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城塞都市バルガへの帰還が一日先になった。俺は元々の予定であった、王都の散策と観光をしつつ、今回の騒動解決にあたり貰える事になった報奨金をもらいに行くことにした。
が、それは明日だ。今日はすでにお昼の時間を回り、ゆっくり散策できるとは思えないからな。
マルタ邸の客室で昼食を摂り、その後はTSSを起動し、アバターカスタマイズをまず開く。メルティアに返してもらったオーバーコートは、俺の手に戻った段階で、再びVMBのシステムに組み込まれたようだ。
アバターカスタマイズをチェックしている理由はもう一つ、シャフトとして普段付けているタクティカルケブラーマスクは、素顔を隠す意味では十分な効果を発揮してくれているのだが、誰かと一緒に食事を摂ったり、会談などでは水も飲めず、多少の不便を感じていた。
いくつかあるケブラーマスクの種類の中、俺が選択したのは限定イベントアイテムで手に入れた、某蝙蝠男マスクだ。首元まで覆うフルフェイスタイプだが、口元が開いているので飲食が可能かつ、顔の全体像は判らないので、素顔を知る手掛かりにはなり難いだろう。
服装のドイツ軍親衛隊の黒服+オーバーコートの組み合わせは、装備品の携帯性や隠密性が高いのでこのままでいいだろう。実戦を経て、有効な組み合わせであることも確認できているしな。
蝙蝠男マスクとドイツ軍親衛隊ルックをアバターカスタマイズのセットリストに登録し、これで簡単操作で一瞬で着替えられる。
銃器はセット登録できないが、アバターの着衣だけは登録できるので、着替えた瞬間の銃器の落下が発生しないように気をつけ、構成を考えていくのもまたVMBの面白いところだった。
「一緒に来たい?」
「はい! シャフト様は王都は初めてとお聞きいたしました。昨夜のお礼もかねて、わたしがご案内いたします!」
俺は蝙蝠男マスクを用意したことで、マルタ家と夕食を一緒に摂っていた。明日の俺の予定を聞き、ミネアが元気よく声を上げたのだ。
マルタさんに視線を送り、構わないのか確認すると――どうやらokのようだ、「うんうん」頷いている……。
「わかった、では案内を頼むとしよう。マルタ、一応護衛を用意してくれるか? 鬼蓮の残党でもいたら面倒だからな」
「畏まりました。アルムとシルヴァラを同行させましょう」
「やったぁー!」
「ミネア、はしたないですよ」
付いて来ることが許可され喜ぶミネアであったが、すぐにマリーダさんに窘められてしょんぼりしている。何やら大人数での散策になりそうだが、たしかに初めての王都ではどこが見所かわからないし、案内してくれると言うならば、してもらうとするか。
翌日、朝食やら出かける準備を終え、マリーダ商会の用意してくれた馬車に乗り、ミネアと護衛のアルム、シルヴァラと一緒に王都散策へ行く、筈だったのだが。
「ミネアお嬢様、それではスカートがしわになります」
「私、王都の町を歩くの初めて!」
「ずっとあの牢屋だったものね」
「シャフト様、今日はまず詰め所へ行って御用を終わらせて――」
女三人寄れば姦しい、とはよく言ったものだ。出発する前になって同行者が増えた、マルタ邸のメイドであるメルティア、住み込みでマリーダ商会で働くエイミーとプリセラ、この3人がミネアの付き添いと、今後の王都での暮らしの為に、買い物がしたいと言うことで付いてくることになった。
これに御者台に座るアルムとシルヴァラを加えて、女6人に男1人である。
ふと、前にいた世界の海外遠征で訪れた国で、言葉がわからないから付いて来て! とチームのサポートメンバーの女子たちに荷物持ちをさせられたことを思い出す。
これは……俺がたかられる流れになるかもしれん、報奨金っていくら貰えるのだろうか。
王都警備隊の詰め所は、第二区域と第三区域の境界にある。まずはそこへ向かい、詰め所で簡単な事情聴取を受け、そのあとは報奨金として3,000,000オルを貰った。
