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 ラピティリカ様が宿泊する、「栄光の都亭」に現れた5人の賊の内、3名を殺害、1名を捕縛した。最後の1名は、GPSトラッキングダーツというVMBのオリジナル銃を使用し、発信機を撃ち込んでわざと逃がした。


 今は捕縛した一人の襟首を掴み、引きずるようにして護衛団が警護している離れ家に向かっている。引きずられている賊は、トマホークの投擲によって切断された右足の太もも付近を手で押さえ、黙って引きずられている。


 

 離れ家を警護する護衛団の姿が見えてきた。賊らしき何かを引きずる俺に気付き、3人ほどの護衛員が駆け寄ってきた。



「シャフトさん! そいつが賊ですか?!」


「北に少し入ったところで3人殺った。人を向かわせて回収してくれ。それと、こいつから裏を聞きだせ」



 そういって、引きずってきた賊の男を護衛員の前へ放り投げ、俺は離れ家へと入っていった。




 離れ家の中は依然として警戒態勢である。リビングに現れた俺の姿を見て、護衛団の団長とアシュリーが近付いてくた。



「シャフト、怪我とかはない?」


「シャフト殿、無事なようだな。賊はどうなりましたか?」


「怪我はない、大丈夫だ。確認できた賊は5名、一人は捕縛し、一人はわざと逃がした」


「わざと逃がした? それはまた何故そのような事を?」


「逃がした賊の居場所は特定できている、これから向かうつもりだ。団長にはこのまま宿の警護を頼みたい、捕縛した賊は護衛団に任せた、情報を聞き出しておいてくれ」


「警護するのは我々の任務だ。それは構わないのだが、一人で行かれるのか?」


「そうだ、一人の方が動きやすいし、俺の戦い方はソロ向きなんでな。アシュリー、ラピティリカ様にはもう休んでもらってくれ、まだ周囲に賊が潜んでいるかも知れないが、明日の日程に支障が出てしまうからな」


「わかったわ、でもシャフト、もしも賊の逃げ込んだ先に貴族がいた場合、すぐに引き返してきて、決して攻めてはだめよ?」


「貴族に手を出すのは不味いと言う事か?」


「そうよ、貴族を罰せられるのは王族か貴族だけよ。その場での正当防衛なら許されるけど、後から攻めるのは不味いわ」


「――わかった。覚えておこう」



 賊が逃げ込んだ先が貴族の邸宅なら、爆破して問題解決! と思っていたのだが、貴族に手を出すのは不味かったのだな……思わず俺が手を出した面々を思いだしたが、貴族はいないな……。



 ラピティリカ様への経過報告は団長とアシュリーに任せ、俺は逃がした賊を追うことにする。


 いつ襲われるかも判らない状況を続けるよりも、潰せる時に潰しておきたい。




 一旦、二階にある寝室の、俺に割り振られている部屋に向かい、そこでTSSタクティカルサポートシステムを起動し、FMG9とマガジン、サイレンサーを取り出す。

 スミス&ウェッソン E&E トマホークとウェルロッドver.VMBだけでは、潜入する事になった場合に武装が不安だからな。


 ウィンドウモニターにマップを表示し、発信機の現在地を確認する。GPSの光点が映っているのは、俺がまだ近寄った事のないところだ、マッピングできてなくてマスクされている部分にGPSの光点が浮いている。


 準備を終え、GPS発信機の光点が留まっている位置へと出発した。






 完全に日が落ち、時刻はもうすぐ24時になる。一目を避けながらヴェネールの街道を走り抜け、光点に近付いていく。賊は間違いなくヴェネール内にいるようだが、光点があると思われる付近には建物があるようには見えない。


 腰に差しているウェルロッドを抜き、いつでも発砲できるように両手でホールドしながら光点に近付いていく。光点に動くようすはない、ケブラーマスクのレンズに映るマップもマッピングが終わり、光点付近のマップが表示されているが、そこは何もない場所だ。


 周囲に他の光点もない、集音センサーにも動く音は聞こえない。GPSの光点に一番近い石造の建物……これは酒場兼宿屋か? すでに酒場の営業は終わり、二階の宿の個室から男女の喘ぐ声が複数個所から聞こえてくる……。

 緊張感が途切れそうになるが、その音は意識しないようにしながら、建物の屋根にウォールランで駆け上がる。


 依然として光点は動かない。これはもう予想できる展開は一つしかないな、建物の屋根に体を隠しながら、GPSの光点を浮かぶ位置を見下ろす――そこは資材置き場のような場所で、石造レンガや木材が置かれている。

