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今日は投稿しないと言ったな、あれh(ry




 マルタさんを経由して持ち込まれた、シャフトへの護衛依頼。俺はこの依頼を一言で断るのは無理だと直感していた。


 マルタさんは「私のことは気になさらずに、連絡は取れませんでしたとお断りを致しますので」と言っているが、王都でも指折りの商人であり、今回の収穫祭の優先買取権まで手に入れたマリーダ商会が、一人の傭兵を追えないなどと通用する訳がない。


 その事をおいたとしても、俺はこの依頼が少し気になっていた。マルタさんが言うには、護衛対象は公爵本人ではなく、三女のラピティリカ様だろうと。

 ラピティリカ様……ラリィさんとは、今は滅んだ緑鬼の迷宮を共に攻略した仲だ。見知らぬ貴族の娘ならば、気にするのはマルタさんだけで終わったが、決して知らぬ相手ではない。



「わかりました。とりあえず、シャフトとしてお話は聞きに参りましょう。二日後にシャフトとして商会に来ます。公爵閣下への取次ぎはお願いしますね」


「畏まりました。こちらで全て準備しておきます」



 マルタさんは深く頭を下げ、そう言ってくれたが。話を聞いた上で判断し、場合によっては断る。そう心に決め、一旦宿へ戻ることにした。




 翌日、城塞都市バルガをシュバルツとして出発し、バルガの南へと散歩がてら1日過ごし、夜が明けてからシャフトとしてバルガへと戻り、朝早い時間だが、そのままマリーダ商会へと向かった。



 マリーダ商会が見えてくると、倉庫からの納品の荷馬車だろうか、商会前で荷卸が大忙しでおこなわれていた。荷馬車の周りには護衛の姿も見える。



「あー! シャフト!」



 あー! って、そんな声上げたら周りの護衛が腰に手を当ててるじゃないか。俺の姿を目にして声を上げたのは、狐系獣人族で銀髪のシルヴァラだ。



「大丈夫だ、彼は商会長のお客さんだよ」



 そういって周囲の護衛を宥めてくれたのは、シルヴァラの双子の姉の金髪のアルムだ。



「しっかり護衛をやっているようだな」


「あんたのおかげさ」


「そうさ、おかげでこうやって生きていられる」


「ふっ、ついでに鍵を開けただけだ。それよりマルタはいるか? 呼んでると聞いて出向いたのだが」


「ちょっと待っててくれよ! 姉さん、あたいが商会長呼んでくるよ」






 商会の荷馬車を警備している護衛の中で、シャフトを知っているのはアルムとシルヴァラだけだな、他は知らない面々だ。

 少し待つと、すぐに店舗の奥から支店長のビルさんがやってきた。彼にはまだ、シュバルツ=シャフトだとは伝えていないが、この機会に話してしまってもいいかもしれない。



「お待ちしておりました。奥へどうぞ」



 ビルさんはタクティカルケブラーマスクの威圧感に押され少し腰が引けていた、これは早く伝えておいた方がいいかもしれないな……。



「おはようございます、シャフト様。お待ちしておりました」


「朝からすまないな、支店長も同席してもらって構わないか?」


「え? わ、私もですか?」



 俺の急な提案に、普段の温厚で落ち着きのあるビルさんとは思えない慌てようを見せた。マルタさんは俺の提案の意図にすぐに気付いたようで、横に座るように促している。

 ビルさんが恐る恐る俺の対面へと座る。マルタさんはニコニコ顔だ……この人この状況を楽しんでいるな……。



 ケブラーマスクのレンズに表示されている、マップや集音センサーには部屋の外に誰もいない事を示している。誰かに会話を聞かれる恐れのないことを確認し、ケブラーマスクを外した。



「シュ、シュバルツさん?!」


「ビル、声が大きいですよ。シャフト様がシュバルツさんだと言うことは、誰にも話していけない秘密なのですからね」


「おはようございます、ビルさん。色々な理由で周囲には秘密にしています。今後のことを考え、ビルさんにも知っておいてもらったほうがいいだろうと思い、同席していただきました」