聴取の間、ミネア達は外の馬車で待機していた。残るは中央騎士団だが、騎士団の拠点は第一区域と第二区域の境界にある。
馬車に揺られながら、ミネアが中央騎士団の説明をしてくれた。中央騎士団は第一から第五までの部隊に分かれ、さらに王城を守る近衛騎士団があるそうだ。
俺たちが今向かっているのは、第四騎士団の詰め所だ。第四騎士団が王都周辺の治安を担当しているらしい、ここで報奨金を受け取る予定だ。
「シャフト、到着したぞー」
御者台から、シルヴァラの声が聞こえる。
「では、行ってくる」
「私たちはまたここでお待ちしておりますわ」
「わかった、すぐに戻ってこよう」
ミネア達を馬車に残し詰め所へと向かうと、中年の騎士が対応をしてくれた。
「貴殿が黒面のシャフトか?」
「そうだ」
「わたしは中央第四騎士団の副団長オード・サマタだ、今回はご苦労だった」
「自分の仕事をしたまでだ」
貴族……か、この中年騎士は鎧を着ていないラフな格好で現れたが、バンプアップされた上半身は年齢をまったく感じさせない力強さがあった。
「一つ聞きたい」
「答えられることならば」
「ルノードの遺体を検めると、剣や槍などの刃物ではない、魔法で倒した事が窺えるが、貴殿は魔法使いか?」
「質問に質問で返すようだが、何か意味があるのか?」
「ルノードは非常に目のいい獣人族でな、これまで奴に攻撃を当てれた者は少ない。剣や槍だけでなく、魔法もよく避ける。我ら第四騎士団は奴を何度も取り逃した、それをやった者の手段を少しでも知りたくてな」
「……魔法で斃した。しかし、俺は魔法使いでは無いな」
「ほぅ、では何だと?」
「ただの護衛だろ」
俺の答えにオードはニヤリと嗤い、「持っていけ」と報奨金が入っているであろう荷袋を差し出した。
「待たせたか?」
「いや、お嬢様は待ちくたびれてるかもしれないがな」
御者台に座るアルムに声を掛ける、そんなに待たせたわけではないが、アルムの横に座るシルヴァラは明らかに待ちくたびれた様子だったが。
「シャフト、遅いよ! あたいは待ちくたびれちまったよ」
「では、行くとするか、まずはどこに行くんだ?」
「お嬢様が言うには、まずは服屋だそうだ」
「そ、そうか……」
ショッピングから始まるのか……。
「おかえりなさい!」
「待たせたか?」
「いいえ、この後のことを考えていたらすぐでした」
「そうか、では服屋だったか? 向かおうか」
王都の服屋では、最近の流行だと聞かされた女物の服を散々見せられたが、正直よくわからん。唯一判ったのは、裁縫の技術が思ったよりも高いことと、服のデザインが元の世界とかなり似ていたことだ。
町並みから中世程度の生活レベルを思わせるこの世界だが、魔法技術により、想像以上に発展しているようだった。王都の町並みも綺麗だし、街道にはゴミや糞尿が溢れているわけでもない、浮浪者の姿なども見えなかった。
そういえば、アシュリーさんと買い物に行った時の彼女の服装も、中世って言うよりも近代的なファッションをしていたな……。
服屋の中をキャーキャー動き回るミネアやエイミーたちの姿を見ながら、アシュリーさんのあの赤金に輝く髪の艶を思いだしていた。
何か土産でも買って帰ろうかな、思わず向かった髪飾りの並ぶスペースで、彼女の髪に合いそうな髪飾りを物色していると、なぜか最終的に7つもアクセサリーを買っていた。
いや、6つは買わされた? あれ?
その後は武具屋に行き、アルムとシルヴァラの武具の新調に付きあわされ、日常雑貨を売る道具屋では、エイミーやプリセラの買った物を持ち、昼休憩とばかりに寄った茶屋で一休み。
さすがは王都だ、非常に美味しい紅茶を飲むことが出来た。その後は王都の観光スポットであると言う、建国王の銅像がある公園を案内されたり、野外演劇場などに案内された。
やはり一日では堪能しきれないな、また王都に来ることがあれば、学院や王都の資料館なども見に行ってみたい。
気付けばもう夕暮れだ、沈みゆく夕日を背に馬車はマリーダ商会へと向かった。