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汚嬢様、怒りのジャーマンスープレックス。

 私は軽く助走をつけると嫌みったらしく豪華なドアに蹴りを入れた。

 勢いよくドアが開け放たれドスンと音を立てた。


「ぱーぱー。来ちゃったわーん♪」


 全員の視線が私に集まった。

 コスプレをした女の子がドアを蹴り開ければ、そりゃ注目はされる。

 だがそんなことは関係ない。

 私はここに勝負をしに来たのだ。

 賭け金は私の信用。

 それはもうデストロイしただろうが……気になどはせぬ!

 賞金は沙羅ちゃんだ。

 気を引き締めてかからねばならない。


「亜矢なんのようだ?」


 親父が私を睨み付けた。

 思春期の娘に親父の威厳など通じぬわ!


「会社に来たのですから会社の話ですわぁ」


 わざとらしいお嬢様言葉でおちょくる。


「この会社に重大な危機が迫ってますわ!」


「ほう話してみろ。だがもしふざけた話だったらお前は終わりだぞ」


 クソ親父が静かにキレる。

 ここまでは予定通り。


「ええわかってますわ。まず仲間沙羅さんの件で」


「それは誰だ?」


「武藤マテリアルの関西支社の仲間社長のお嬢さんですよ。大の大人が彼女に寄ってたかって嫌がらせしてますの」


「ふん。くだらない。社内の内紛だろう」


「あら、本当に? 中身も聞かずに断定できますの?」


 私はニコニコとしながら圧力をかける。


「修一。お前がついていながらなんだ」


「旦那様。正しいと思ったから私は手を貸しました。聞かないと後悔されますよ」


「言ってみろ」


「彼女は妊娠してますの。相手は白瀬乃恵瑠」


「……」


 ぴくりと親父の眉が上がる。

 やはりね。


「し、白瀬って言うのはあの白瀬か!」


 役員の一人が気がついたようだ。

 その横でバーコードハゲが青くなっていた。

 ああそうか。

 コイツは武藤マテリアルの社長だ。


「ええ。あの宇宙産業から発電所まで、加工技術を持った町工場、白瀬軽合金鋳造所ですわ」


「どういうことだね?」


「いえね。よくあるんですよ。町工場の弱みにつけ込んで技術よこせっていうやつ」


 キャバクラ調べ。


「それは違法ではないはずだが?」


「そう? んじゃ、高藤財閥への横流しと技術流出も?」


 にっこり。

 途端にバーコードハゲの顔が青くなる。


「……なにい? 亜矢、どういうことだ?」


 親父が凄む。

 私はニヤニヤが止まらない。


「な、なんの話だ?」


 バーコードハゲはこれでもまだシラを切る。

 でも顔は真っ青。

 自分がやりましたと言っているようなものだ。


「まずあなたは学園とパイプを持っていて、そこから得た情報を基に脅迫を繰り返してました。そしてあなたは沙羅ちゃんの妊娠を知り横流しを告発しないように仲間家を脅迫、同時に白瀬と交渉してやると恩を売って白瀬も脅迫した」


「しょ、証拠はあるのか!?」


 私はニヤニヤしながら書類を放り投げる。


「はい証拠。これが武藤マテリアル関西支社の横流しの証拠ですわ。巧妙に隠してますけどかなりのロスが出てますわね? それにこれはうちの学園の理事の口座への送金情報。横流しに気づいた仲間沙羅さんのお父様へ圧力をかけましたわね? おそらく同時に白瀬の技術も脅し取ろうとしたんじゃないかなあ? そりゃ、うちくらいの会社に『ぶっ潰してやる!』とか言われたら従うしかありませんわね。しかも二人を別れさせて両方に恩を売るなんてクズ以下のクズですわ!」


 私はバーコードハゲを指さした。

 さすが優秀な執事。

 素晴らしい調査能力だ。

 バーコードハゲの顔が青くなる。

 私はそれを見てぴしんと鞭で机を叩く。

 思えば裏のからくりはなんとも単純な話だった。

 沙羅ちゃんが狙われていたのではない。

 狙われていたのは白瀬だったのだ。

 最終的に沙羅ちゃんのお父さんは会社を追われたのだろう。

 そして沙羅ちゃんは帰るところがなくなったのだ。

 私は机の上に登るとバーコードハゲの前でしゃがんでネクタイをつかんだ。


「さてどうします? バーコードハゲのオ・ジ・サ・マ♪」


「くうう! すべて直接の証拠じゃない! 俺はなにもやってない!」


 ですよねー。

 そう言うと思ったわー♪

 私は笑顔のままバーコードハゲの頭頂部髪の毛をつまんだ。


「えい♪」


 ぷちぷちぷち。


「ひいいいいいいいいいいい! 髪の毛がああああああああああッ!」


「オ・ジ・サ・マ♪ 私は警察じゃな・い・の♪ わ・か・る?」


 ぷちぷちぷち。

 ついでに頭に鞭ぺしぺし。


「うわあああああああああああ! 髪の毛があああああああああ!」


 散乱する髪の毛。

 会議室にいた全員が私の暴挙に固唾を飲んだ。

 でもそんな空気は読まない!

 私は悶絶するバーコードハゲを無視して親父の方が向いた。


「お父様。もちろんそちらでも調べてくれますわね♪」


 私は聖母のように微笑みながら念を押した。

 あくまで私のは下調べだ。

 本調査が必要なのだ。

 だけど、なぜか親父は頭を抱えている。


「修一。俺はお前を息子のように思っている……それなのに……それなのに……どうしてこうなった!!!」


 ガチ泣き。


「汚嬢様がポンコツなのは決して私の責任ではありません」


 いや確かにそうだけどよ。

 言葉選べよ!


