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 ラピティリカ様のヴェネールでの外遊日程1日目が、もうすぐ終わろうとしている。彼女自身はもうすでに明日に備えて寝ているはずだ。俺は護衛団の団長と、今日一日の報告会を終え、ヴェネールでの宿としている、「栄光の都亭」の本館から宿泊している離れ家へ向かって歩いていた。


 今夜の報告会では、ラピティリカ様の周辺に特に異常が見られないことを確認し、それに加えて、思わぬタイミングでアシュリーの家系に関する話を聞いた。

 このクルトメルガ王国の永世名誉宰相の家系でありながら、権力をもつ事を禁じられた貴族、その次期当主候補……。しかし、この次期当主候補というのは本家の血筋の長女であると言う事だけらしく、なんらかの事故などで死去する事があれば、本家の別の者か、分家から候補を立てるだけで、一族内でもなんら力を持たぬ地位なのだそうだ。



 そんな団長との会話を思い出しながら離れ家に入っていこうとしたとき、ケブラーマスクのレンズに映るミニマップに、複数の光点が掠っていくのが見えた。

 本館から離れ家を繋ぐ通路ではない、それを覆うように植えられた樹木が並ぶ庭木の中だ。



「来たか――」



 王都で聞いた、暗殺依頼を受けた闇ギルド、それがここでやっと行動を起こしたようだ。



 すぐに離れ家に入り、目に入った使用人に集合するように伝え、二階の寝室へと急ぐ。ラピティリカ様とアシュリーは、ツインベッドが置かれている部屋を私室としている、ドアをノックし、アシュリーを呼びだした。



「どうしたの?」


「不審な影を見つけた、本館へ光弾を挙げてくれ、それとラピティリカ様を連れて一階へ」


「わかったわ」



 予め、襲撃があった際の行動は決めてある。離れ家が先に襲われた場合は、本館にいる護衛団への合図として、夜空に光弾を打ち上げて、緊急事態を知らせることになっている。

 また、領地やバルガ公爵家の邸宅がある王都ではないヴェネールでは、誰が味方で、誰が敵かはわからない。ヴェネールにある公爵家の別邸は留守役がいるだけだし、小領主の立場もこうなっては不鮮明だ。下手に動き回るよりも、ここで守りを固める方がいいと決めてあった。


 一階に移動し、使用人達がリビンクに集まっているのを確認する。



「全員いるな、外に不審な影を見つけた。いま、ラピティリカ様も降りてくる、しばらくはここで待機していてくれ」



 使用人達が顔を青ざめながらも頷くのを見て外を確認すると、夜空に光源が現れたのか、白い光がふりそそぐのが見えた。

 アシュリーが手筈通りに光弾を打ち上げたのだろう、護衛団もこちらへ向かってくるはずだ。レンズに映るマップの縮尺を変更しながら、賊の位置を探す……いた!



 本来、人がいるはずのない庭木の中に、光点が一つだけ浮かび、すぐに消えていった。

音を消しながら移動しているのだろうが、何かしゃべったのか、音を出したのか、一瞬だけ点灯したのを見逃さなかった。

 賊は離れ家の北側に留まっているようだ、光弾が打ちあがるのを見て、こちらが気付いた事を察したのだろう。このまま攻めてくるのか、一旦引くのか、迷っているうちに護衛団が防備を固めに来てしまうぞ?



「ラピティリカ様はご無事か!」



 本館から走ってきたのか、軽く息を上げながら団長が離れ家に入ってきた。



「私は大丈夫です」



 すでにリビングへと降りてきているラピティリカ様が、団長を労うように声を掛けた。団長はラピティリカ様の無事を確認すると、改めて離れ家の様子を確認し、最後に俺に目を合わせ、こちらに寄ってくる。



「シャフト殿、これはいったい、賊ではないのか?」


「いや、賊で間違いない。離れ家の北の庭木の中に数名の賊が来ている。光弾の光や護衛団の素早い対応に、攻めるか悩んでいるようだ。護衛団は離れ家を固めてくれ」


「シャフト殿は?」


「俺は賊に挨拶をしに行こう」



 ラピティリカ様とアシュリーに外へ出る事を伝え、護衛団に警護を代わってもらい離れ家の外へと出た。

 すでに警護団が総出で離れ家を囲っており、容易に手が出せる状態ではないだろう。


 俺はレンズをNVナイトヴィジョンモードに切り替え、庭木の中へと進んでいく。最後に見えた光点は30mほど先だったはずだ、マップを見ながら回り込むように光点が浮かんだ位置へと近付いていく。






