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 ヴェネール外遊を終え、王都へと移動を開始したわけだが、現在はラピティリカ様の乗る馬車に集まり、これからの五日間の警備体制の再確認をおこなっていた。



「では、気をつけるべきはやはり二日目と三日目の夜か」


「ヴェネールの警備隊からの連絡では、クラン”エンジュ”の拠点としていた酒場は、もぬけの殻になっていたそうです。捕縛した男の話では、少なくとも槐のリーダーを含め、10名ほどが行方をくらませています」


「闇ギルド”サボテン”から一人来ているとも言っていましたね」


「それと、関与が不明だが怪しい3人組にも要注意だ」


「シャフト殿が見破ったと言う、姿を変えて見せる者たちですな。ヴェネールのギルド出張所には、ジークフリード殿宛ての書簡は届けておきました」


「助かる。ラピティリカ様、私は以前、知人から姿を変える魔法は無いと聞いていたのですが、実際のところどうなんでしょうか?」



 俺の問いかけに、ラピティリカ様は顎に指を当てて考えている。彼女に問いかけたのは他でもない、魔導貴族の大家の三女として、魔法に関する知識は十二分に持ち合わせているはずだ。



「私が魔術学院に在籍していた頃、そして山茶花サザンカで活動していた頃も含め、自身の姿を変化させる、不特定多数の人の視覚、聴覚に影響を与えると言う魔法は聞いたことがありません」


「総合ギルドでも、他人に成りすまして様々なところに入り込む3人組の話は聞いたことはありません。もしかしたら、上層部は把握しているかもしれませんが」


「晩餐会で同席した三人は、今回のラピティリカ様暗殺とは別物と考えた方が良いような気がします。もちろん、警戒はしますが、あの場で何も手を出さないのに、一緒の席で食事をする理由がありません」


「俺も団長と同意見だ、総合ギルドが追っていた3人組とも何か違う気がする。商隊護衛を放棄した3人組と同一人物ならば、仮面は違っても俺を見て何も思わないとは考えにくい」



 あの3人組に関しては、一定の警戒はするが、襲撃とは別物として考える事で意見が一致した。判らない事が多すぎるし、報告すべき場所に連絡し、あとはそちらへ任せる。

 俺達や護衛団の仕事は、あくまでもラピティリカ様の護衛だ。最優先を履き違えてはならない。



 小休憩をとり、キャビンから俺と団長は降りて御者台と馬に分かれる。ここからは周囲を警戒しながら、団長と雑談だ。




 移動開始一日目と二日目の夜は、何もなく過ぎていった。ヴェネールに滞在していた他の貴族たちも、王都で行なわれる舞踏会へ出席するために王都へ移動するのだが、貴族の爵位を持つものは、転送魔法陣による移動が許可されている。


 転送魔法陣は迷宮から持ち出した(A)から、陣を模写した(B)への一方通行でしか移動できないため、往復できるようにするには二組の転送魔法陣が必要になる。

 魔法陣の運用も、主に物資の輸送が中心に利用されており、生活必需品である塩などを始めとした香辛料や食料品、日々の生活で消費する油や魔石などの燃料資源が輸送されている。


 人的移動としての利用は、王族や爵位もちが基本的に許可されており、商業ギルドに加入していれば、利用料の支払いにより物資と共に利用する事ができる。

 その他の冒険者や国民に対しては利用制限がなされている、転送魔法陣による頻繁な人の移動は、管理運営上色々と不都合が出るのだろう。



 この転送魔法陣を利用し、爵位持ちの貴族たちは移動するため、馬車を利用して王都へと移動するのは、偶然にもラピティリカ様だけとなっていた。


 

