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怪獣とロボットの競演<コンピート>  作者: ルト
第一章:GZ<すべてのはじまり>
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第十七話:運命

 飛び立った雪虫は上空で反転して、アサルトライフルに取り付けたグレネードランチャーを構えた。

 すばん、すばん、と等間隔に射出音を吐く。

 二号丸の周囲が炸裂し、船体にのし掛かっていた瓦礫が、くの字に折れて崩れ落ちた。

 すばん、すばん、すばん。

 三連射した粘弾は割れかけた正面ハッチを根本から吹き飛ばす。

 ばるる、と排雪する轟音を響かせ、二号丸が勢いよく動いた。機躰に船体を押させ、通常以上の初速で飛び出したようだ。

 無論、ここまでやってGZ型が気づかないはずがない。

 振り返ったGZ型の顔面で、曲射した粘弾が砕ける。

 炸裂。

 さすがのGZ型も怯んで顔を仰け反らせた。

 グレネードを撃ち尽くしたアサルトライフルを投げ捨て、最大推力で弧を描くように雪原を駆ける。

 目指すは、カプセルを抱えていた対GZ型機躰の残骸。


 ほどなくそれは見えてきた。

 減速させながら、周囲を走査する。

 目的のものは……見つけた。

 旋回軌道に乗せて相対速度を下げる。

 フラッグのように雪に突き立った、特殊部隊仕様の武器だ。

 楕円形に旋回する頂点で交差し、――取った。

 銃身をクルリと回し、銃把を握る。照合、認証、データリンク。

――単発銃か。

 冠にダーツを載せたタンデム弾頭のようだ。

 相手は生身。グレネード同様、吹き飛ばしてダメージを与える算段らしい。


 強制排弾し再装填。

 GZ型を照準して、撃つ。

 突き刺さった矢の内側に熱風が吹き込み、針状の弾頭ごとえぐるように爆裂した。

 えげつないものだ。

 しかし、GZ型の巨体に対してはニキビ痕を作った程度に過ぎない。

 粘弾より多く弾薬を携行できるため、破壊面積は優越しているのだろう。だが、決定的な違いではなかった。

 浅すぎるし、小規模すぎる。

 五、六発ほど撃ったが、投棄した。マガジンには十数発の残弾があったが、大差ない。

 ざぁ、と雪と水を蹴立てて旋回。

 GZ型を回り込むように、手持ちのアサルトライフルを連射した。

 特殊部隊が選ばなかったのも当然で、弾丸となる氷柱は高温なGZ型に有効な傷を与えられない。


『……きむし、雪虫! 聞こえるか! こちら対GZ型小隊! 雪虫、ミスタ……あー、ハヤト? 聞こえる!?』

肯定(ポジティブ)、通信障害はない』

『まったく、無茶をしてくれるわね。GZ型が二号丸に熱線を吐いたらお仕舞いだった。……とにかく、GZ型の注意を引きましょう。連携して――』

否定(ネガティブ)


