二・意外な以外・3
「次はノルンコルの貴族! 次男坊!! けっこういい男だって話よ!」
少女勇者、雪白・コリアンダーは虚空に宣言する。今度こそ、次こそは、まともでカッコイイ男性と結ばれて、勇者なんて不安定なものからは解放されるのだと。
「じゃあ、次はノルンコルだねぇ。遠いね。ねぇ雪白ちゃん、やっぱりわたしがセカイセイフクするからケンカしよう? そしたらわたしも雪白ちゃんも仲良くなれて幸せだよ?」
少女魔王、ピピ・ハーツイーズはほんのりと言ってのける。手一杯力一杯ケンカして、そうしてもっと仲良くなろうと。
世界の一つ二つ巻き込んでケンカをしないと、親友を超えた心友にはなれないと思い込んでいる彼女に、雪白はギッと振り返る。
「却下ぁっ! あたしは普通に幸せになるの!!」
「えー? でも、勇者になったらお婿さんいっぱい来るっておとうさまも言ってたよ?」
「そんな名声に寄ってくる男なんて筋肉ムキムキすぎる力自慢でしょ!! どんな顔してるかわかったもんじゃないわ!」
「雪白ちゃんのおかあさま、ムキムキじゃないよ?」
「かあさんは女だからよ!」
白々と夜が明けつつある空に向かって、まだ気を失っているノノを背負って歩きながら、雪白は叫ぶ。
「あたしは、勇者なんかにならないッ!!! なるもんですかーーーッ!!」
幼馴染みの魂からの絶叫に、ピピは首をかしげる。雪白の苦悩を、絶対に分かっていない表情だ。何せピピは魔王になることをためらわないのだから、筋骨隆々の勇者になりたくない乙女の心境をなかなか理解してくれない。年頃は同じ夢見る乙女でも、感じ方は人それぞれだといつも思う雪白である。ここでピピがあっさりと理解を示してくれたなら、もう少し苦労と心労が減るとも感じる。
「雪白ちゃん」
「なに?」
「雪白ちゃんはカッコイイねぇ」
「……女の子に言うセリフじゃないわよ、それっ」
やっぱりピピは分かっていないと、雪白は唇を尖らせた。本当は可愛いと言われたい。しかも、素敵な男性に。
「次は絶対よ、確実に、迷わずに、狙いを定めて……一気に」
まるで暗殺計画でも練っているかのような単語の羅列である。本人は気がついていないところが余計に恐い。彼女は真剣なのだ。
勇者を逃れるため。
ピピを魔王としての行動に走らせないため。
雪白は素敵な男性を探し続ける。
自分とピピの幸せは平凡でいいのだ。玉の輿とか、そんなもので充分である。控えめな要望を付け加えるとするのなら、身長は雪白より高く、顔も見目麗しく、声は低めで、ファッションセンスもあって、体型は痩せすぎず太りすぎず、優しくて頼れて、決断力もあって、魔物にひるまない強さも勇気もあって、しかし筋肉質では駄目、そして資産家であること。このくらいだろう。魔王と勇者に比べればなんと控えめなことか。
「でも、まずはノノちゃん送り届けてからだよね」
「……そうね。ちゃんと帰してあげないとね」
「うん。雪白ちゃんはやっぱりカッコイイね」
「だからぁ、女の子にいうセリフじゃないでしょ」
「あ、可愛いシカさんがいる」
「ピピ! 今は止めて本当に止めてっ。ノノちゃん送り届けるまではこれ以上道に迷うわけにはいかないのっ!」
「はぁい」
勇者の声に、魔王は止まる。そんなふうに、この世界はずっと護られているのだ。
遊んでいるようにしか見えなくても、魔王ハーツイーズを止められるのは勇者コリアンダーだけなのである。先祖代々そうだった。雪白は自分たちもそこに当てはまると認めたくない。自分は普通の可愛いオンナノコで、ピピだってオンナノコなのだから。ピピが雪白の声に止まるのは、彼女が素直で、まして雪白が親友だからだと、そう思いたい。
「あ、フクロウさんが飛んでるー」
「ピピっ! 今はだめッッ!!」
勇者と魔王。幼馴染みの少女たち。
普通の幸せを求めるための、おかしな二人の珍道中は、続く。
「あ、雪白ちゃん、あそこに――」
「だめよ」
「――魔物が」
「吹っ飛ばして! そういうのはっ!!」
今日の更新はちょっと短め。