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 深夜の街道を走るモーターハウス、コンチネンタルは重厚感のあるエンジン音を唸らせながら進んでいた。


 ラピティリカ様とアシュリーの二人を、キャビン最後尾のツインベッドに寝かせ、使用人を付き添わせながら様子を見ている。賊から剥ぎ取ったエアーマスクと言う防毒マスクのような魔道具により、二人の呼吸は落ち着きを見せてはいたが、”魔術師殺し”による高熱は治まることはなかった。


 ”魔術師殺し”により狂わされた内包魔力の流れは、身体の調子を狂わせ様々な体調不良を引き起こす。魔力の流れが狂っているうちは、治癒魔法の効果は出ない。王都の騎士団が管理している投薬を使用し、魔力の流れを整えてから体調不良を癒す必要がある。



「先ほど王都の西休憩所を通過した。あと1時間ほどで王都に到着できるだろう」


「そ、そそそ、そうですか」



 運転しながら後ろに目をやると、団長はリビングスペースになってる場所のソファーに座っていた。しかし、その姿にリラックスムードは一切なく。背筋を立て両膝に手を置き、真っ直ぐと前を向いていた……見ている先は壁だが。



「大丈夫か?」


「だだだだ、大丈夫だ」



 全然大丈夫に見えない、使用人の娘たちはすぐに慣れたようで、走行中でもキャビン内を移動しながら軽食を用意してくれたり、寝込む二人の看病をしてくれている。

 しかし、団長はと言うと、走り始めてからずっとあのソファーで固まっていた。


 俺が座っている運転席のインストルメント・パネル、インパネには、車内カメラからの映像を写すディスプレイが内臓されており、俺は運転をしながらいつでも車内の状況を確認することが出来た。

 寝込む二人の状況をチラチラと確認しながら、体調の変調が現れたときには車を停車させ、様子をみながら再出発するなどして、急ぎつつも慎重な道のりとなった。






「見えてきたぞ、王都だ」


「おお! やっと着いたか!」



 俺の一言に、置物のように固まっていた団長が再起動し、運転席のフロントガラスから見える王都に、目を少し潤ませていた。そんなに車が怖かったか……しかし、これで問題が全て解決したわけではない。


 すでに夜明けを迎え、朝の早い時間ではあるが城門が開いているのが見える。人通りこそないが、城門付近の警備隊がこちらに気付き、何やら慌しく動き始めているのがわかる。


 俺はコンチネンタルを城門と距離がまだある位置で停車させ、まずは団長に降車を促した。ここまでの道中で、このモーターハウス、コンチネンタルに関する情報は一切漏らしてはいけないと、使用人含め何度も念を押してきた。

 これは俺の持ち物ではなく、とても爵位の高いあるお方からの預り物かつ、機密扱いの物だと並べ立て、もしも噂話が広がるようならば……。


 そこまで話し、顔を青くして直立している使用人の娘達を見れば、コンチネンタルの内部の話が広まるのは防げるだろう。外観や移動性能はもうしょうがない、面倒くさい事になれば逃げるだけだ。



 コンチネンタルを降り、城門へと賭けていく団長を見ながら、こちらも降りる準備を始める。使用人達に声を掛け、奥で寝込むラピティリカ様とアシュリーの様子を見に行く。


 二人とも目は覚めているようだが、酷く青い顔をしている。目は重そうに塞ぎがちで、微かに開いてこちらを見ている。



「王都に到着しました。すぐに治療が出来るよう、団長が手配をしにいってくれています。もうしばらくの辛抱です」



 エアーマスクを着けたままなので、何かくぐもった声を出したのは判ったのだが、言葉にならない何かだったようで、何と言ったのかは判らなかった。


 あとは使用人達に任せ、俺もコンチネンタルの外へと降りた。



 本当は彼女を抱えてすぐにでも治療を受けさせたかったが、俺の着ているドイツ陸軍親衛隊の黒服は、大量の返り血と血の池に倒れた影響でドス黒く染まっていた。ケブラーマスクにも返り血が掛かり、黒面に血の赤が燃える炎のようにこびり付いていた。


