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アシュリーさんと共に、巣穴の最奥の小部屋から出口へと移動を開始した。道中ではゴブリンの生き残りがいて戻ってくる、なんて事もなく。俺達二人は巣穴の入り口まで来ていた。
『真っ暗ですね……』
ヘッドゴーグルに表示されている時刻は22:34。この世界の一日の時間が24時間なのかはわからないが、空には雲が出ているのか月の明かりも星の明かりも無く、あるのはアシュリーさんが唱えた光の玉の明かりだけだった。
いくら急いでマイラル村へ戻りたいと言っても、道もわからない夜道を歩いて移動するのは危険すぎる。俺は夜の林や川辺を歩くよりも、日の出を待ってから移動した方が良いのでは? と提案したかったが、俺の言葉はアシュリーさんには通じないのでそれも無理だった。
二人で川辺に並び、静かに流れる夜の滝と川の流れを見つめていると、川の下流方面からかすかな明かりが揺れているのが見えた。
「あの明かりのような物はアシュリーさんの知り合いか捜索隊とかじゃないですか?」
俺は伝わらないのを承知で下流の光を指差し、まだ静かに水を落とす滝を見つめるアシュリーさんの肩をたたいた。
『あれは……光玉の明かりです! きっと先輩が探しに来てくれたんです!』
アシュリーさんは下流の明かりに向かって、自分が出した明かりを頭の上で左右に振っている。向こうもこちらに気づいたようで、明かりが左右に揺れだした。
アシュリーさんと同じような光玉の後方には、松明の明かりだろうか? 色合いの違う、燃える様な明かりが幾つかついて来ている。
『アシュリ~! 無事だったかー!』
川下からやってきたのは、俺よりも少し背の高い短髪の女戦士だった。アシュリーさんも向こうの女性へと駆け寄り、お互いの無事を確認しあっているようだ。というより、アシュリーさんがちょっと怒られているようだが……俺は巣穴の前でそれを見つめながら、これからどう話をしようか悩むのだった。
『シュバルツ君、でよかったかな? アシュリーが助けられたそうで、私からも礼を言います、ありがとう。私はクルトメルガ王国、総合ギルド調査員のレミです。この巣穴の奥でゴブリンメイジを斃されたそうですが、討伐証を見せていただけませんか?』
レミと名乗った女戦士は、やはり俺よりも少し背が高い、俺が176cmなのでレミさんは180cm以上はあるかな、ちなみにアシュリーさんは俺より低いので160cm台だろう。
レミさんは赤い皮鎧と、背中に大きな剣を背負っていた。アシュリーさん同様この人も美人だ、しかも褐色……アマゾネスみたいだな、皮鎧はビキニアーマーじゃないけど。
そんなことを考えながら、俺は求められるままにポーチからゴブリンメイジの帯を取り出し、レミさんに手渡した。
『たしかにこれはゴブリンメイジのストラ……こんな所に上位種が出るとは……迷宮が発生したのか?』
レミさんは帯を確認し終えると、すぐに俺に返してくれた。そして、後ろに控えていた松明を持った男2名に、巣穴の捜索を命じている、部下だろうか?
『シュバルツ君、アシュリーからも聞いていると思うが、マイラル村まで同行してもらい、ギルド出張所で報告書作成のためにもう少しだけ御助力願いたい』
俺は頷いて了承の意を表すと、レミさんとアシュリーさんの3人で川の下流へと歩き出した。ここからマイラル村まではそこまで離れておらず、1時間ほど歩けば着くらしい。
◆◆◇◆◆◇◆◆
「では報告を聞こうか」
マイラル村に到着し、シュバルツさんには村に一つだけある宿屋に泊まってもらいました。こちらの要望での村滞在のため、料金は私達総合ギルド員で負担することに。私とレミ先輩、それにマイラル村駐在ギルド員、『バロルド』と『キース』の両名は、村にある総合ギルド出張所の一室に集まっていました。
総合ギルド出張所とは、村や都市にある総合ギルド支部とは違い、少人数の駐在員だけを置き、支部で発行される依頼の受付や完了証明手続きなどに加え、駐在している村の警備等も行なう国家機関の派出所です。
そもそも総合ギルド自体が国家によって運営されており、国内の治安維持、迷宮討伐、資源確保等あらゆる方面への人材育成、人材派遣を行なっています。
私はレミ先輩と分かれた後、ゴブリンに不意を突かれ巣穴へと連れ去られたこと、そこでシュバルツさんに救出されたことなどを改めて報告し、レミ先輩と合流後に、巣穴を調査していたバロルドとキースも、巣穴で確認できたことの報告をおこないました。
