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本日2話目 未読の方は20:00投稿の59話からお読みください。
王都の倉庫街で対峙した盗賊団”鬼蓮”の団長、獅爪のルノード。大柄の体躯を更に身体強化魔法で膨張させ、両手の手甲から伸びる30cmほどの5爪の凶器を光らせる。
「いくぞぉ! 黒面!」
上位種の魔獣が放つ魔砲かと思うほどの咆哮を上げ、ルノードが突撃してくる。
速い! 俺は右へスライドジャンプし、その突撃を避ける。低空ジャンプの中、体を廻しルノードへとクロスヘアを滑らせる。一致した瞬間にAS_VALのトリガーを指切り。3発分をコントロールし、スライドジャンプの着地、即更に右へスライドジャンプ。
ルノードの後ろへと回り込むように移動するし、発砲の結果を見るが、ルノードは俺が腕を飛ばした男を突撃と同時に拾い上げ、盾にしていた。
「これが貴様の魔法か黒面。発動が殆ど見えねぇが、その短杖の向きに注意すれば、大した事ねぇな」
こいつ、銃器の本質をこの短い時間で見切ったのか。しかし、いつかはこんな魔獣や亜人種が出てくるとは覚悟していた――貴様に避けきれるかな?
AS_VALの安全装置をフルオートからセミオートに変更し、ルノードの胴体へ1トリガー。
銃口の放つ赤いマズルフラッシュ、その閃光に反応しルノードが右へ飛ぶが、構える照星とクロスヘアが、ルノードの体から離れることなく吸い付くように飛んだ方向へとトレースする。着地の瞬間に合わせ再び1トリガー。
「なにっ!」
ルノードは咄嗟に左手で胸を守り、急所への被弾は避けたが、AS_VALの9×39mm弾は左腕の手甲を破壊し、その太い腕に大穴を開ける。
左腕に被弾した驚きを一瞬で鎮め、ルノードは守りではなく、攻めを選択してきた。体を振りながら近づいてくる。近接戦闘に付き合うつもりはない、俺は後方へスライドジャンプし距離をとっていく。
しかし、この後方への移動はルノードに誘導された動きだった。ニヤリとルノードの口が歪む。
『獅爪破!』
俺の体が空中に飛んだ瞬間に、ルノードは遠距離だというのにアッパーのように右手を振り上げ何かを叫んだ。スキルか!
振り上げた右手の軌道が鈍く光り、その閃光が牙となって飛んできた。
AS_VALを握る左腕をそのまま全面に向け、左人差し指の付け根のスイッチを押す。瞬時に展開されるCBSとルノードのスキルが激突する。
その衝撃で、スライドジャンプの飛距離よりも更に後方へ吹き飛ばされるが、CBSはしっかりとスキルから俺を守ってくれたようだ。
倉庫の床に滑るように着地し、そのまま膝立ちの体勢に移行、再び左手でAS_VALを固定し、直撃に嗤うルノードの顔へクロスヘアを合わせる。
ルノードの顔-照星-クロスヘアと結ばれたラインに、望遠機能が動き出す。それを待たずに1トリガー、ルノードの目が見開くのが見えた。
咄嗟の回避行動だろうか、ルノードは体を左に傾け、ぎりぎりのタイミングで初弾を回避した。しかし、そいつは初弾だ――左に傾けられたルノードの体を、クロスヘアが吸い付くように追尾し、一致した瞬間にもう1トリガー。
すでに初弾を回避する為に、無理な体の傾け方をしているルノードに、それを避ける動きはできなかった。
着弾、ルノードの顔の右半分が吹き飛んだ。しかし、俺の射撃はまだ止まらない。着弾の反動で今度は後ろに体が流れ、顎が丸見えだ。伸びきった顎の裏に狙いを定め、もう1トリガー。
ルノードの大きな体躯が仰向けに倒れるが、その体にはすでに頭部が存在しなかった。
「だ、団長がやられた! ば、化け物だ!」
ルノードの部下たちが、まさかの団長の死に驚愕し、恐怖し、一斉に逃げ出す。
逃げるがいい、貴様らは特別に逃がしてやる。マリーダ商会の今後の安全の為にも、いま目にした事と、これから起こる事を王都の裏に広めるがいい。
◆◆◇◆◆◇◆◆
「娘どもがいないとはどういうことだ!!」
「はっ、それが、我々にまったく気付かれることなく外部より侵入し、地下牢に入れていた女6名をつれて逃亡したようでして……」
「だから、どうしてそんなことになっているのかと聞いているんだ!」
ヤゴーチェ商会の商会長であるヤゴーチェの叫びは、手の届くところにあった繁栄が崩れていくのを、目の前で見せられているかのようだった。
だが、お前の目の前で崩れるのが、それだけだと思うなよ?
