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「ひっ!」



 タクティカルケブラーマスクを外し、正面から俺の顔を見たラピティリカ様が、小さな悲鳴を上げた。成人直後から冒険者として活動を始め、Cランク冒険者として緑鬼の迷宮最深部まで到達した彼女から見ても、テーブル1台を挟んだ距離で見た俺の顔は、僅かとは言え声を上げるのを堪える事が出来なかったようだ。


 ケブラーマスクを外した下の顔は、当然ながらシュバルツの顔ではない。貴族と言う身分が上の人物に対して、マスクを付けたまま会談が出来るとは考えていなかった。必ず素顔を見せることになる。それに対する備えが無ければ、俺は公爵と会うという選択肢を取らなかっただろう。ほとぼりが冷めるまで、シャフトとしては一切行動を起こさなかったはずだ。


 今の俺の顔は、アバターカスタマイズによってシステム的に顔の造詣が変わっている。これは、素顔であるシュバルツの顔が自由に変えられるわけではない。顔の骨格や目鼻の形をカスタマイズすることは出来ない。

 しかし、フェイスアクセサリーとして、ほくろや傷跡、タトゥーペイント、フェイスペイントなどを設定することが出来る。


 俺はそれを利用し、VMBでおこなわれた限定イベントで手に入れたフェイスペイント、ゾンビフェイスに設定しておいた。蝙蝠男マスクとの兼ね合いもあり、フェイス加工してあるのは顔の上半分のみだが、皮膚は赤く変色し、眼球は白く濁り、左目の周囲の皮膚は爛れ、目玉が大きく剥き出ている。右側の上皮は無く、顔の表情筋があらわになっており、顔の上部である額部分も火傷の様に爛れ、禿げ上がっている。



「これでよろしいか?」



「あ、あぁ、もうマスクを付けていいぞ」



 ケブラーマスクを再び被り、ふと横のマルタさんに目をやると――めっちゃ驚いていた。

 いやいや、事前に聞いておいたじゃないか、顔を変える幻影魔法のような魔法や魔道具は存在するのか? と、無いと言うから、この方法での誤魔化しを自信をもって実行できたのだが。



「シャフト君、話を再開しようか」



 ケブラーマスクを着け終えたタイミングで、ラピティリカ様の横に座る壮年の男性が切り出した。



「ええ、フランクリン・バルガ公爵閣下でお間違いないか?」


「ああ、私がフランクリン・バルガだ。横の騎士は西方バルガ騎士団の団長、スティード・バルガ。そして、この娘が君に護衛を頼みたい、ラピティリカ・バルガだ」



 この騎士が騎士団長か――護衛対象はラピティリカ様で間違い無しと――



「シャフトです」



 ソファーに座ったままではあるが、そのまま頭を下げ一応の敬意は示しておく事にした。事前にマルタさんに簡単な礼儀作法は聞いてあるが、どこまで正しくおこなえるかは正直わからない。まぁ、誠意さえ見せておけば問題ないと願おう。



「君の噂はバルガの私の下まで届いているよ」


「噂、ですか?」


「そう、王都の新興商会であるヤゴーチェ商会を完膚なきまでに潰し、単独で盗賊団”鬼蓮オニバス”を潰し、護衛対象を守るためなら王都の破壊も厭わない黒面の傭兵。王都周辺の裏社会では、黒面の護衛対象には手を出すべきではないと噂しているそうだよ」



 なんだよそれ……完全にやりすぎたと言うことか……。



「随分と、脚色が過ぎる噂のようですね」


「そうかい? しかし、その噂を私は欲していてね」


「つまり、私にラピティリカ様を護衛させれば、噂を信じた者達の動きを抑えられると?」


「そういうことだね、もちろん君自身の力にも期待はしているよ。王城や晩餐会に連れて行ける護衛は、男女合わせて2名だけだからね、そこにはより強いものを、より周囲に影響を与えるものを置きたい」


「閣下、詳しい内容は私から説明いたします」


「そうかい? では頼むよ」



 そう言って、ソファーの後ろに立っていたスティード団長が前へと回ってきた。



「シャフト、貴公に依頼したい護衛期間は約一ヶ月だ。ラリィと公爵閣下は、数日後には王都へと向かわれる。王都に数日滞在し、その後別の地方都市へと向かわれ、再び王都へ戻る。そして再びバルガに戻るまでが貴公に依頼したい期間だ」


「主な護衛場所は街道と言うことでしょうか?」


「街道はもちろん、常にラリィの傍に居てもらう。王都や地方都市では、夜会への出席が数回予定されている。それにも参加してもらう」


「なるほど……閣下。ラピティリカ様は何者かに狙われているのでしょうか? 私の噂が必要なほどに危険があるのなら、騎士団の方々や、ラピティリカ様がご参加されていた山茶花サザンカといった、冒険者に依頼を出すことも必要と考えますが」


「確かにその通りだね。しかし、西方バルガ騎士団はバルガ領を越えることはできないのだよ。そして、山茶花はとても信頼できるクランだが、そこには貴族の令嬢も多く参加している、ラリィのようにね。彼女達は、成果を上げるまでは決して社交界には上がらないのだよ」



 確かに、山茶花には貴族令嬢が多く参加していると、ミーチェさんは言っていたな……。だが、他の一般の傭兵でもいいのではないか? そう思い、それを聞こうとしたが、公爵には更に理由があるようだった。



「それにねシャフト君、私はどこの誰ともわからぬ輩に、ラリィを護衛させるつもりは無い。その問題を解決し、より力のある護衛を探すと、君以外に適任はいないのだよ」



 バルガ公爵の細く鋭い目が、ケブラーマスクの内側で濁る俺の眼球を捉え続けている。この人は目で人を判断するタイプだろうか、俺の深淵をずっと探り続けている。



「私も有象無象の傭兵の一人でしかありません」



 自然と、俺の目も公爵の目を捉えて離さない。この壮年の人物は、柔らかい物腰や口調とは裏腹に、強い信念と確固たる自信を持っていることが窺える。簡単には諦めてはくれないようだ。



「いいや、君は違う。君の身分保障を、マリーダ商会がおこなっている事は知っている。マルタの目にかなった男が、凡才な冒険者の兼業傭兵とは考えにくい。それだけを見ても、君は今回の依頼先としては合格なのだよ」



 これは……断りにくい。まず、俺には明確な断る理由が用意できていない。他に仕事があったとしても、公爵からの依頼より優先する仕事とは何か? それを用意できなかった時点で詰んでいたのかもしれない。

 そして、これを断ればマリーダ商会に傷を付けかねない。俺を専属護衛として雇うために公爵の誘いを断らせたと、要らぬ悪評が立ちかねない……。



「畏まりました。ラピティリカ様の護衛、お受けいたします」


「そうか、よろしく頼むよ、シャフト君」


「はっ――、最後にもう一度、私は何からラピティリカ様をお守りすればよろしいのでしょうか?」



 この質問は少し前にもしたが流された、しかし確認しておかなくてはなるまい。護衛すると決めたからには情報は必要だ。そして、その答えはスティード団長が答えてくれた。



「全てだ」


「全て?」


「社交界に上がった年頃の娘をもつ、全ての魔導貴族からだ」




 は?





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