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おかしな二人  作者: マオ
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三・世界の真実・2

 どうしたらいいのか分からない状況に、更に輪をかける声がした。

「うわ、化け物だ!!」

「なんだあれ!?」

「女の子を捕まえてるぞ!!」

「うわぁあああ、みんな! 逃げろ!! 魔物がいるぞ!!」

 ……村人たちの声である。崩壊した家の様子を見に来て、牙煉の姿を目撃したのだ。彼に抱き上げられているピピの姿も見られたようだが、幸運にも『捕らわれている女の子』と思われたようで、魔王ハーツイーズとばれたわけではないらしい。

 逃げ出したのか、遠くなっていく声に、雪白はまずいと青ざめる。自分の目の前にはハウルディア。そのむこうには牙煉とピピ。

 目撃されたらひたすらにまずい状況ではないか。勇者とばれたら、魔王と知れたら、悠長に運命の恋人探しなどしていられなくなる。

 不幸中の幸いと言おうか、牙煉の存在のインパクトが強く、雪白とハウルディアは目立たなかったようで、村人たちはとにかく魔物が現れたと怯えて逃げていった。

 この隙になんとか牙煉からピピを取り戻し、勇者と魔王だと知られる前にほかのところに移動しなくては。

「ちょっと! いいからとにかくピピを離してよ!! 落ち着いて話をしよっ!? 話せば分かるって! あたしはあんたたちの敵じゃないわ!」

 で話しかける雪白に、牙煉は憎々しげな視線を向けるだけだ。本当に一体『境界』で何があったのだろう。

「とにかくおとなしくしてよ、ここを壊したのもあんたなの? どうしてそんなことしたのよ!」

 魔族は人間の激しい感情を好むが、直接的な破壊を行うことはあまりないとピピの祖父からは聞いていた。直接相手を害するような低能は、知能の低い魔物がやることだと、魔物や魔族に詳しいもと魔王は説明してくれたのだ。前々代の魔王の言葉が間違っているとは思えない。

「貴様が……!」

 牙煉は唸る。腕の中のピピを大切に抱えて。

「貴様が、この方を死なせるところだったのだ!! コリアンダー!!」

 放たれた言葉に雪白は目を丸くした。ピピが死ぬところだった? 何故。

 しかもそれが雪白のせいだと、牙煉は言うのだ。意味が分からない。大体、牙煉はどうやって『境界』から現世へやってこれたのだ? 彼ら魔族は契約がなければこちらの世界を訪れることはできないはずなのだ。

「ちょっと、それどういう意味!? あたしがピピを死なせるわけないでしょ!?」

 カッとなって言い返した。お互いに敵意など抱いていない。雪白はピピを大切な友人だと思っているし、ピピだって雪白のことを大事な友人だと思っていると知っている。

 だからこそ一緒に旅をしているのだ。嫌いで敵意を抱いている相手と旅などできるものではない。お互いにお互いを大事な友達と思っている。

 死なせたいなどと考えたこともなかった。

「自覚なしか、手に負えぬ愚かさだな、コリアンダー。やはり貴様がこの方の傍にいることが間違っている」

「っなんであんたにそんなこと決められなくちゃならないのよっ! 余計なお世話――」

 ふざけるなと言い返そうとして、雪白はそのとき初めて気がついた。ピピを抱き上げている牙煉の背後、ゲイボルグが浮いている。いつも包んでいる布が外れて、禍々しく鋭い槍身が見えている。

「あ」

 直感した。牙煉を召喚したのは、ゲイボルグだ。

「ちょ、ちょっとゲイボルグ!? ひょっとしてあんたがコイツ呼び出したの!? 何で!?」

 意思を持ち、多大な力を持つ魔槍ならば、魔族の一人や二人呼び出すことくらい可能かもしれない。

 と、いうか、コイツしかいない。こんな小さな村に、魔族を呼び出せるような力の持ち主がいるとは思えないし、もし、いたとしたら召還者もこの場にいるはずである。人の姿は雪白たちのほかにはないのだ。村人たちは逃げていって、戻ってくる様子もない。

 おおぉん。ゲイボルグが吼えた。なんとなく、怒っているような気がする。雪白に向けた怒りのような波動が感じられた。

 オォオン。ハウルディアが何か答えたようだ。さっぱり内容は分からないが、伝説の武器同士で何やら会話が成立しているらしい。

「ねぇ、あんたたちだけで話しないでくれない? わけ分からないんだけど」

 憮然と呟く。いつもなら通訳してくれるピピは睡眠中で、武器同士の意思交換がサッパリ分からない。いつもはピピを変な子だと苦笑する雪白だが、結構彼女に助けられてもいたんだと、今ちょっとだけ理解した。しかし、普通ならば武器との意思交換など必要ないとすぐ気がついて首を振る。

 あたしは一般人。勇者なんかじゃない。ごく普通の女の子。

 心で念じて、唸りあう伝説の武器を見る。何を会話しているのかは知らないが、ピピを牙煉から取り戻すことに手を貸してはくれないのかもしれない。

「ちょっとゲイボルグ! なんで魔族を呼び寄せたのよ!? ピピをどうする気!?」

「貴様が言うかコリアンダー!!」

 何故か怒ったのは牙煉だった。彼の怒る理由も雪白には分からない。むすっと顔をしかめる彼女に、魔族は続けて叫ぶ。

「魔王様を貴様と共に置いておくのは間違いだ!! やはり魔王様は我らの手で護らねば!!」

 などと言いながら、彼の姿は薄れていく――ピピをその手に抱いたまま。

「!? ちょっと!どこ行くのよ!? あんたはどこ行ってもいいけど、ピピは置いていって!!」

 空間移動をするつもりだと気がついて、雪白は怒鳴った。幼馴染みを連れて行かれるのは困る。旅の連れだし、大事な友人なのだ。まして魔王であることだし、魔族に連れて行かれたら変なことを吹き込まれて、本当に世界征服でもやりかねない。ピピを名実ともに魔王に変えられてしまうのは不愉快だ。

 あんなにいい子なのに、世界の敵にされてしまうのは、冗談でもイヤだ。

 牙煉は雪白の言葉になど耳を貸す気もないようだ。するすると姿が薄れていく。

「待ちなさいってば!!」

 声が、言葉が、届かない相手だ。そして親友も雪白の手の届かない場所にいる。

「うぅ〜〜!」

 唸って雪白は手を伸ばした。背に腹は変えられない。このままではピピは連れ去られる。力が要る。雪白のものだけではない力が。

 それは、彼女の眼前に浮いている。

 幼馴染みを助け出す手段。魔王にさせない手段。

 覚悟。

 白く華奢な手が、伝説の剣・ハウルディアに伸びた。

 聖剣が喜びの声を上げたと、確かに感じる一瞬。

「一瞬だけよ、ハウルディア!」

 柄を、握りしめた。


 瞬間、雪白の視界が暗転した。


勇者になる覚悟がついたのか?

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