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汚嬢様と万能執事。

「お嬢様……」


 うーん……

 誰だよこんな早い時間に!

 こちとら原稿描いてて眠いんだよ!

 出勤まで起こさないで!

 昨日はシャンパンタワーしながらお客さんとガ●ダム話に花を咲かせて……

 酒飲んだ勢いでお客さんとゲームやってオタ話してさらに酒飲んで……

 ガン●ムと●ョジョはキャバ嬢の必修科目ーっと。


「はうあ!……て、出勤じゃねえ!」


 私は今度こそ目覚めた。


「相変わらずお嬢様成分の全くない目覚めですね」


 私がいるのはわざとらしいほど豪華なベッド。

 無駄に広い部屋。

 目の前にいるのは修ちゃん。

 本名、馬淵修一。

 一つ上の美少年。

 でも玉に瑕なのがその低い身長。

 ショタ属性のお姉様にはたまんねえってことは気づいていない様子。

 私の幼なじみで共犯者で御付き。

 いわゆる執事だ。

 巷では執事という職業はスーパーヒーローか何かと勘違いされてるような気がするが、そういう執事だ。

 気にしたら負けに違いない。

 私とは一周目では実にくだらない悪事に無理矢理付き合わせた仲だ。

 最終的に修ちゃんは警察に捕まってしまって少年刑務所送りに。

 さすがに今回はそれは避けたい。かわいそうだから。

 あとお尻を守ってあげないと。

 どういう意味?

 秘密。


「まったく、高校生になったんですからもうちょっと大人になって」


 修ちゃんはブーブーと文句を言う。

 いつもの執事服だ。

 こいついつから起きてるんだ?


「修ちゃん。修ちゃん」


 私は寝ぼけまなこをゴシゴシこすりながら修ちゃんに話しかける。

 重要な用件だ。


「なんですか?」


「ツンデレとヤンデレどっちが好き?」


「お前は話の流れを無視してなにを言っている?」


 おっと、楽しい会話に失敗したようだ。

 一周目で少年刑務所送りになったお詫びにどちらかのキャラで接してやろうと言っているのに。

 いや……も、もしかして!


「い、妹キャラ……を……ご所望なのか……?」


 く、妹キャラなのか!

 妹は正義なのか!!!


「てめえなにを口走ってやがる?」


「きゃるるーん♪ お兄ちゃんアヤアヤねー。あんなクソ学校行きたくなーい♪ 恋愛脳のクソビッチとバカこじらせた教師ばかりでアヤアヤ超うんざりー♪ ネトゲやって遊んでた方がマシつーかガールズトークとかマジうぜぇー♪ みんな死ねばいいのに♪ きゃふーん♪」


 すべて本音ですがなにか?


「本気でぶん殴るぞ。この汚嬢様」


 ズル休み失敗でゴザル。

 やだやだやだー!

 学校なんていかなーい!


「学校になんて行きたくないでゴザル!」


 ぽきりぽきり。

 んま、なんで指を鳴らすの?

 なんでマジギレしてるの?

 アヤアヤぜんぜんわからない。

 わからな……おーっと修ちゃんマジギレ寸前。

 しかたねえ。学校行くか。


「んじゃ着替えるか……あー……修ちゃん生着替え見る?」


 ほれほれ女子高生の生着替えだぞー。

 修ちゃんにはただで見せてやるぞー。


「アホか!」


「寝顔見てたんだからいいじゃんかー少しは見てけよー!!!」


 わけのわからないキレ芸を見せてみる。


「るせえ!」


 でも修ちゃんは見ない。

 顔を真っ赤にした修ちゃんは慌てて部屋を出て行く。

 ちぇー。

 お尻ポリポリ。



 などなどなどーなーどー。

 などなどなどどー。

 (子牛の気持ちで)


 あえてギリギリの線で逆らってみた。

 意味もなく豪華な車で市場じゃなくて学校に運ばれる私。

 無駄に広い車内には、修ちゃんもいる。

 この車嫌い。

 軽トラでいいじゃん。

 修ちゃんはあくまで執事ぶってすました顔をしている。

 修ちゃんは一つ年上で同じ学校に通っている男の子だ。

 残念ながら男の娘ではない。背が低いのに。

 かわいいのに。

 いつか女装させようと思う。

 と、頭の中では失礼なことを考えているが、正直言って私はこの男の子に絶対に勝てない。

 頭が上がらないのだ。

 昔から兄のようにすごしてきたせいか逆らうのが難しい。

 これが転生前のアホな私だったら平然と命令してたんだけど、今となったら彼の優しさがよくわかる。

 でも思春期的なほとばしる反抗心は別腹だ。

 面白半分にからかうのだけはやめられない。

 幸いエロネタが苦手なのでエロネタをふってやればいいのだが、いつもそれでごまかすのは痴女のような気がするので日に三回に留めている。

 つかね、一つ上程度で偉そうにしやがって!

 私は歯ぎしりをする。

 それにしてもこの車は無駄だ。

 だから軽トラにしろと(略)

 こういう無駄が破滅に直結してるとなぜわからない?

