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第33話 オレの素敵なキレイなおもちゃ

「蟹江くん。君がこんなことをするなんて残念です」

 白銀ゆめがオレのことをにらんでくる。

 

 怖そうな顔も、やはり、とっても美しい。

 それがこれから泣きわめき、許しを請い、ひざまずくようになるのだ。なんという素晴らしいエンターテインメント!

 

「くくくくく。いやぁ、こんなに簡単に引っかかってくれるとはね」

「私は、あなたと話しに来ただけです」

「そうだな。オレと話すためにのこのこ一人でやってきて、こうして捕まったわけだ」

 

 白銀ゆめは、オレと会話をしながら、オレたち二人がいるこの部屋全体を覆う、水色の光をいぶかしげに観察している。

 しかし、その目に恐怖の色はない。あくまでも反撃の準備をするための、観察だ。よほど自分の能力に自信があるのだろう。

 

 オレに軽蔑けいべつの眼差しを向けたまま、白銀が口を開く。

「テニス部の部室を水浸しにしたのは、君なの?」

「そうさ。ゆめたちの高校の制服をネットオークションで買って、陸上部の部室に忍び込んだらさ、いきなりドアががちゃがちゃいいだしてね。あれは焦ったなぁ。その時間は誰も来ないはずだったのに。だから隣の部屋を魔法で水浸しにし、そっちに注意を向けさせて、その隙に逃げたのさ」

「……推理どおりね」

「おお、そうなんだ。見抜かれていたか」

 

 白銀ゆめはニヤリと笑う。

「SNSに私と秋葉野くんの写真を載せたのも、あなたでしょ」

「あれは失敗したね。かえって二人の仲をよくしちゃったみたいで。慌てて消したよ。他に質問はあるかい? 時間はあるんだ。何でも答えてやるよ」

「私に今日、一人でここに来るようにっていうメール。あれは陸部の部室で、私の個人情報を抜き取って送ったの?」

「それも正解。さすが。ゆめは昔から頭がよかったからね」

 

 白銀ゆめがこちらをにらむ。思わず足がすくむような、暴力的な眼光。

 オレを容赦なくボコボコにした、あの女の本性がそのままあらわれていた。


「私を『ゆめ』と呼ばないでください。単なる元クラスメートなんですから」

「まあそう言うなよ。じきに、オレにすべてをさらけ出すようになるのだから」

 

 白銀ゆめはこちらに軽蔑の眼差しを向けたまま、携帯電話を取り出す。

 しかし圏外であることに気づいたようだ。


「気づいたかい? このオレたちの周りを囲っている青い光。これは防壁なのさ。携帯の電波は完全シャットアウト。いや、光や声や、あらゆるものを完全にさえぎるのさ。オレだけは出入り自由で自在に操れるけどね」

 白銀ゆめの目に、わずかな動揺の色が見える。

「……チェシャ? ……チェシャ?」

「あはははは。チェシャって、君がかつて、肩にのっけて歩いていた猫のことかい?」

 

 白銀ゆめは唇をかみしめている。


 おそらくなんらかの魔法が効かなかったのだろう。俺自身の魔法でも確かめたが、オレの部屋の壁面は、どうやら魔法をも通さないようなのだ。


 白銀ゆめは突然、手の中に時計のようなものを現出させる。なんだあれは?

 しかし効果がなかったようだ。

 白銀ゆめが舌打ちをする。

 

「舌打ちとは、お行儀が悪いなぁ。オレの素敵なキレイなおもちゃに、しつけをしなければいけないねぇ」

 オレは魔法を使って、長くて太い縄を一本、空中に現出させる。

 そして、それを白銀ゆめに全力でそれを叩きつける。

 縄はムチのようにしなり、白銀ゆめをしたたかに打ちつける……はずだった。

 白銀ゆめは回転しながら縄の打撃をよけていた。

 