 見つけた! 賊の数は5人、これで全員なのかはわからないが、手持ちの武器の数から考えると都合がいい。

 オーバーコートに隠し持つ、スミス&ウェッソン E&E トマホークを両手に握り、奴らが撤退を開始する前に数を減らす。



 円陣を組むように固まり、聞き取れないほどの小声で、しゃがみこみながら何かを話し合っている。着ている服装は、宿の人間ではない事が一目でわかる。黒装束の忍びのような野党のような、頭巾と布で頭と口元を隠している。


 そんな格好で、公爵家三女の宿泊する宿の敷地に無断侵入していれば、先制攻撃されてもしょうがないよな?

 15mもない距離から、投擲武器使用時のクロスヘアであるシングルラインを賊の首筋に合わせ、連続で投擲していく。円陣を組む賊の内、2名がくぐもった声を出し、同時その首が落ちた。


 目の前にいた仲間の首が突然落ちた事に、何が起こったか理解できていないようで、賊の動きだしが遅い。投擲して場所を変えるつもりだったが、そんな反応しか出来ないのならば! 


 オーバーコートから残り二本のトマホークを握り、首が落ちて血を吹き上げる味方の姿に、腰が引けて動けない賊の一人へ投擲。3人目の顔がトマホークによって割れたところで、残りに二名の賊はその場を飛びのき、撤退を開始した。


 だが、二人も逃がすつもりはない。逃げる賊の後を追いながら、その背中にトマホークを投擲し、樹木を飛ぶように避けながら走る賊の右足を切断した。



「ぐぅわぁ!」



 思わず出たのだろう悲鳴を聞き流し、もう一人を追う。


 もう手持ちのトマホークはないが、腰にはウェルロッドver.VMBがある。しかし、それは使わず、胸のショルダーホルスターに入れておいた特殊な銃を抜く。

 あいつは簡単には殺さない、やってもらう事があるのだ。



 逃げる背中を追いながら、クロスヘアと賊の背中が交差した瞬間にトリガーを引いた。


 空気の抜ける音が鈍く響き、賊の背中にそれがヒットしたのを確認し、俺は追跡するのを中断した。




 俺が賊の最後の一人に使用した銃は、GPSトラッキングダーツという、VMBオリジナルの銃器だ。この銃はハンドガンタイプの非殺傷銃器で、相手にダメージを与える事はできないが、代わりに着弾すると、対象に超小型のGPS発信機を付着させ、惑星の周りを周回するGPSグローバル・ポジショニング・システム衛星により、発信機との電波のやり取りによって、発信機の位置を特定し、マップに表示させる事ができる。


 この時に表示される光点は、マッピングの有無に関係なく、マッピングしていない位置でも受信機の位置を光点表示させる。


 この世界でも使用できるのか心配だったのだが、試し撃ちですぐに使用が可能なのは判明していた。この世界の空高く上に、GPS衛星が本当にあるわけではないだろう。しかし、VMBのゲームとしての力の再現が、この銃の使用を可能にしている。



 これで、あの賊が逃げ込んだ場所が奴らの根城、もしくは依頼の経過報告で依頼主の下まで案内してくれるだろう。まずは右足を落とした奴から、聞けるだけ話を聞くとしよう。


 賊が消えて行った暗闇を見つめながら、この後の予定を組みなおし、今夜中にけりをつけるか、それとも明日以降にするか考えながら、離れ家へと引き返した。





使用兵装

スミス&ウェッソン E&E トマホーク

アメリカのS&W社が販売している投擲可能な近接武器の手斧で、全長は40cmほど、斧刃は斧頭の突起を含め20cmほどになる。

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― 新着の感想 ―
×野党 ○野盗
[一言] スミス&ウェッソンが斧を販売してるのは知らなかった しかも最近は キャンプで使われてる。
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