね。同学年で一番可愛いって人気だったんだ。小学校は学区が違ったけど、中学は学区が多少変わるからさ、そこで一緒になったんだよね」
白銀ゆめの表情を観察しながら、オレは先を続ける。
「ゆめも小学四年で引っ越さなかったら、同級生になれたはずだな。そうしたらどちらが人気だったかね。さすがにゆめが一番人気だっただろうけど、けっこういい勝負だったんじゃないかな。放課後、体育館の片づけを最後までやって帰る子だったから、そこを狙ったんだ。体育館の倉庫内に魔法で閉じ込めて、それから朝までひと晩中……」
白銀ゆめの身体の震えはさらに大きくなる。
灼熱地獄の中で滝のような汗をかきながら、身体を震わせる美少女。あはははは。面白い。
「さて、三人目。小学校時代は目立った美人じゃなかったけどさ、中学ではトップ5くらいに入る可愛さになった子がいてね。その子は両親とも遅くまで帰らない子だったからさ、一軒家の窓から侵入して、それから夜までね……」
ゆめの怒りの表情に、少しだけ戸惑いの色が見える。
そりゃそうだ。自分がかつて通った小学校の誰かが被害者なのだから。
教えたあげたら面白そうだ。
「ほら、覚えているかなぁ、ゆめも仲良くしていたみどりちゃん」
その瞬間、白銀ゆめが跳躍する。一瞬にしてオレの目の前に殺到する。そして巨大化しながら、巨大な鉤爪を何度も振りまわす。
とんでもないド迫力だ。
しかし、攻撃は一切オレに届かない。すべて、オレの作った魔法の壁に跳ね返されてしまう。凄いな、オレの魔法。
何度も何度も鉤爪を振り回し続けたゆめは、突然ふらつき、そして倒れる。
そりゃそうだ。じっとしているだけでも気を失いそうなくらい、極限の熱さの中にいるのだから。
仰向けにぶっ倒れた白銀ゆめは、そのまま巨大化していた身体がしゅるしゅると小さくなり、元の大きさに戻る。鉤爪も消えてしまう。
疲労しすぎると、なぜか魔法も使えなくなる。オレもいろいろ実験してみて、そうだった。
縄で縛り上げたいところだが、残念ながら縄を操る魔法は同じ空間にいないと使えない。オレの魔法の部屋は、壁を隔てたすべての魔法を遮ることができる。オレ自身の魔法でさえ例外ではない。
つまり、白銀ゆめを縛り上げるためには、今のようにオレと白銀ゆめが違う部屋にいる状態を解除し、白銀ゆめと同じ部屋に入らねばならないのだ。
オレは白銀ゆめをよーく観察する。
流石に死んではいない。胸が上下しているからだ。しかしまぶたは閉じられ、口は半開き、身体は大の字のままピクリとも動かない。
そもそも、さっきのように動けたこと自体が信じられない。他の女たちはもっと早く動けなくなっていたのだ。
同じ部屋に入りたい。入って白銀ゆめを縛り上げたい。……だが。さっき、時計のようなものを出していたことが気になる。
あれはどんな魔法だったのだろうか。時を操る魔法だったとしたら……。一度きりの魔法だったとしたら、あそこで一度使って不発だった、ってことなんだろうが。
まあ、せっかくここまで追い込んだのだ。
焦らず、もっともっと徹底的に白銀ゆめをボロボロにいたぶろう。
「じゃあゆめ、これから、オレが三人をどのように嬲りぬいたのかを、じっくりと詳細に教えてあげよう」
「や、やめろ……」
力ない声で白銀ゆめが言う。
「だったら早く裸になれよ。そうしたら、ゆめはお気に入りだし、殺さないでやるかもしれないぞ」
白銀ゆめが肘で支えながら上半身を起こす。
「……今、なんて言った……?」
「ん?」
「『は』、……って、どういう、ことだ」
あーあー。白銀ゆめ、ついに口調まで殺伐としてきちゃったぞ。超面白い。
「ああ。なんだ今さら。そんなことか。最初の女子大生はともかく、他の二人は同級生なんだからさあ。オレだって気づかれないのは不可能だよね」
オレはわざと大きく爽やかに微笑む。
「そりゃあ最後は殺すでしょ」
この章のラストで、この物語を完結させようと思っております。
ここまで読んできてくださった皆様、まことにありがとうございます。
章のラストまで、まだ話数はけっこう必要そうですが、とにかく最後までしっかりと書ききります。
今しばらくのお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。




