第16話 巨乳生徒会長と絶世の美少年(たぶん)
生徒会室の中には、異様な光景が広がっていた。
あぐらで座った、巨乳の女子生徒会長。
その両太ももには、美少年(?)の北条芳介と美少女の白銀さんが頬ずりをしている。
そして生徒会長は、そんな二人の頭をうっとりとした表情でなでまわしている。
おかしい。これは絶対におかしい。
「にゃにゃ! 大丈夫かにゃっ?!」その声とともに、中空から巨大な黒猫が姿を現す。
「おお! チェシャ!」
俺の呼びかけに返事をしないまま、チェシャ猫はじっと白銀さんの様子を見ている。
それから視線を俺の方に戻し、ニヤリと笑う。
「ご主人が状態異常になっていたから飛んできたんだがにゃ、まあ、この様子だと危険はなさそうにゃね」
「状態異常?」
「チャームの魔法にやられているにゃ」
「そ、そ、その黒豹、いったいなに?!」
巨乳生徒会長が本気で怖がっている。
俺は生徒会長を無視してチェシャ猫との会話を続ける。
「お前の姿が見えているってことは、生徒会長もなろう病なのか」
「セイトカイチョウ……? その胸の大きなメスかにゃ? それとも、ふとももに頬ずりしているオスかメスかよくわからない奴かにゃ? いずれにせよ、どっちもなろう病患者にゃ」
「白銀さんを状態異常にしているのは、二人のうちどっちだ?」
「明らかに胸の大きなメスのほうだにゃあ」
「どうすれば状態異常を解ける?」
チェシャは俺の質問に答えない。それどころか、瞳を紅く染めながら俺のことを凝視してくる。
「おおお、よく見るとそなた、新たな魔法が顕現しているにゃ。ランクA『ドゥルシネーア』、あらかじめ狂気で満たされた頭脳ゆえの精神攻撃一切無効、なかなか素晴らしい魔法だにゃあ」
「なるほど。だから俺だけ魔法にかからなかったのか。……っていうか、あらかじめ狂気で満たされた頭脳ってどういうことだよ」
「にゃ、それはおいておくとして、『ドゥルシネーア』には、周囲を巻き込む力もあるにゃ。相手の両目をみつめながら頭部をくっつければ、精神攻撃による状態異常をすべて無効化できるにゃ」
「なるほど。相手の両目をみつめながら頭部をくっつければいいわけか……。ん? 具体的にはどうすればいいんだよ」
「だから言った通りにゃ。両目を見つめながら頭部をくっつけるにゃ。まあ、見つめながらとなると、おでことおでこをくっつけることになるにゃね」
「……めっちゃハードル高くね? ……いやもう、わかった。やるしかないな」
幸い、生徒会長はチェシャにビビッて無防備だ。白銀さんと北条芳介は完全にふぬけている。
俺はまず白銀さんの両目を見つめながらおでこをくっつける。
「あ、あれ? 私、なんでこんな恥ずかしいことを……!」
白銀さんが取り乱しながら、慌てて立ち上がる。
そのまま北条芳介にも、両目を見つめながらおでこをくっつける。
「うわぁぁぁぁ。僕は、いったいなんてことを……!」
そう叫びながら北条芳介も立ち上がる。顔を真っ赤にしながら両手で頭を抱えている。
ただ一人、生徒会長だけが呆けた顔でぼんやり座ったままだ。
「あれ……どういうこと……?」
俺は生徒会長に詰め寄る。
「この魔法、意図的にかけていたのか?」
「え……? 魔法……?」
生徒会長は呆然とアホみたいな表情をしている。
明らかに、魔法のことなど知らない表情だ。
悪意を持って攻撃してきたわけではないのだろう。
とりあえず追加で状態異常をかけられそうな感じはなかったので、俺は白銀さんの方にかけよる。
白銀さんはチェシャの大きい舌でベロベロとなめられている。
「いや、ちょっと、チェシャの舌ってざらざらしていて痛いのよ」
「あ、ご、ごめんにゃ」
「うふふふ、チェシャ、そして秋葉野くん、助けてくれてありがとう……ちょっと恥ずかしい解除方法だったけど」
「……俺が決めた設定じゃないからな、俺だって恥ずかしいんだ」
とにもかくにも、Aランクの魔法が使えるようになったのは嬉しい。