 こんな姿で抱き上げるわけにもいかないからな、着替えればよかった……。



 王都の城門から、数騎の馬と馬車が近付いてくる。騎馬兵は王都警備隊の紋章旗を掲げ、コンチネンタルを囲むように分かれていく。



 騎兵の一騎がこちらに近付き、馬を下りるとこちらに歩いてくる。



「貴公が”黒面のシャフト”か、バルガ公爵家が三女、ラピティリカ様とアシュリー・ゼパーネルを医療所へお連れしよう」


「感謝する。ラピティリカ様とアシュリーは降車の準備中だ、しばし待たれよ」


「貴公も相当な返り血を浴びているようだが、医療所へ同行するか?」


「いや、俺はすぐに公爵邸へ向かい報告をせねばならない、同行はバルガ公爵家護衛団団長にお願いする。それと公爵家の使用人達も毒煙を吸っている、一応診てもらいたい」


「了解した、使用人達も連れて行こう」



 そこまで話したところで、コンチネンタルの横に団長の乗る馬車が止まり、ラピティリカ様とアシュリーが使用人に支えられながら降車してきた。

 団長と警備隊に補助されながら馬車に乗り込む二人と使用人達を見送り、俺も王都へと向かう準備をしようと思ったが。



「ところで”黒面のシャフト”、コレは何だ?」



 警備隊の指すコレとは、もちろんコンチネンタルだ。



「これは、さるお方より御預りした大型の魔道具だ。コレに関しては一切の質問も調査も断る。指一本触れるものならば、この俺が全力でお相手する」


「い、いや、そういうつもりで言ったわけではないんだ。そう言う事ならば私は何も聞かん」



 警備隊の男は馬に戻り、馬車を囲みながら王都へと走っていった。ある程度距離が離れたところで、TSS(タクティカルサポートシステムを起動し、コンチネンタルをガレージに戻す。ついでに燃料の補給もおこなうが……さすがに消費コストが他の移動車両よりも大きい部類に入るな……。

 コストが高すぎて使えないと言うわけではないが、ドーチェスタと比べれば3倍はする。今後の使用は限定的になものになるだろうなと考えながら、俺も王都へと歩いていった。






「朝の王都を、血まみれの黒面が走り抜けていった」「黒面のシャフトが、血濡れのシャフトになった」「黒面がまた誰かを殺った」、そんな噂話が後に流れたとか流れなかったとか。


 王都を走り、第一区域のバルガ公爵邸へと急行した。邸宅の敷地前に立つバルガ公爵の私兵に、休憩所での襲撃の件を話し、至急公爵に会えるよう邸宅へ走ってもらった。




「ご苦労だったね、シャフト君。それで、ラピテリィカとアシュリーは?」



 邸宅へと向かった私兵は、すぐに引き返してきて俺を邸宅へと誘導してくれた。そこからは家宰のフォルカーさんに案内され、バルガ公爵の執務室へと来ていた。



「はっ、護衛団団長が使用人達と共に医療所へとお連れしています」


「”魔術師殺し”と言ったね? 吸引してから何日経過しているのかな?」


「半日経っておりません」


「半日、経っていない? まぁ、そこは良いとしよう。その時間なら医療所が間違いを起こさなければ大丈夫そうだね。フォルカー、ちょっと見てきてくれるかな?」


「畏まりました。お迎えに行ってまいります」



 家宰のフォルカーさんが執務室を出て行き、部屋には俺とバルガ公爵の二人だけになった。



「シャフト君、”魔術師殺し"に関しては何か聞いたかい?」



 二人だけになった執務室に響くバルガ公爵の声は、これまで聞いた柔和な温かみがある声ではなく。やさしい口調に明らかな冷たさを持つ声質に代わっていた。



「戦時の騎士団にしか使用が許されない毒物とだけ」


「その通りだね、その管理も騎士団に任されている。それを使用してきたと言う事は、襲撃犯は着けていたのではないかね?」


「はっ、護衛団団長より、賊の使用していたエアーマスクを預っております。公爵閣下にお渡しするようにと言っておりました」



 俺は腰のポーチに入れておいたエアーマスクを、公爵の執務机の上に置いた。公爵はエアーマスクを取ると、その細く鋭い目を更に細くし、風の魔石の収まる中央部の横にある円筒を回し分離させると、その内部を注意深く調べていた。



「このエアーマスクはね、”魔術師殺し"同様に厳しい管理基準のもと使用されているものなのだよ。これが外敵の手に渡れば、有事の際に”魔術師殺し”が効果を発揮しないからね」



 公爵はエアーマスクを分解し、いくつかの部品に刻まれた製造番号のような刻印を見ているようだった。



「やはりね……シャフト君」


「はっ」


「君に新しい依頼を出したいのだが」





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