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生活の美しさ

作者: かみひとえ

 花を美しいと感じるのはそれを感じる人の心が美しいからであると、僕の通っていた中学校の美術の先生は云ってくれた。

 そういう意味では、僕も美しい人間であると改めて自覚することが出来た。

 そう思えた経緯を記そうと思う。


 大学のサークルの部室から、大学内に置かれているコンビニへと足を運んだ時の事。

 僕の所属しているサークルの部室は二階の一番外階段に近い場所にあり、その外階段から地上へ降りるため、コンビニへ向かう際は端から部室棟をなぞるように通る事になる。

 つまり、コンビニへ向かう最中、一階の部室の様子を必然的に外から覗く事になる。

 僕がコンビニへ向かった刻にはもう夕暮れで、部室の灯りも点いており、尚更、中の様子を簡単に知ることが出来た。普段から周囲の観察が癖になっている僕の目は無意識に、その窓枠によって切り取られた生活へと運ばれた。

 金管楽器を数人で演奏している生活、二人ただひたすらに語らっている生活。同じ間取の、同じ大学生が営んでいるものなのに、色々を見せていた。本がひたすらに納められていたりとか、トロフィーが幾つも飾られていたりとか、各々が様々な様相を見せていた。


 ふと、ある一室が僕の目に止まった。他人の生活を覗く事はあまり誉められたことではない。それを察知した僕は歩みを止めなかった。だが、その光景は鋭く角膜に焼き付いた。

 一人の女学生が窓に背を向けるようにパイプ椅子に座っていた。恐らく二年生だろう。そしてもう一人男子生徒が立っている。彼女と同学年のように見えた。その生活はその二人で完成していた。男は神妙な顔つきで女学生を見つめていた。女学生の表情は見えなかったが、恐らくこの男以上に深刻な顔をしていた事だろう。

 女学生は何かを語っているようだった。男の方ではなく、ただ一点の空間を見つめて、夢を見ているように。男は殺人現場を見たように硬直している。予想を越えるものを見せつけられて、日常というマニュアルに書かれていない事態に遭遇して、思考が停止しているようだった。

 女学生の後ろ姿は寂しそうに見えた。また、哀しそうに見えた。男もそれと似たような表情をしている。神秘的な静寂と脆弱がその空間を支配していた。

 そして、男は表情を変えずに、そっと女学生を抱擁した。別のベクトルだが、彼女と同じようにただ一点の空間を見つめていた。それでも僕には、男はただ彼女一点を見つめているように見えた。

 女学生は、どうする訳でもなくただそこにじっとしていた。生命とはこういうものなのかもしれない。最上位の愛情とは、受け容れる事なのだ。ひたすらに、赦す。

 赦すとは、恐ろしく勇気の必要な好意で、そのキャパシティは人によって異なる。人格のように。誰一人として同じものはいない。だが、その人を知り、その人を解っていく事で、お互いに近づく事は出来る。僕は、恋愛とはそういうものだと思う。

 男の情動は真っ直ぐ彼女を見つめていた。彼女も一点の空間を見つめている中で、真っ直ぐに男を見つめていた。

 二人は赦しあったのだ。


 どうか、二人が永遠に結ばれますように。

 永遠なんてないのなら、せめて彼らが生きている内は。

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