白銀さんとの「魔法格差」をひそかにコンプレックスに思っていたが、俺の方が精神攻撃の状態異常にかからないのであれば、俺も役に立てる局面があるのかもしれない。
悲惨なのは、北条芳介だった。
先ほどまでのように叫び声は上げていないが、そのまま床に這いつくばるように頭をかかえて何やらぶつぶつ言っている。
状態異常になっている間、よっぽど色々あったらしい。大丈夫だろうか……。
生徒会長がおずおずと立ち上がって北条芳介に近づく。
「ねえ、芳ちゃん、どうしたの……?」
「いや、どうしたもこうしたも! 僕たちがこれまでやってきたことを思い出して、何も思わないのか?」
「保ちゃんが私にべたべた甘えてきてくれて、私はとっても嬉しかったのよ?」
「べたべたってレベルじゃないだろう?! 高校生にもなって一緒の布団で寝たり一緒にお風呂入ったりって!」
俺は思わず二人がお風呂に入っているところを想像してしまう。
「ちょっとそこの君! 君もいちいち破廉恥なことを想像しない!! あと、なんで毎回僕の体が女性の体なんだ!!……いやいや、だからといって男の体で想像しろって言ってるわけじゃないんだ! 想像すること自体をやめたまえ!」
北条芳介がまた顔を真っ赤に染めながらこちらを指さして色々言ってくる。
両頬には涙の跡がついている。なんとも色っぽい、嗜虐心をくすぐるような表情だった。
まあ、どのくらいの期間状態異常にかかっていたのかは知らないが、よっぽど色々あったのだろうな。
生徒会長は北条芳介が心底嫌がっているのを理解していないのか、それとも現実を受け入れたくないのか、「そんな嫌そうな顔をしないでよー」と近づいていって……激しく投げ飛ばされていた。
北条芳介、柔術の心得があるっぽい。
チェシャが目を紅くしながら喜びの声を上げる。「おお、『格闘能力補正』、Dランク魔法にゃ」
チェシャ猫は白銀さんの方に向き直り、ニヤニヤしながら口を開く。
「にゃあああ。これはもう、このオスとメスに『なろう病』や『魔法』のことを教えてやった方がいいんじゃないかにゃ」
白銀さんは腕組みをしてなにやら考え込んでいるようだ。そして笑顔を浮かべる。ちょっと悪そうな笑顔。
「ねぇチェシャ、秋葉野くんの『ドゥルシネーア』は、どれだけの期間状態異常を無効化するの?」
「期間はとりあえず一日にゃ。その後は、再度かけられたら再び状態異常になるにゃ。チャームの魔法の射程距離は半径1メートルくらいにゃね」
「なるほど。じゃあ生徒会長と日頃は接点のない私はともかく、姉と弟である北条芳介くんは、明日になればまた状態異常にかかっちゃうんですね」
「そうそう。さっきまでの状態に戻っちゃうにゃ」
「え? 戻っちゃうの?」
生徒会長が晴れ晴れとした笑顔を見せる。
「いや、それは勘弁してくれたまえ!」
北条芳介は逆に、こちらをキッとにらみつけてくる。
白銀さんは二人の反応にまったく反応を見せず、チェシャとの会話を続ける。
「それにもしかして、その状態で『栄光の左腕』を北条くんの頭に5秒間置き続けると、永久に状態異常のままになっちゃうんじゃないですか?」
「たしかににゃあ。やってみなければわからにゃいが、その可能性が高いにゃ」
「……ということは、北条くんと生徒会長の今後は、秋葉野くんが自由に操れるということですよね?」
「そ……そう言われればそうかもにゃあ」
白銀さんがニコリ、と満面の笑みで生徒会長と北条芳介の方に近づいていく。
「私、他人の善意を心の底から信じるタイプの人間なんです。お二人は悪い人ではなさそうですし、もし秋葉野くんの許しが得られるのなら、是非お二人に私たちの仲間になっていただきたいんですけど」
「……君、なかなか脅迫が上手じゃないか」
北条芳介が心底嫌そうな表情をする。
白銀さんは、満面の笑みを浮かべる。
「うふふふ。だって、先に脅迫してきたのは、そちらですからね」




