第1話 俺の日常
日常。
この言葉を聞くとどんな意味として捉えるだろうか。
何事もない平和な日々?
変化のない日々?
当たり前の日々?
人によってはそれぞれ違うだろう。
当たり前の話だ、人それぞれなのだから。
少なくとも全体的なイメージとしては"普通の日々"なのではないだろうか。
もしもそんな日常を突然崩されたら人は一体どんな反応をするのだろうか———
◇◆◇◆
『なー、聞いたか?またあの連続放火魔が出たってよ』
学生服をだらしなく着て携帯でニュースを見ながら喋るこの男の名前は[鹿森大我]俺の数少ない友人だ。
数少ない……悲しい響きだが事実である。
俺はどうにも表情が無表情というか近寄りがたい表情をしているらしい。
らしい、というのは他人から見た印象だからだ。
俺自身それについては正直自覚がないのだ。
近寄りがたいと思われても俺だって好きでこんな表情をしているのではないから困る。
一々周りに気を配って表情を作るぐらいなら友達なんていらない。
元々1人で本を読むのが好きなのだから煩い奴が近寄らなくて助かる。
……大我はお喋りでちょくちょく読書の邪魔をしてくるが。
『まだ捕まってなかったのか放火魔』
俺は小説を読みながら言葉を返す。
『これでもう10件目だってよ。14区でしか起きてないみたいだしそろそろ捕まってもいい頃だと思うんだけどなー』
『よっぽど頭が切れる奴なのか警察が無能かのどっちかだな』
『おーおー、手厳しいねぇ』
大我は茶化すように笑いながら購買でかったカレーパンにかぶりつく。
どうやら最近マイブームが来てるらしくここ数日はいつも食べてるようだ。
『だって「異端者」じゃないんだろ?普通の人間なら警察の管轄なんだから警察次第としか言いようがないだろ』
ここで俺が口にした「異端者」とは特別な意味がある。
端的に説明すると人とかけ離れた存在を指す言葉である。
化学では証明出来ない事が世の中にはある。
都市伝説、超能力、妖怪。
誰もが一度は耳にした事のあるメジャーなワードだろう。
ここではこれが常識として通用するのだ。
先程人とかけ離れた存在と説明したが「異端者」の7割は人間である。
だが「異端者」はそもそも人間扱いされない。
人に害なす化け物と見られ、人権すらなく、ここで生きることは困難なのだ。
そこで政府はとあるプロジェクトを始動させた。
表向きは美辞麗句で埋め尽くされていたが要は隔離してしまおうという話だ。
その「異端者」の為だけに国が1つ用意された。
海に囲まれた小さな国、そこに「異端者」が隔離する為の国がある。
これは歴史の教科書にも普通に載っている常識なのだ。
『そうらしいんだけどここまでくると犯人は「異端者」なんじゃないかってネットで騒がれてるんだよな』
『ふん、少しでも騒がれたら全部「異端者」扱いだからな。これじゃ才能を持った奴は全員「異端者」扱いされる日がきっと来るよ』
『あー、それは俺も考えたことあるぜ。あれだろ?めちゃくちゃ頭が良い奴がいたら絶対「異端者」だ!
ってなると思うんだ』
カレーパンを食い終わった大我は買い物袋にゴミを入れると買い物袋をリュックに突っ込む。
俺は小説に栞を挟んで閉じる。
『そろそろ帰るか』
『おう!』
小説を机の中にしまってリュックを背負う。
黒板の上に掛けてある時計を見ると時刻はもう18時を過ぎていた。
◇◆◇◆
この時間帯だともう街灯に明かりが灯っており、道路を点々と照らしていた。
『お前今日どこで寝るんだ?』
歩道を歩きながら大我は俺にそんな事を聞いてきた。
『んー、この後用事あるし今日は事務所で寝るよ』
『あんまし夜遅くまで起きてんじゃねえぞ?お前いっつも眠そうだから』
『毎回授業で寝てるお前が言うか?まともに起きてるの現代社会ぐらいしか見たことないんだけど』
『あの先生は怒るとおっかねぇからな』
にしし、と大我は笑う。
そのまま十字路で大我とは別れた。
途中まで帰り道が一緒なのでいつもここまで一緒に帰っているのだ。
『じゃあなー。明日金曜日だから頑張ろうぜ』
『おう!お前も仕事頑張れよ!』
大我に手を振ると十字路で右に曲がりそのまま道なりに歩く。
数分程歩くと古びた建物が喫茶店の隣に建っていた。
かなり年季の入った建物だ。
二階建てで看板が二階窓の下に掛けられている。
看板には東雲事務所と書かれていた。
ポケットから鍵を取り出してドアの鍵穴に差し込む。
ガチリと簡素な音が響いてドアノブを回してドアを開ける。
玄関には何もなくそこに俺は靴を脱いで適当に置いておく。
そう、ここには俺しかいない。
ちなみに紹介し忘れていたが、俺の名前は[東雲風雅]、高校生兼萬屋だ。