「そうでしたか、お声が違うのは魔導具か何かですか? それに商会長が全幅の信頼をシャフト様に寄せていた理由が、やっとわかりました」


「ええ、この黒面だけでなく、声も変えています」



 声を戻すにはTSSタクティカルサポートシステムから、コミュニケーション設定を変更しないといけないから、そこまで教える必要はないだろう。



「シュバルツ様、シャフト様、両者に関しての一切の情報は、決して表には出しません。それに、言っても信じてもらえそうもありませんし」



 そう言ってビルさんは、俺の情報を口外しないことを改めて約束してくれた。その後は、ビルさんに領主のバルガ公爵家へと先触れに出てもらった。


 いきなり城を訪ねるわけにもいかないからな、出向いていい時間を確認し、それまでの間に色々と準備を進めておく。マルタさんに公爵の人となりを聞いたり、タブーが無いかどうかの確認や、他にも幾つか確認をおこなった。

 先触れから戻ったビルさんから、正午頃に登城するようにとの知らせをもらった。俺とマルタさんは、その時間まで確認作業をして過ごす事にした。






◆◆◇◆◆◇◆◆





 約束の時間が近づき、俺とマルタさんは城塞都市バルガの中心にある白亜の城、バルデージュ城へときていた。

 バルデージュ城は、敷地中央の大きな城と周囲に4本の尖塔で構成され、敷地内には平屋の建物も幾つか見えた。城門で公爵と面会の約束があることを告げ、身分証の確認などを経て敷地内へと入っていった。

 馬車は御者のビルさんに任せ、俺とマルタさんは案内の衛兵と共に、城内へと入っていった。公爵は執務の最中と言うことで、執務室へ向かっている。


 俺の黒面に相当警戒心を強めたのか、先導する衛兵1名と俺とマルタさん、その後ろに更に衛兵が2名追従し明らかに警戒されているのを感じた。



 連れられた執務室前にも、衛兵が2名立っていた。先導していた衛兵が取次ぎを行い、執務室の中から「入れ」との声を、俺の集音センサーが捉えていた。衛兵に促され、俺とマルタさんの二人だけで執務室内に入っていく。



「失礼致します。マリーダ商会のマルタでございます」


「傭兵ギルドから参りました、シャフトです」



 執務室の中は思っていたより広く、正面には執務机や書棚が並び、そこから横へ目をやると、テーブルにソファータイプの椅子が向かい合うようにレイアウトされていた。こちらが来客対応をするスペースなのだろう。

 すでにそのソファーには壮年の男性と、バルガ公爵の三女であるラピティリカ様が座っていた。


 ラピティリカ様は、緑鬼の迷宮の探索本部で出会った時のような聖職服のようなローブではなく、ショートボブに切りそろえられた金髪に合わせているのか、黄色のロングスカートドレスを着て座っていた。

 となると、隣に座っている壮年の男性が公爵なのだろう。四十代前半の壮年、ブラウンの髪にはうっすらと白髪が混じっているのが見える。ストレートの口ひげと細く鋭い目で、執務室へと入室した俺を品定めするかのように見つめている。


 さらにソファーの後ろには護衛騎士だろうか? どことなく公爵に似ている顔つきの青年が立っている。着ている鎧は、西方バルガ騎士団と基本的に同じ形で白銀のフルプレートメイルだが、施されている意匠は青いラインで描かれ、普通の騎士以上の地位であることを窺わせる。



「ご苦労だったね、マルタ。それに、君が黒面のシャフトか。まぁ、座りたまえ、ゆっくりと話をしようじゃないか」


「はっ、失礼致します」



 バルガ公爵は思っていたタイプとは違い、随分と柔らかい物腰の男性だった。着席を勧められたので、まずはソファーに座って話を聞こうかと思ったのだが。



「貴公、閣下の前でもその黒面を取らぬのか?」



 公爵とラピティリカ様の後ろに立つ騎士が、そう声を掛けてきた。



「生憎と、顔に傷を負っています故、とてもラピティリカ様の前に晒すようなものではございません」


「構わぬ、ラリィなら心配無用だ。その黒面、取って見せよ」



 この騎士、ラピティリカ様と公爵を前にラリィと愛称で呼ぶと言うことは、相当地位が高いか……親族か。


 横に座るマルタさんがソワソワしているのがわかる。たしかに、この展開は予想できたことだ。貴族、それもかなりの高位の者に対して、面をしたまま会談が進むとは思えなかった。



 だからこそ俺は――黒面に手を掛け、それを外した。





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