倉庫でのルノードとの戦いを終えた後、俺はマリーダ商会には戻らず、再びヤゴーチェ商会に来ていた。
ふたたび邸宅の3階より侵入し、ヤゴーチェの自室の上に立っている。まずはお前の繁栄の象徴からだ。TSSを操作し、FMG9とマガジン、それに幾つかの特殊装備を取り出し装備していく。
ヤゴーチェの邸宅内を、護衛に見つからないように移動しながら重要そうな各所へ向かってく。更には邸宅の外も周り作業を終え、今度は商館へと向かう。
商館内では一切の隠密行動はなしだ、FMG9にもサイレンサーは付けていない。盗賊団”鬼蓮”の残党を狩っていく。商館内に響き渡るFMG9の発砲音は、鳴り止むことなく王都の闇に響き渡り、休憩所を襲撃した歩兵の盗賊だと思われる20名ほどを無力化した。
一階から三階へと順番に回り、各所で作業をしながら抵抗する盗賊を無力化していった。
途中で、普通の従業員もいるのだろうか? と発見即発砲を控えていたが、下から上まで出てくるのはどう見ても盗賊でしかなかった。
「これで制圧完了か」
三階の窓から下を見ると、商館で鳴り響く謎の爆発音に気付いたのか、邸宅からぞろぞろと護衛が出てきている、その集団の中央に一際大きな腹を揺らし、まるで蛙のようなガマ口を広げた商人らしき男もいる、あれがヤゴーチェか?
さて、そろそろ仕上げだな。
商館に入られると排除が面倒くさいので、三階の窓から飛び降り、ヤゴーチェの前に姿を現す。パワードスーツで強化された俺の足は、三階程度の高さではダメージらしいダメージは負わなかった。
「貴方は誰ですか?!」
「俺はシャフト、マリーダ商会の護衛だ」
「マリーダ商会?! ということは貴方ですね、私の邪魔をしてる黒面と言うのは!」
「そういうことになるな。しかし、邪魔をしているのは貴様のほうだと思うがな」
「何を言うか! それより、貴様は私の商館で何をしていたのです!」
「ふっ、さてなんだろうな」
「くっ、ならば答えられるようにしてあげなさい!」
ヤゴーチェの周囲に広がる護衛たちが、一斉に剣を抜いていく。俺は改めて用意しておいたM84フラッシュバンを二つ取り出し、ヤゴーチェの左右に向かって放り投げた。
轟く爆音と放たれる閃光に、護衛たちは剣を落とし、目を、耳を押さえながら倒れこみ喘いでいる。中央にいたヤゴーチェもその効果を受けているが、わざと効果範囲のぎりぎりで喰らうように投げたのだ。こちらを睨みながら膝を突いている。
「ヤゴーチェ、貴様が見た夢、俺が全て潰してやろう」
「な、なにを……」
「これが何かわかるか?」
俺はヤゴーチェに、小さな手の中に収まる程度のレバーが付いた箱を示した。
「そ、それがなん、だと?」
「これをな、こうする」
俺はヤゴーチェに見えるように、その箱に付いているレバーを握りこむ。同時に轟くのは、M84フラシュバンを越える連続した轟音。商館のあらゆる所から火を噴き、壁は崩れ、石造三階建ての商館は潰れるように崩れて崩壊していった。
「あ! あ……!!」
俺が商館にしかけたのは、遠隔操作で起爆させることができる爆破装置、C4爆弾だ。
C4とは米軍を初め、世界中の軍隊で使用されているプラスチック爆薬で、衝撃や火に触れても爆発することがなく、起爆装置がないと爆発しない爆薬で、その安全性から幅広く使用されている。
VMBのC4は、爆薬と遠隔操作の起爆装置のセットで、爆薬の数は任意で増やすことができる。起爆装置のレバーを握れば、それが一斉に起爆するのだ。
自分の商館が吹き飛ばされ、崩れ落ちる様を見えられたヤゴーチェは、ショックで殆ど声も出ないような状態だ。
だが、これで終わりではない。
崩れ落ちた商館から視線が外せないヤゴーチェに、もう一つの起爆装置を見せる。
「なっ……ま、まさか!」
ヤゴーチェはもう一つの起爆装置が意味することを察したのか、振り返り、自分の邸宅を見つめる。
「や、やめ……」
起爆装置のレバーを握る。
再び轟く爆音と爆炎が、ヤゴーチェの邸宅を包み破壊していく。
「ウワァァァァァァア!」
爆破され崩壊された邸宅の崩れる音に混じり、商館の表に多数の馬の音と、鎧の鳴る音が聞こえる、どうやら騎士団が来たようだ。あとは騎士団に投げて、俺はマリーダ商会に戻るとしよう。
ヤゴーチェは崩壊した商館と邸宅の間を何度も視線を振り、完全に思考能力が欠如しているようだった。
このまま騎士団に任せても、極刑かそれに順ずる刑罰を受けることになるだろう。
俺は騎士団に見られる前にその場を離れ、マリーダ商会へと向かった。
使用兵装
AS_VAL
ソ連のスペツナズという特殊部隊向けに開発された特殊消音アサルトライフル、使用弾薬は9×39mm弾で発射速度が遅い代わりに非常に高い消音効果を発揮する。しかし、装弾数は20発と少なく、サイレンサー持ちという特殊性能と天秤を合わせている。
FMG9
アメリカのマグプル社がグロッグ18という拳銃に外部パーツ取り付け製作したSMG。警護任務用特化のSMGで、長方形に折りたたむ事で、ズボンの後ろポケットに納まるほどのコンパクトサイズになる。
M84フラッシュバン
爆音と閃光により、相手の視覚と聴覚を一時的に麻痺させ無力化させる特殊手榴弾。