 GPSの光点が浮かぶ場所には、黒い影が横たわっているのが見える。その周囲を探るが、他には誰もいないようだ。念のため、レンズをNVナイトヴィジョンモード、FLIR(赤外線サーモグラフィー)モードと切り替え、周囲に誰もいないのを確認する。


 建物の屋根から降り光点の黒い影に近付くと、やはり逃がした賊が横たわっていた。



「消されたか……」



 どうやら、わざと逃がした賊は、ここで誰かと会い、その人物に消されたと言う事か。これでは裏にいるのが貴族なのか、またどこかの商会なのかは依然として不明か。


 賊の背中の黒装束には、直径1cmほどの円形のGPS発信機が鈍く点滅している。これに気付いて消されたわけではないだろう。いや、この世界の誰がGPSなど知っていようか。つまり、この賊の雇い主、もしくは闇ギルドは襲撃の成否関係なく、この賊たちを殺すつもりだったのかも知れないな。


 そんな考察をしながら、TSSのマップ表示からGPSの光点をタッチし、表示を削除する。同時に、目の前の賊の体に付いているGPS発信機が、小さな光の粒子となって消えていった。






 賊をわざと逃がしたが、成果は何もなく、時間の無駄になったなと思いつつ「栄光の都亭」へと戻ってきた。護衛団の団長に逃がした賊が殺されていた事を話し、右足を切断して捕縛した賊からは、何か聞けたのかを確認すると、こちらも何もなしと言う事だ。


 しょうがない、ラピティリカ様は望んでいなかったが、拷問してでも情報を引き出すか……。



 本館の一室で賊への聴取をおこなっている。団長と共にその部屋に向かい、椅子に座らせ縄で縛り上げられた賊は、黒頭巾を外され、うな垂れるように下を向いていた。



「どうだ、何か喋ったか?」


「シャフトさん、団長、こいつ口堅いですよ。名前も何も喋りません」


「団長、治癒魔法を使える護衛員を用意してくれ、口で喋れないなら体に喋ってもらおう」


「そうだな、二人連れてこよう。交代しながらおこなえば、朝まで聞いていられるだろう」



 俺と団長の声に、うな垂れる賊の体が反応して震えるのが見えた。どうやら、すでに限界が近いようだな。



「おい、貴様。俺を知っているか?」



 賊の目の前に立ち、しゃがみ込む。うな垂れる賊の髪を掴み、前を向かせる。そこに在るのは俺のケブラーマスクだ。



「……シャフト」


「ほぅ、この都市でも俺の名前は届いているんだな。俺を知ってて、ラピティリカ様を襲撃しようとしたわけか」



 賊の顔は、少しホリの深い、アジア系に似ている男だった。髪色はダークブラウンで短めに切ってはいるが、掴めないほどでもなかった。その目は、俺と目を合わせないようにせわしなく動き回っている。



「これから、朝までお前の顔を剥ぎながら治癒魔法をかけてやろう、剥いで癒して剥いで癒して、それを朝までだ。お前は何も言わなくていいぞ、どうせ何も知らないのだろう?」



 俺の集音センサーには、目の前の賊の心音が激しく鳴っているのが聞こえる。心拍数があがり、胸を突き破りそうなほどの鼓動をあげている。



「もうお前には何も聞く気はない、朝までかけてお前を壊したら、ヴェネールの一番目立つ場所に張り付けてやろう。この俺が護衛するラピティリカ様に手を出すと言う事が、どういう事なのかを知らしめてやる」



 目を合わせれなくて揺れ回っていた賊の目が、何か信じられないようなものを見る目で俺の目を見ている。



「なーに、死にやしない。治癒魔法はかけるからな、ただ――」



 そう言いながら俺は、賊と目を合わせながらケブラーマスクを外し、その目の前にゾンビフェイスを晒した。



「ただ、お前の顔はこんな風になるだろうがな」



 目の前に晒された、表情筋の剥き出た頬、剥きだしの眼球、赤く腫上がった爛れた額、そんなゾンビフェイスを目の前に見せ付けられた賊の男は、俺が髪を掴み上げているにもかかわらず、俺の手ごと震えで揺らすほどの怯えを見せた。



「ま、まま、待ってくれ! 話す、何でも話すから勘弁してくれ!、お願いだ、おねが、お願いします、お願いします……」





 折れたな。





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