 言葉を挟んだ。

 失笑のような、苦笑したいような気持ちが湧く。


『こちらはショック症状で「人間」の生態を覚えてない。臨機応変な連携は難しい』


 通信はすぐに返ってこなかった。

 この機躰が動く内側に『俺』が入っていて、なにやらやって操縦している、というのがどうにも信じられない。

 格好つけても、リスクを乗り越えられるわけではないらしい。

 GZ型は基地の基礎部分で狭そうに身をよじっていた。

『俺』はラッチを開けて雪を詰め直し、威嚇以上にならない氷柱の連射を続ける。


『代わったわ。 そのショック症状は本当?』

『ああ。人間の形状も覚えているか怪しい』

『……そう。では、あなたは遊撃に徹して。ちなみに、おそらく弱点は背ビレよ』


 露骨に低温なトゲトゲか。あれは何の器官だろう。

 と、そのとき、認証暗号と共に動体反応が検出された。これを待っていた。笑みを抑えて早口に答える。


『了解した。だがこちらもいろいろ探ってみる』


 通信の終了とどちらが先か。

 大量の砲弾がGZ型の背ビレに叩き込まれ、爆炎が吹き上がった。

 同時に無数の機躰が舞い上がる。

 制空権を握り、陸空両面から打撃を加えるようだ。

 GZ型は苛立たしげに尾を薙ぎ払い、基礎より上に残っていたすべてを軽々と空に打ち上げる。

 さすがは特殊部隊、まるで演目のように揃った動きで散開し、瓦礫の落下点を避けて攻撃を継続した。

 俺とて遠巻きに眺めるばかりではない。

『背ビレ』に質量弾が直撃したときの震え、音響、熱伝導から組成を分析する。

 てっきり角質……つまりサイの角と同じく毛髪が硬化したものと思っていたのだが、異なるようだ。ウシの持つ角と同じ、骨で出来ている。


 背骨が露出している。

 もちろん通常哺乳類の背骨と同じように考えてはいけないだろうが、しかし、身動きを取るために必要な器官の至近を自ら露出させている。これは異常な性質だ。

 そのぶん充分な強度を備えているようで、爆撃を受けても欠片ひとつ落としていない。

 異常なのは背骨であるというだけではない。計測値が如実に異様さを示していた。

 爆発を――瞬間的な『燃焼』を至近に受けてなお、背ビレは数秒もせず冷えきってしまう。理不尽に発達した排熱機能を持っていた。

 火山のような肉体の体温とかけ離れて、もはや別の生物が共生しているかのようだ。

 骨に響く衝撃に身をよじらせ、怒ったように暴れるGZ型を見る限り、共生生物説は外れだろう。

 なんであれ背骨だ、破壊すれば効果があるだろう。特殊部隊はそういう方針でいる。


 俺は再び、ラッチを開けてアサルトライフルに雪を詰め直す。そして、照合を終えて同期された自走装置を迎えて抱えた。

 一見すると棺桶。二度見れば無人スノーモビル。

 その正体は『武器庫(アーセナル)』だ。

 機躰のための兵装を無数搭載した、自走追跡する補給基地。

 無数多様な武器弾薬が機能的に詰め込まれ、あらゆる状況に対応できると言われている。

 もちろん言われているだけだ。

 そもそも『遅れて追跡するアーセナルを活用して怪獣に対応する』設計思想に叶うだけの移動性能を持っていない。機躰は亜音速航行が可能なのだ。

 南極に至っては誘導通信を見失い、雪に埋もれて紛失する。

 しかし、様々な武器を格納できることは確かだ。使いようはいくらでもある。

 ナパーム弾のロケットランチャーを抱えてGZ型をふり仰ぐ。

 GZ型は大きく体を仰け反らせていた。


――やばい。


 悪寒がした。

 咄嗟にアーセナルを抱えて雪に飛び込む。

 ジェットエンジンが雪を掻き込んで後方に水蒸気をぶちまけた。勢いだけを頼りに雪に潜り込む。

 激震が響く。

 背負った雪が散った。

 音の張り手が壁として広がっていく様が、雪の波として目に見える。

 GZ型が咆哮をあげた。

 しかし、その音量は副次的なものに過ぎなかった。

 特殊部隊の被害は、甚大だ。

 殴られたハエのように、空中にいた機躰が墜ちていく。制御ができないのだろう。

 GZ型が、熱量を扱う桁外れな怪獣だということを忘れていた。

 今のは、純粋な熱放射だ。

 ただし、吹き付けられた空気がプラズマ化するほどの。

 至近にいた機躰は熱風で、やや離れた機躰も空気から弾き出された電磁波に、機械系統が焦がされた。

 戦力の三割が、瞬く間に無力化されていた。


「ちぃ」


 援護のつもりで、ナパームロケットをGZ型の顔面に――背ビレに当たらないように――撃ち放つ。

 再装填はしない。アーセナルにロケットランチャーを戻し、楔型剣のような形状のマシンガンを取り出す。弾薬は……クソ、これも氷柱だ。

 効き目の疑わしい支援弾幕を広げ、気持ちばかりの援護を試みる。

 GZ型の芸当に、俺が気づけた理由は簡単だ。

 体温が下がり、背ビレが高温になった。

 化学物質を吐いて『反応熱』を起こす怪獣とGZ型との違いは、ここにある。

 GZ型は熱そのものを使う。

 己の耐熱性をも越えた高温を発するのだ。その際、己を焦がす熱に関しては極低温な背ビレと『熱を交換』する。

 そもそも背ビレが排熱器官だったなら、吐き出された熱に周囲の空気が暖められている。

 純粋に「南極に比してなお低温」と観測できるのは、背ビレが基本的には『吸熱器官』であるからだ。

 現に、特殊部隊が放った爆撃の熱は瞬く間に消失し、背ビレは低温に維持されていた。まるでどこかに吸い取られたかのように。


「こんな簡単なことに気づかないとはな」


 我ながら冷静さを欠いている。

 しかし同時に、気づかなくても無理はないとも思う。

 恒温の怪獣が、何故吸熱器官など持つ必要があるのか。口腔の不要な高熱を背骨で排熱しうる生態とはなんなのか。

 つくづく、怪獣は常識の明後日に棲息している。

 特殊部隊は立て直した機躰から仲間の補助と攻撃に分散し、効率的に戦線の修復を試みている。攻撃は相変わらず爆破だ。

 やめろと言うには、まだ根拠が薄弱すぎた。

 それに立て続けて爆破する衝撃と振動が、骨の組成を砕くはずなのは間違いない。砕けるはずなのだ。

――あれが本当にただの骨ならば。


 カプセルのサンプルが変異していたことを、彼らは知っているだろうか?

 物理的なダメージは、GZ型にとって些事に過ぎない。

 なにか別の手段でなければ、GZ型に羽虫以上のものとして見られることはないだろう。

 GZ型を見上げる。

 表皮で起きる爆発を、鬱陶しげに体を震わせて苛立ちで片付ける。わずかに開けた牙の隙間から、水蒸気が噴き出した。

――そういえば。

 ふと、大前提の疑問に至った。


「怪獣は、どうやって生きているんだ?」


 例えば人間は、まず母を介してエネルギー供給を受け、やがて自ら摂取した食物を分解吸収して……つまり、化学反応でエネルギーを己に転化させることで、生命を維持する。

 ある意味では人間も『反応熱』――化学反応によって分子結合が変化する際に発生する余剰エネルギーの放散――を扱う生態と言えるだろう。

 しかし怪獣は消化器官を持たない。何かを摂取する補給を行わない。

 おそらく|化学反応のエネルギー転化しょくじを用いていては、あの巨体と膂力を維持することが難しいからだろう。

 故に、静的な生命活動だから可能な光合成などのエネルギー供給もまたあり得ない。

 雪原を文字通り飛び回ったり、氷海で無数の触手を能動的に活動させたり、GZ型のような高い体温を維持することが、どうしてできるのか。

 怪獣はどうやって生きている?


 実は、機躰の配備は決して万全ではなく、地球全土を対策することはできていない。

 怪獣が現れる度に誰かが倒しているわけではないのだ。例えば砂漠の怪獣は衛星監視程度で放置される。

 にもかかわらず、自然死した怪獣が発見されたことはない。

 怪獣技術に用いられる怪獣は、屠殺体だけだ。

 怪獣は餓死しないのか? それとも、何らかのエネルギー生成手段を持っているのか。それは、どんな?

 どこかにコロンブスの卵がないか、脳裏を探る。




――……卵?

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