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94608000…94607999…94607998…

作者: 明時菜前

タイマーがある


今、私の目の前に、タイマーがある


タイマーが、あるのだ




親族全員が集まり、そのタイマーの前に座っている




タイマーが、残り5分のカウントダウンを始めた








「では…そろそろですので…皆様は部屋から出て外でお待ち下さい…祖母の遺言の通りここから先は、私独りだけで見届ける事となります…」







そのタイマーは、ばあちゃんの遺言書によって発見された



遺言の中にあった一文

「箪笥の中にタイマーがありますが、それはとても大切な物です。タイマーはカウントダウンを続けているはずですが、そのカウントダウンが終わるのを必ず見届けて下さい。そして、カウントダウンが終わる瞬間を見届けるのは、孫の菜前(私の名前)だけと約束して下さい。そこから先をどうするのかは、菜前に全て任せます」




ばあちゃんは3年前に亡くなったので、このタイマーは少なくとも26280時間…いや、分秒のカウントダウンを刻むタイマーなので1576800分をカウントダウンしていた事になる




どんな化け物タイマーだよ、ばあちゃん…

ばあちゃんが「電気は!電気だけは切らせるな!」と生前やかましく言っていたのは、このタイマーの電源を絶対に切らせない為だったんだね…




そのせいで、ソーラー発電だのなんだのでとてつもない費用を使い、この家は「絶対に停電しない家」となったんだね…

雪の日なんかは一家総出で雪を排除して、発電機をフル稼働させて、とにかく電気を絶やさない様勤めて来たのも、ばあちゃんが異常に停電を恐れたからだ




ばあちゃんは、自分の部屋に絶対に人を入れなかった

多分、このタイマーの存在を知られ無い為だったのだろう




そこまでして、ばあちゃんは一体何を、この「タイマー」に遺したのだろうか?




ばあちゃんが亡くなり遺言を読んだあの日から、親族は3年間、タイマーを「絶対的遺物」として守り続けて来た

雨の日も嵐の日も雪の日も、そしてあの「大地震」の日も、決して「電気を止めてはならない」と









本当に辛かったよ、ばあちゃん…


大変だったよ、ばあちゃん…





でも、それがもう、報われる!




残り1分




30秒…




ばあちゃん、ばあちゃん…




あなたが「遺した」のは…











3秒…


2…


1…









カチャンッ!




「うお!キタ!」



タイマーは小型金庫くらいの大きさの箱

その箱の真ん中から、スイ〜っと一段がスライドした




キタキタキタキタキタキタ…!!!



中に紙が入っている!





「手紙…だな…」




胸が熱い…いや、苦しい…変な汗が止まらない

ばあちゃん…

ばあちゃん…















ああ…ばあちゃん…ばあちゃん…ばあちゃん…

確かにそれは、手紙だった

読みながら、涙が止まらなくて、苦しくて、切なくて…

馬鹿野郎、馬鹿野郎って…

ばあちゃんだから野郎じゃないけど、馬鹿野郎って…




そんな事言うなよ、ばあちゃん



嘘だろ、ばあちゃん…




親族皆で、この日を待って、そして迎えたのに…
















『菜前、私の遺言の通り、あなたがコレを読んでくれている事を心から願います。あなたはユーモアのかたまりの様な子で、いつも「面白い事の為に生きている」と言っていましたね。素晴らしい事です。だから菜前、あなたに読んでほしかったのです。私も面白い事が大好きだから!

あらいけない、本題を書かなくてはね

あのね、何年待たせたか分からないけど、最近ばあちゃんも体が弱ってしまったし、そろそろお医者様の所よね

タイマーの設定時間ちょっと長めにしたから、3年か4年くらい待たせてしまったかもね。ごめんね

菜前ちゃん。怒らないで下さい

このタイマーの意味、何も無いの(笑

このタイマー本当凄くて、何十年でもカウントダウン出来るらしくて。じいちゃんが戦争のどさくさで何処からか手に入れたらしいんだけどね

まぁ、それはどうでも良いんだけど、何年も前から「何かあるんじゃないか?」って、皆がこのタイマーを気にしてるのを想像するとおかしくておかしくて

息子ったら、本当生真面目でアレでしょ?何も面白くない子でしょ?

あんな息子から、あなたみたいな子が生まれて来てくれて、私とても嬉しくてね

ごめんね、菜前ちゃん

このタイマーがゼロになっても何も起こりません

ばあちゃんも、何かを遺していたりもしません

敢えて言うなら、楽しみを遺してました

この後菜前ちゃんが、静まり返った家の中、集まった親族に何を言うのか?何を伝えるのか?

そしてこのタイマーをどうするのか?

それを考えるだけで、毎日が楽しかったです

ありがとう、菜前ちゃん

本当にごめんね

こーゆーの悪ノリって言うのよね(爆

後は任せますよ(笑

天国で眺めながら笑っています

あー、お腹痛い』






膝から崩れ落ちる私

いや、座って読んでいたので、正しくは腰から倒れ込む私



















嘘だろばあちゃん…

人を何人も何人も待たせて、考えさせて…悩ませて…




その辿り着いた先が「何も無い」って…「悪ノリって言うのよね(爆」じゃねーよ!





面白過ぎるだろ、ばあちゃん





しかし、これまでどれだけ我々遺族が、このタイマーに悩まされて来たのか

あの雪かきは?大地震の時、ガソリンを探し回り発電機の稼働を絶対に止めなかったあの苦労は?

そして、この瞬間の為に用意した紋付き袴の140万は?




ふつふつと湧き出る「怒り」




この部屋から出たら、私は質問責めという拷問を受ける事になる

どうやって切り返せと?

「何でも無いんだって!www」とか言える空気じゃねーからな!

親族全員が部屋の外で待ってるんだぞクソババア






しかし…だが…それでも…







ダメだ…分かるから

そーゆー空気、面白いの








孫まで騙して楽しむとは…




面白過ぎるだろ…ばあちゃん












ばあちゃんの手紙の下に、このタイマーの説明書が入っていた




その説明書の最後、ばあちゃんの手書きで『コレあげるから、遊びなさい。本当にごめんね。でも、生きる事楽しむのってこーゆー事よ』












地獄に落ちろクソババア!













などと物騒な言動を発していた若き日を思い出しながら、私の病床に見舞いに来てくれた孫と、今は語らっている



私にも息子が出来たが、まーつまらんクソ真面目な息子で、奴と話していると気が滅入るので、ユーモアのかたまりの様な孫との語らいは欠かせない私の楽しみなのだ



もちろん、私の書いた遺言書により、この孫は、あの時の私と同じ体験をする事になる





「どうするのかなぁ?こいつ(笑」



『ね?草はえるでしょ?www』



枕元に立つばあちゃんは、そう言って笑う

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