第10話 井の頭公園と血に飢えたサイコパスとパンツ
「じゃあまずは、私のとっておきの魔法、『白の女王』を見せてあげましょう! Sランク魔法ですよ」
そう言って白銀さんが右手を広げると、そこに半透明の小さな時計が現れる。半透明の鎖もついており、明らかに懐中時計だ。
白銀さんは僕にそれを見せつけてから、その時計についているスイッチを押す。
……が、とくに何かが起こる様子はない。
「なんの効果もないじゃないか、って顔をしていますね。大丈夫。後でわかりますよ」
そういうと、白銀さんは半透明の時計を握り、再び手を開く。そこにはもう時計はなかった。
「準備はできたんで、妖精さんに気づかないふりをしながら、二人で挟み込みましょう!」
白銀さんはわざとらしく口笛を吹きながら、妖精の近くに歩いていく。
仕方がないので俺も、妖精を包囲するべく白銀さんの反対側から回り込む。
しかし、端の方とはいえ、さすがは井の頭公園。このあたりにもけっこう人がいる。
あんまりドタバタやると不審がられると思うんだけど……。
二人でしっかり挟み込んだ瞬間、白銀さんが突然両手を伸ばして妖精をつかもうとする。
しかし、妖精は素早い身のこなしでそれをよける。
俺は両手を広げて退路を塞ぐが、妖精はそのまま空高く上昇していく。
あらら、飛ばれたらさすがにどうしようもないよな……。
とあきらめた瞬間、突然、僕の対面にいる白銀さんが、みるみる上へと伸びていった。
最初は高くジャンプしたのかと思った。だが違う。身長が伸びている……いや、巨大化しているのだ。
そして、白銀さんは、大きな右手の手のひらの中に、見事に妖精を捕獲した。
そこまでは見えたのだが、すぐに俺の視界はさえぎられてしまった。
なぜなら、見上げる俺の視線の先には、巨大な白いパンツと、巨大なムチムチ太ももしか見えなくなったからだ。
巨大化する白銀さんに合わせてなぜか服まで巨大化したのだが(物理的には服が破裂して裸になるべきだと思うのだが、まあ、魔法だからな)、どうやら俺はその巨大なスカートの下にすっぽり埋もれてしまったらしい。
「えへへへ、妖精さん捕まえましたよ! あれ、秋葉野くん? どこ?」
そう言って白銀さんは足をちょこちょこ動かす。できればこのままパンツと太ももが動く様子を眺めたいところだが、足で踏み潰されそうでマジで危ない。
「待て待て! 足元にいるんだ!」
「え、ちょっと!」
白銀さんは叫び声をあげ、その体が一気に小さくなる。
「あっ」
俺が足元にいる状態で急激に小さくなったら……猛烈なスピードで迫ってくる白銀さんのお尻が俺の顔面にヒットし、そのまま俺を押しつぶす。
俺はそのまま地面の上にあおむけに押し倒され、その上に白銀さんのお尻が乗っかった。
今度はお尻か……。
「痛ってー!」
おそらく、守備力補正とかいうCランク魔法がなければ首の骨が折れていただろう。
「ご、ごめ……ていうか、なんでパンツ覗いてんですか!」
「ててて……いやだって普通、巨大化するなんて思わないだろうが」
でも、今はそれどころではない。
周囲を見回すと、公園中の人々が驚愕の表情でこっちを見ている。さらに、何人もの人々が悲鳴を上げて逃げていく。完全にパニック状態だ。
「やばいだろ、これ」
そう言って白銀さんの顔を見ると、
白銀さんは顔を真っ赤にしながら頬を膨らましている。
「ごめんなさいって言ってください」
「今はそれどころじゃ」
「言ってください」
「でも俺悪くないじゃん」
「言ってください」
よく見ると、白銀さんの両目はうるうるしている。
「……ごめんなさい」
「もう。次は踏み潰しますからね」
白銀さんは、妖精をつかんだままの右手を空に向かって突き上げる。
「まぶしいので、目を瞑ってください。……『赤の王』!」
すると右手の中から強烈な光があふれだす。
まぶしいってレベルではない。慌ててまぶたを閉じても、まぶた越しに光が侵入してくる。