 だいたい、このまま行けば中退するのに。

 家だって崩壊するのに。

 ……ちょっとムカついたので考えるのをやめよう。

 そうそう今日の予定を確かめないと。


 はい。今日の私の予定。


 朝、嫉妬から王子に色目を使った転校生に言いがかりをつける。

 昼、転校生を屋上に呼び出して集団でいじめる。

 夜、仲間の女子とSNSで悪巧み。


 はうわッ!

 ……頭悪そう!!!


 ダメだ!

 とても同一人物とは思えないくらい頭が悪い!

 本当にこれは私なのか?


 朝、二度寝。

 昼、教師の目を盗んでゲーム。

 夜、アニメ。


 これが私だろ!

 ほんと誰だこいつ!

 容赦なく黒歴史を量産してやがる。

 つうか、いつ勉強してるんだこのバカは……おかしいだろ! 男のことしか考えてねえ!

 ああそうか、私ってバカだったんだ。

 同じキャバクラで働いていてた沙羅ちゃん。

 全力で恋愛してて男に逃げられて、しかも逃げられた後に妊娠がわかって、子どもを産んだら家も学校も追い出された沙羅ちゃん。

 心の片隅でほんのちょっとだけ不器用でバカな生き方だなあって思っててごめん。

 マジでごめん。

 私の方がもっと低レベルでガキでバカでした……

 生きる価値もないド底辺の生き物でした。

 黒歴史絶賛量産中……


 そっか人間ってこういうときに死にたくなるのか。

 こ、こういうのって痛い目見ないとわからないって聞いてたけどガチでしたわ!

 この路線はダメ!

 絶対にダメ!

 ホントダメだー!!!


「なにを身もだえているんですかお嬢様」


「しゅ、修ちゃん……黒歴史ってどうやって消せばいい?」


 はうわー!

 黒歴史が襲ってくるー!


「誰もそうやって大人になるんです。あきらめてください。私も死にたいと思うことはありますし」


 ぐぬぬ!

 一つ上なのに偉そうに!

 ぐぎぎぎぎぎぎ。


「い、今死にたい! 今猛烈に死にたい! ……って、修ちゃんに黒歴史?」


 黒歴史と無縁そうなこの男の子に一体何があった?

 修ちゃんはミスターパーフェクトだぞ。

 身長以外。

 男の娘もこなす水陸両用車だぞ!(錯乱中)


「ええ、今は亡き奥様から任された大事なお嬢様の育て方間違えたなーって……」


 ほろり。

 ちなみに修ちゃんの顔はニヒルに笑いながら影を作っている。

 なんか可哀想になってきたぞ。

 フォローせねば。


「それはそれはさぞかし悲しい思いを……ってなんじゃそれー!!!」


 よく考えたら酷い言いぐさだ。

 今の私を全否定だと!

 私はキャバ嬢として世間の荒波にもまれた結果こうなったの!

 これを成長と言わずしてなにを成長というのか!


「オーホッホッホッホと高笑いして楽しそうにしてたと思えば、ある日突然オッサンみたいになってしまったし」


「あー……」


 それは否定できない。

 つか黒歴史を触るな。


「半裸の男が抱き合ってるマンガ買ってくるし。しかも隠そうともしないし」


「あー……」


 いいじゃんBL。

 あれはエロじゃなくてファンタジー枠。


「冷蔵庫のビール勝手に飲むし……『パパにお使い頼まれちゃった♪』って嘘ついて焼酎とホッピー買ってくるし……しかも肴が炙ったスルメですよ! 酷すぎる! げふッ! ぐすッ!」


 あたまおかわりーって、な、泣くな!

 まるで私が悪いみたいじゃないか!


「ごめんねー。今度からつまみは小アジとタタミイワシにする」


 どやッ!


「そういう問題じゃねえよ!」


 修ちゃんが怒鳴る。

 えーわかんなーい。

 ワイン飲みながらタタミイワシ食べればセレブだっけ?

 セレブってなんだっっけ?

 スーパーのお弁当半額シールを待たなくてもいいのがセレブだっけ?


「朝は突然妹キャラとか意味がわからないこと言い出すし! 恥じらいもないし!!! 酷い! 酷すぎる!!!」


 そのまま修ちゃんは号泣。

 どうしてこうなった!!!

 なんとか慰めないと私が悪者みたいじゃないか!


「あ、あのね、修ちゃん……」


「くうううう。どうしてこうなったー!」


「あ、あのね……これからトップを目指すから」


「お、お嬢様」


「NO.1キャバ嬢になるだけの努力をする!!!」


 その後、なぜか修ちゃんは無言のまま固まりながら、涙を流しながらふるふると首を横に振っていた。

 うーん、少し失敗したようだ。

 次は働いていた店の近くにあるフィリピンパブ『ハリウッド』を潰すくらいがんばると言わねば。

 夢は大きく。

 うん反省。


「うわああああああああああああんッ!!!」


 ギャン泣き。

 なぜ泣く?

 まったく男の子はわがままだなー。

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