「巣穴には途中にゴブリンが2匹、一番奥の小部屋ではゴブリンメイジ1匹を含め16匹、計18匹の死体を確認しました。小部屋をくまなく捜索しましたが、ゴブリンが居ついたのは最近のようで、他に犠牲者がいたような痕跡は認められず、幾ばくかの食事の跡があるだけでした」
「ゴブリンの死体を調査しましたが、いずれも頭部、またはその付近に円形の刺突によるもののような傷口が共通して開いておりました。念のため傷口を開け、中を調べましたが、何も残ってはいませんでした。ゼパーネルの報告では、近接武器は使っていなかった。との事ですので、間違いなく魔法攻撃、もしくはそれに類似した魔法武器での攻撃の結果だと思われます」
レミ先輩はそこまで聞くと、目を瞑りながら思案顔で眉を寄せていた。元々私達は、総合ギルドで出された、はぐれゴブリン討伐依頼の完了報告後の周辺調査でマイラル村を訪れていたが、結果は多数のゴブリンと、その上位種のゴブリンメイジの発見でした。結果的にシュバルツさんが斃してはくれましたが、これだけの数と、上位種が発生した原因を改めて調査しなくてはなりません。
亜人種の上位種は通常種と違い、魔力、知力、筋力とあらゆるステータスが高く、中には魔法やスキルを使用する個体もいます。
そして何より上位種は、自然界では自然発生などはしません。上位種がいると言うことは、付近に魔素が濃く溜まっている場所があると言うことです。亜人種はその魔素を取り込み上位種へと進化します。
魔素が溜まりやすい場所、溜まる原因と言うのは幾つかあり、魔鉱石の鉱脈や魔水の水脈の近く、強大な魔力を持つ地上世界の覇者、ドラゴンの巣の近く、そして迷宮の発生とそこから吐き出される魔素の影響です。
迷宮、それは一種のモンスターであり、世界を蝕む悪意の塊、その由来やいつから確認されていたのかも判らないほど昔より存在し、古い伝承や神話によれば、邪神がこの世界を滅ぼすための尖兵を、迷宮を通して送り込んできてるとも言われています。
迷宮は数年ごとに深く広がり、より強大なモンスターや亜人種を生み出し、迷宮の外へと放出する、そして地上のあらゆる種族を敵視しています。
しかし、長い年月の間に行なわれてきた迷宮と地上種族との戦いの結果、迷宮から獲られる魔石や武具、そして転送魔法陣や最下層にある大魔力石を有効活用することにより、迷宮から強大なモンスターが溢れることは減り、一種の資源確保の鉱山的な位置に成り下がった迷宮も存在します。
「もう一度、マイラル村の周辺を広く捜索する必要があるな。ドラゴンとは思えないから鉱脈か、それとも生まれたばかりの迷宮があるかもしれない。アシュリー、城塞都市バルガへ戻り広域捜索を申請しにいくぞ、バロルドとキース両名は受け入れの手配を頼む」
そこまで指示をするとレミ先輩は私が一番気になっていた案件に話を切り替えた。
「それで……シュバルツ君のことだが、アシュリーお前はどう感じた?」
「私には外国の諜報員とは思えませんでした。言葉を話せないのが本当かはわかりませんが、あの様な見たことのない防具に短杖、それに属性すら判断つかない攻撃魔法を操り、現地人と不必要に接触するのは、諜報員の行動としては理解できかねます。バイシュバーン帝国の名前を出した時に少し苦笑しているようでしたが、もしかするとそちら方面から逃げてきたのかもしれません。旅人にしては、道具袋も持っていないようでしたし」
「お前達はどう見る? 宿屋まで案内してきたんだろ?」
「私も諜報員とは思えません。マイラル村に入ってから周囲を色々と観察していたようでしたが、あれほどあからさまに見ているような行動は、諜報活動というより観光、もしくは田舎者が王都へ出向いてきたかのような雰囲気でした。それに非常に無知だなと……宿屋の利用方法にも少し戸惑っていたようでしたし」
「私も同意見です。あれは諜報員じゃなくて、常識知らずの貴族の坊ちゃんですよ。礼節は判っているようなので、農民や平民と言うよりは貴族の振る舞いですね。たぶん、帝国の粛清を逃れた没落貴族の青年じゃないですかね」
「たしかに、バイシュバーンの氷狼帝の厳しさは、遠く離れたこのクルトメルガ王国にも届くほどだからな、どうやってここまできたのかはわからないが、害はないだろう。……では彼にはバルガへ同行してもらおう、総合ギルドにも登録していないようだからな、今後の動向が少し気になるから登録してもらい、動きを追えるようにしておく」
この後の方針が決まり解散となりました。もう夜も深い時間だけど、寝る前に体だけでも拭きたいな……体からあのゴブリンの体臭が漂って来てる気がしてちょっと臭い……