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 闇ギルドへラピティリカ暗殺依頼を出した魔導貴族、フェドロフ侯爵の邸宅へと侵入した俺とヴィーの二人は、執務室で見つけた魔道金庫から”魔術師殺し”とエアーマスク、それと暗号化された書類を見つけていた。



 ヴィーから受け取った暗号化された書類を興味本位で見てみると、VMBのコミュニケーション機能である、自動翻訳が作動し暗号文に重なるように浮き出る翻訳文がレンズに表示され始めた。


 まさか、暗号まで翻訳されるとは……いや、考えようによっては、暗号もそれ自体が言語と認識すれば、前の世界に存在しないこの世界の言語を翻訳する自動翻訳機能にとって、暗号の翻訳も容易な作業だったのかもしれない。



 浮き出る文字を読み取っていくと、俺が手に持つ書類は闇ギルドへと出された依頼書の写しのようだ。報酬金額や依頼成功の為の援助の確約、これは”魔術師殺し”やエアーマスクを用意する事を指しているのだろう。それと依頼達成までの期日か……この日時だと昨日までだな、つまり闇ギルドは完全に依頼に失敗したことになるのか。

 失敗した場合は……実行クランの粛清……闇ギルド自体は責任を負わないのか、いやそれは総合ギルドの場合でも同じか。


 さて、この情報を伝えるべきか否か、暗号が読めると言う能力はかなり重要だろう。今回の護衛依頼を終えれば、当分の間はシャフトの姿を消すつもりでいる。暗号が読めるなどと判れば新たな依頼が舞い込みかねない……。



「どうだ、”黒面のシャフト”」


「まったく判らんな。これはバルガ公爵に届けるのだろう? フェドロフ侯爵に突きつける時に読ませればいいだろう」


「使えない男だな、これがフランク様ならば、子供向けの絵本を読むが如く解読し、フェドロフ侯爵を追い詰める手を一つ二つ三つ四つと積み上げていただろう。それに比べれば、きさ――」


「おい」


「なんだ?」


「それは長いのか? 他の物証を探すべきではないのか?」


「む、そうだな。魔道金庫の中はこれだけのようだ。次はフェドロフ侯爵の私室へ向かうぞ」


「先にいけ、色々と準備をしながら俺も向かう」


「私室はこの先のプライベートフロアだ」


「了解した」



 執務室から姿を消すヴィーを見ながら、邸宅の爆破準備をしていく。この執務室も完全に爆破してしまおう。予め荷袋にC4爆弾を入れてきたが、ヴィーに見られる心配が消えたので、インベントリから取り出し設置していく。


 一応、他に何か物証になる物がないか探していると、書棚に並べられている書籍に目がいった。書棚を開き、適当に選んで中を確認していく。どれも当たり障りのない内容ばかりだが……。



「ん?」



 適当にページを捲っていると、本の間に挟んでいたのだろう、一通の封書が零れ落ちた。既に開封済みで、中の手紙らしき物を取り出すと、これも暗号化されている文書だった。


 自動翻訳により、訳文が浮かびあがる……この文書はフェドロフ侯爵の要請に答え、闇ギルドから暗殺者1名を送る旨の報告書のようだ……が……。

 文書には、先ほどの依頼書にはなかった闇ギルドのギルド名が書かれていた。闇ギルドとは、つまり”サボテン”だ。俺はサボテンの文字は、”仙人掌”だと思っていた。しかし、この文書に書かれている文字は……”覇王樹”。






「遅かったな、”黒面のシャフト”」


「あ、あぁ。執務室でもう一枚、暗号文書を見つけた」



 執務室にC4爆弾を設置し、途中の廊下や無人の部屋に設置しながら私室へと入った。私室の中では、ヴィーが空き巣の如く部屋内をひっくり返していた。



「おい、ヴィー。もうちょっと丁寧に探さないのか? これでは泥棒の所業だぞ」



 俺の進言に、ヴィーは動きを止めて俺を見ている。まるで、「何言ってるんだこいつ?」と言わんばかりの表情だ。いや、フェイスベールとアイマスクによって表情は見えないのだが。



「どうせ貴様が粉々に潰すのだろう? 丁寧に探すのも泥棒の如く探すのも一緒だろう。はっ!? まさか貴様、襲い来る敵を皆殺しにし、死体の山を築く”虐殺のシャフト”にも一縷の常識があると示し、その落差で私の興味を引こうというのか。しかし、残念だったな、私が興味あるのはフラン――」


「おい」


「なんだ?」


「……私室には何かあったか?」


「ないな」


「そうか、ではこれも公爵に渡してくれ」



 執務室で見つけた文書もヴィーに渡し、私室を見渡す。この部屋には、特に隠し金庫やそれに類する場所はないようだ。俺もヴィーと共に、家具の引き出しやらクローゼットやらを探すが、やはり何もないようだ。