 二日目の休憩所では、ヴェネールへと向かう商隊も野営しており、かなりの大人数で夜を迎えていたが、三日目の休憩所には俺達しかいなかった。

 もしかすると、前と後ろで休憩所で単独になるように、他の商隊や馬車に妨害工作などが加えられていたのかもしれない。



「今夜は寝ずに見張りにつく、馬を入れる厩舎に火をかけられても不味い。馬を少数で分けて安易に排除されないように分散させよう」


「了解した、すぐに手配する」


 団長の指示により、護衛員達が馬車に繋がれている馬を集め、休憩所の柱や近くの樹木につなぎ分散させていく。

 休憩所を囲むように護衛員を配置し、俺も周囲を警戒するが、今のところは光点も動く音も聞こえない。やがて日は落ち、緩やかな風の吹く休憩所は夜の闇へと包まれていった。






 休憩所の周囲に設置してある、据え置き型の篝火に火をいれ休憩所内部の明かりは確保しているが、明暗の差により周囲の闇の中がより濃く沈んでいる。

 俺はケブラーマスクのレンズのNVナイトヴィジョンモードに切り替え、周囲を監視しながら巡回警備をしている。


 周囲に不審な物音はしない、他の護衛員たちの言葉少ない会話や歩く音、篝火の薪が割れる音だけが響く夜の闇が、だんだんと濃くなっていく、NVモードで周囲を見ている俺の目にも判るほど濃くなっていく……?



「”闇の霧ダークミスト”だ! 敵が来るぞ!」



 護衛員の一人が叫ぶ声が聞こえた。周囲は瞬く間に黒い霧に包まれ、数m先の視界すら確保できない。すぐさまNVモードから、FLIR(赤外線サーモグラフィー)モードへと切り替える。

 闇の霧の向こうに、右往左往する護衛員たちの姿が見えてきた。



「魔術隊員は霧を吹き飛ばせ! すぐに来るぞ! 戦闘用意!」



 団長の声だ。たしかに、視界を闇で覆うのは接近するのを見られないようにするためだ。この霧を撒いた襲撃犯たちが襲ってくるはず――。

 俺もすぐにラピテリィカ様とアシュリーが休んでいるテントへと向かい、まずは中の様子を窺うと――



「大丈夫か!」



 テントの中に居る二人は、地面に横たわり、息を荒く嘔吐しながら自らの体を抱え震えていた。外の騒ぎに目を覚まし、すでに動き出す準備をしていたようだが、着替えている最中にこの体調不良を起こしたようで、軽装鎧やローブを中途半端に着込んでいた。



「シャ、シャフト殿……! ラピティリカ様はご無事、か?」



 二人に駆け寄り、この異様な体調不良にどう対処していいかわからずにいた俺の背中に、団長の声が掛けられた。



「二人とも急に嘔吐しだしたようだ、毒か?」


「ま、魔術師殺しだ。風上から、魔力の高い者ほど、は、激しい体調不良を起こす毒煙を流された」


「魔力干渉型の毒か、解毒剤はないのか?」


「ない! この毒草は、戦時の騎士団か、大掛かりな盗賊団の討伐などにしか、し、使用を許可されていない、所持も、栽培することも罪になる。解毒剤は、王都かヴェネールに戻らねば手に入らぬ」


「解毒剤が無いとどうなる?」


「魔力保有量が、す、少ない者ならば死ぬことはない。しかし、一般的にま、魔術師を名乗る者達には猛毒だ、吸い込んだ量によっては、い、一日持たぬ……」



 ここから王都もヴェネールも、馬車で二日かかる。いや、それよりも!



「西から来たぞ! 数は11!」



 俺のマスクのレンズに映るマップに、11個の光点が浮かび上がった。



「団長、二人を頼むぞ」



 顔を青くし、震え苦しむ二人をテントの寝床へと運び、団長に二人の看護を頼んだ。



「わ、わかった。できる、ことはすくないが、天幕に入り込んだ賊は、か、必ず止めて見せよう」



 テントから出ると、すでに黒い霧は収まっているようだが、代わりに淡い紫色の煙が流れているのが見える、これが魔術師殺しか。周囲を見渡すと、既に戦闘が、いや一方的な虐殺が始まってる。

 毒煙を吸い込み、倒れこんだ護衛員たちの首元に、細身の長剣を突き刺しまわっている者。比較的軽度の症状で治まってはいるが、明らかに動きの落ちた護衛員を短刀で切り刻んでいる者。倒れた魔術隊員と思われるローブを着た護衛員の腹をひたすら蹴っている者。




 その光景に、アシュリーやラピティリカ様とは違う意味で吐き気を覚え、オーバーコートに隠し持つ、スミス&ウェッソン E&E トマホークのグリップを握った。





時間が取れなくて序盤を前話に組み込めなかったら、大惨事ですよ。

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