「ちょッ! お前ら酷え! 揃いも揃って『汚嬢様はワシが育てた』くらい言えないのか!」


 言えるかボケ。

 二人の絶対零度の視線はそう物語っていた。

 お前ら。今日のことは一生憶えているからな。

 そのツラ記憶したからな!

 あとで泣かせてやる!


「と、とにかくだ。このハゲに事情聴取しなきゃ! この時点で解決しないとマスコミにかぎつけられて会社が致命傷を負いますわ!」


 本心では会社なんてどうでもいい。

 一年後には潰れるのだ。

 こういうことの積み重ねで恨みを買ったのだろう。


「あ、ああ。そうだな」


 親父は案外素直だった。

 マスコミなんて金を積めば黙っているなんてほざいたら、動画投稿サイトに全部証拠をアップロードしてこんな会社葬ってやろうと思っていた。

 それをしなくていいのは楽だよね。

 でも反対側から見れば、事情聴取される方は死刑判決みたいなものだよね。


「ひいいいい!」


 逃げるバーコードハゲ。

 60歳を超えているというのに逃げ足が速い。


「おどりゃああああああ!!!」


 汚嬢様にあるまじき大声を出して私は会議室の机をぶん投げる。


「んぎゃああああああああああ!」


 机はバーコードハゲにヒット!

 バーコードハゲは悶絶する。


「逃げるってことは自白したも同然ですよね?」


 ぽきぽきぽきぽき。

 私は拳を鳴らす。

 うけけけけけけ!

 ざっつお仕置きターイム!


「ひいいいい! 来るな! 来るなあああああ!」


「WRYYYYYYYYYYYY!」


 私は某吸血鬼のごとくバーコードハゲに飛びかかる。

 まず残り少ない頭頂部にコミットする。


「ひいいいい! つかむな! つかまないでえええええええ!」


 プチプチとつかまれた頭頂部の毛が断末魔をあげる。

 もちろん私は容赦しない。


「NAMIHEIにしてくれる!」


「いやあああああああああああッ!」


 ひるんだバーコードハゲ。

 私は華麗な動きで背後へ回る。

 そして胴に腕を回すと、


「おどりゃああああああああああッ!」


 ジャーマンスープレックス。

 背後から相手の腰に腕を回し後方に投げ、そのままフォールする技。

 汚嬢様48の必殺技の一つだ。たぶん。

 ここでまたもやプオタ(プロレスオタク)の遠藤さんに習った知識が役に立った。

 プロレスの知識でどれだけの指名が入ったか!

 それだけの必殺技だ。

 バーコードはピクリとも動かない。


「汚嬢様。見事なノックアウトでございます」


 修ちゃんが言った。

 ああ、これで終わりだ。

 ってそんなことあるか!

 お仕置きはまだなのだ。


「ふおおおおおおおおおッ!」


 私は呼吸法を開始する。

 キャバ嬢時代のお客さんに一子相伝の暗殺拳の使い手の井上さんという人がいた。

 その人に習った必殺技だ。

 オーナーのアントニオ櫻子さん(二児の父親)に「あんたのお客さんってなんで珍じゅう……じゃなくて変わった人ばかりなのよ!」と言われたが私にもわからない。


「あちょー!!!」


 私の一撃が秘孔を突く。

 気とか波紋とかとにかく凄いパワーが秘孔から頭皮、そして毛根へと伝わる。

 そして私の気により毛根は消滅。

 バーコードハゲは一生髪型を気にしないでよくなったのだ。

 NAMIHEIですますと思ったか!


「成☆敗!」


 私はジ●ジ●立ちをする。

 修ちゃんは頭を抱えている。……あとで絶対にセクハラしてやる。

 さて私たちの活躍により明日にでも調査チームが編成されるに違いない。

 後は調査チームが全容解明をしてくれるだろう。

 一件落着。

 修ちゃん一人でもどうにかなってたと思う。

 わざと私にトドメを刺させてくれたんだなあ。

 そんな修ちゃんには謝罪しないといけない。


「ごめんね修ちゃん。スカートにしておけばパンツ見えたね……ラッキースケベの機会を奪ってごめんね……」


 実に残念。

 今着てる軍服はズボンなのだ。

 ぱんつを見せないとはヒロイン失格と言えるだろう。

 ごめんね!


「てめえケンカ売ってんのか?」


「しゅ、修ちゃんは白と黒と水玉、どれが好き? もしかしてはかないのが好きとか……なんという鬼畜! でもそこが好き♪」


 傾向と対策を練ろう。


「話を聞けよ! このどアホ!」


「修一。苦労をかけるな……」


 なぜか親父は泣いている。

 そうか、そうか。

 そんなに娘の成長が見られて嬉しいのか。


「ほらお前、旦那様泣いてるだろ! あやまれよ!」


「んー、くまさん?」


 くまー!!!


「頼むから聞けコラァッ! 台無しだよこの汚嬢様!!!」


 相変わらず修ちゃんは容赦なくフラグを折ってくる。

 でも負けない!

 いつか攻略してくれる。

 私は心を新たにした。


 これで一件落着……うん?

 あ、そうだ!

 学校に行かなくては!


「修ちゃん。バイク貸して」


「え? ちょっと待てお前いつ免許取った!?」


 免許は取ってない。

 でも運転はできる。

 どういう意味かは秘密だ。

 私はスタスタと急いで修ちゃんから逃げる。

 キーがなぜか手の中にあるのとかは気にしない。


「オイコラ無視すんなー!!!」


 聞ーこーえーまーせーん!!!

 ヒャッハー!!!

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