「何もないな、そろそろ切り上げるか?」


「そうしよう、私は一刻も早くフランク様に会いたい。後は任せるぞ”黒面のシャフト”」



 この女、はっきり言いやがった。



「了解した。俺としてもお前がいては仕事の邪魔だ、早く行け」


「任せたぞ」



 俺の言葉を最初から待っていなかったかのように、窓枠に足をかけ一言言って外へと消えていった。


 外に消えゆく姿を見ながら、この女は素直に生きているなと思わされた。その姿に少し憧れもしたが、俺は俺で好きなように生きていくだけだ。まずはこの邸宅を爆破する。




 邸宅の二階を中心にC4爆弾を設置し、邸宅全域を爆破する準備が出来た。一階にも設置したかったが、巡回警備に見つかる可能性が高く、それを排除する気は今はなかった。


 準備が出来たところで、空き部屋にTH3焼夷手榴弾を放り投げていく。誰もいない部屋が燃えていく、マップに映る光点の動きを見ながら外へ逃げれるように放火していく。



「火事だー! 火事だぞー! 外へ退避しろー!」



 ある程度燃え始めたところで声を上げていく、光点の動きを見ながら無人になった区画にTH3焼夷手榴弾を更に放り込む。

 一階から悲鳴と怒号が聞こえ始めている。火の勢いに、早々に消化を諦め退避を選択してくれたようだ。


 今回の邸宅潜入は、以前のヤゴーチェ邸への襲撃とは別物だと思っている。俺がこの場にいることを知られるわけにはいかないし、ラピティリカ様暗殺とは無関係な使用人達に手を出すつもりも更々なかった。


 光点の動きを確認し、そろそろ俺も邸宅を脱出しないと火に巻かれる恐れが出てくる。

一度一階に降り、一階に残る光点がない事を確認し、邸宅の裏へと脱出した。



 邸宅の敷地を脱出し、そろそろ起爆装置のレバーを握るかと、起爆装置を取り出したところで、敷地内に馬車と思われる光点が入ってくるのがマップに映った。どうやらフェドロフ侯爵が帰ってきたようだ。


 これは実にいいタイミングだ、自分の城が吹き飛ぶ姿を目の当たりにするがいい。




 中年男性の叫びと、ヒステリックな女性の悲鳴が聞こえる中、起爆装置のレバーを握りこむ。


 それと同時に起こる、火を噴く様な爆発と爆音。フェドロフ邸の二階全域が吹き飛び、火災は更に爆炎を上げ一階を包み込んでいく。


 燃え盛る邸宅の裏手から、庭木の間を進み正面が見える位置まで移動すると、豪華な馬車の手前で、両膝を地につき呆然としている中年男性の姿が見える。あの男がフェドロフ侯爵なのだろう。横に立つ夫人だと思われる女性は、気を失っているのか? 使用人達に後ろから支えられ、今にも倒れこみそうになっている。


 さて、これからどうなるのだろうか? と少し観察していると、敷地の外から鐘を打つ音が聞こえてきた。そして、多数の馬蹄の音と馬車の音も響いている。

 王都の警備隊が来たようだ。敷地内に突入してきた馬車より、次々にローブと長杖をもった魔術師達が降りてくる。彼らは燃え盛る邸宅前に整列し、隊長らしき男の声に合わせて魔言を唱え始めた。



 どうやら消火活動に来たようだ、次々と放たれる水属性の魔法が火の勢いを消していく。この世界の消火活動は魔法により行なわれるのか……。


 消火活動を指揮していた男が、フェドロフ侯爵に声を掛けている。事情聴取と寝所の確保のために、詰め所へと邸宅の使用人含め、全員を連れて行くようだ。

 もしや、この警備隊はバルガ公爵の手配したものか? 俺に邸宅を破壊させ、フェドロフ侯爵を自然と詰め所へと誘導する。闇ギルドとの繋がりを示す物証は既に持ち出しているから、この火事で失う事もない。それを突きつけ、暗殺依頼の全貌を暴くと、つまりはそういうシナリオか……。



 まぁいい、その流れを俺が知っていても、知らなくとも、やるべき仕事の流れは何も変らない。むしろ、”覇王樹サボテン”の正体について考えさせられるいい仕事だった。



 今はそういうことにしておこう。




 

使用兵装

C4爆弾

米軍を初め、世界中の軍隊で使用されているプラスチック爆薬、衝撃や火に触れても爆発することがなく、起爆装置がないと爆発しない爆薬。VMBのC4は、爆薬と遠隔操作の起爆装置のセットで、爆薬の数は任意で増やすことができる。起爆装置のレバーを握れば、それが一斉に起爆する。


TH3焼夷手榴弾

短時間で狭い範囲だが、摂氏2000℃を越える高温を範囲内に生み出す手榴弾。その威力は鉄骨をも溶かす。


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― 新着の感想 ―
早々に消化を諦め退避を選択してくれたようだ 消火
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