「わーお、さすがは、ゆめ。素晴らしい運動神経だね」

「だから、ゆめと呼ばないでください」

 白銀ゆめから発せられたとは思えない、怒気を含んだ恐ろしい声。

 

「じゃあ、こうしたらどうかな」

 俺はムチとして使う縄を空中に現出させる。

 二本目、三本目、四本目、五本目。手を使わずに自由に使える縄だからいくらでも現出させられるのだが、過去の経験から魔力には限界があるようだ。とりあえず五本もあればよけられまい。

 

 五本の縄が、四方から白銀ゆめの身体に迫る。前後左右から迫る縄に、さすがの白銀ゆめもよけきれないと判断したようだ。そのまま縄が身体に当たって……いや。

 

蟹江かにえくん。こういう縄の使い方、ずいぶん手慣れた感じですね?」

 縄たちは白銀ゆめの身体に到達する直前、切り刻まれていた。

 白銀ゆめの両手には、恐ろしく長くて、鋭い鉤爪かぎづめが光っている。あんな能力も持っていたのか。

「蟹江くん。もしかして私以外にも、こういうことやりました?」

 

 おおおお、眼光が怖い怖い。

「やったと言ったら?」

「やったかどうか、答えなさい」

「やったよ」

 

 その一言を言い終えるか否かの瞬間、白銀ゆめの足が、巨大な足がオレに迫ってきた。

 圧倒的な衝撃!!!

 が、叩きつけられる。オレの目の前にある壁に。

 

 オレの目の前には、巨大化した白銀ゆめがいた。しかし、その顔は驚きに包まれている。


「うっはー! あっぶなかったなぁ。巨大化しながらのとび蹴りとか、当たったらオレ大ケガしてたかもしれないよ。あの日以上の大ケガを」

「……これは?」

「ああ。簡単なことさ。二人がいる魔法の部屋の中に、さらにもう一つ、オレだけを包み込む魔法の部屋を作ったのさ。言っただろ? あらゆるものをさえぎるって。もちろん打撃もさ。あ、声だけは通すように調整してあるけどね」


 白銀ゆめがオレを睨みつけながら……しかし、狼狽ろうばいに近い焦りの表情が混じりだすのを、オレは見逃さなかった。

「あっはっはっはっは! 君はいろいろ凄い魔法を使えるようだけど、オレの魔法の部屋に入っちゃったら、もう勝ち目はないのさ」

 

 白銀ゆめは唇をかみしめながら、体を元の大きさに戻す。しかし、両手の鉤爪は現出したままだ。

 

「くそ生意気なゆめの身体を、無理やり縄で縛り上げたかったんだけどなぁ。まあ、それはとりあえずあきらめるよ。もうちょっと弱ってから縛り上げることにするわ」

「この、変態」

「わーお、最高の褒め言葉だね。一緒に『オペラ座の怪人』やら『パノラマ島奇譚』やらを読んだ中じゃないか。ちなみにこの部屋、オレが、温度を自由にできるんだよね。意味わかる? ふふふ……」

 

 オレは、白銀ゆめを閉じ込めた魔法の部屋だけ、ガンガン温度を上げていく。

 白銀ゆめはあっという間に滝のような汗を流し、制服が汗で張り付いていく。

 はぁはぁと、悩ましげな呼吸音を上げるようにもなる。

 

「くっ……卑怯者」

「大丈夫。つらかったら雨を降らせてあげるから。とってもきれいでおいしい水をいくらでも用意してあげられるよ。でもね。条件がある」

 白銀ゆめは、条件がどんなものか、だいたい予想がついているのだろう。オレのことをただひたすら睨みつけている。

 

 オレは、そんな白銀ゆめに条件を宣告する。

「オレはあの日、ゆめに暴行を受けてすごく痛かったんだ。だから、それなりの謝罪をしてもらう必要がある。服をすべて脱げ。全裸になれ。そして、オレに土下座をしろ」

 

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