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本日は2話同時更新 59話 20:00投稿 60話は12日0:00投稿です


4/14 誤字修正

 ヤゴーチェ商会に攫われたミネアと、マルタ邸のメイドであるメルティアをヤゴーチェ邸の地下牢で見つけることができた。更に地下牢に囚われていた普人族の少女2名と、獣人族の双子の女性2名も救出することになった。


 彼女たち4名の同行の意思を確認し、まずは地下牢から一階に上がろうとしたところで、獣人族の双子の一人、金髪のアルムが声を掛けてきた。



「すまないが、ちょっと待ってもらえるか? 牢番の武器を取っておきたい」


「使えるのか?」


「これでもあたしら姉妹はBランク冒険者だ。あたしは剣を、妹のシルヴァラは槍が使える」


「Bランク? それなのに捕まってここに入れられたのか?」


「あたいらを襲ってきた中に、元Aランクの奴がいたんだ。そいつに負けて、これを嵌められちゃってね」



 そういって自分の首を指すのは銀髪のシルヴァラだ、指差す首元には首輪のようなアクセサリーがついていた。

 アルムのほうを見ると、そちらも首輪をつけていた。



「その首輪は、魔道具か何かか?」


「知らないのかい? こいつは捕縛用の魔力攪乱リングさ、これを着けられると魔力が上手く制御できなくてスキルや魔法が使えないんだ」


「スキルは使えないが、それで武器が振れないわけじゃない。自分の身を守るくらいはするさ」



 なるほど、ミネアやメルティアのほうを見ると、二人は着けていなかった。普人族の少女達、ブラウンの髪を肩で揃えているエイミーと、金髪のウェーブをおろしているプリセラも着けていなかった。彼女達には不要と判断したのだろう。



「それは外せないのか?」


「着けた奴の魔力を流すか、警備隊が持っている解除用の魔道具がないと駄目さ」



 そう言いながら、アルムとシルヴァラは牢番の待機スペースに立て掛けてあった剣と槍を取り、軽く振りながら具合を確かめている。



「問題ないならいくぞ、見回りが来るかも知れないからな」



 返答は聞かず、俺は一階への階段へと進んだ。しかし、このアルムとシルヴァラは一切胸を隠す気がないようだが、恥じらいとかないのだろうか? そんな余計なことを考えながら、上の様子を窺い上がっていく。




 隠し部屋に上がり隣の部屋へ入るが、変わったところは何もなさそうだ、まだ気付かれていないと見ていいだろう。

 ここからの脱出ルートだが、邸宅の厨房に裏口があるのがマップに映っている。そこから外へ出て、そのまま敷地の裏へ向かうつもりだ。


 だが、厨房は玄関ホールの反対側にある。先ほどやり過ごした階段前の護衛がまずいるはずだ。あいつらを排除したら移動速度を上げて一気に移動する。


 そんな予定を立てながら、見張りが座っていた部屋の窓から厚手のカーテンを引っ張りとる。恥じらいのない二人より先に、エイミーとプリセラにそれを渡す。二人は顔を真っ赤にしながら、「ありがとうございます」と言ってカーテンを体に巻きつけていく。



「廊下に出るぞ、声を出すなよ。向かう先は邸宅の反対側の厨房だ、そこの裏口から外に出る。メルティアは俺のすぐ後ろに、エイミーとプリセラは中央だ、アルムとシルヴァラは最後尾でついてこい、いくぞ」



 ドアを開け、廊下に出るが人影はない、マップや音でそれは確認できていたが、警戒するに越したことはない。音を殺しながら、玄関ホールへ向かう。


 廊下の窓にもカーテンは付いているが、それは商館側の窓なので、外すと不審に思われるかもしれない。アルムとシルヴァラの二人にはもう少しの間、下着一枚でついてきて貰うことにした。二人も気にしていないようだしな。




 玄関ホールが見えてきた。俺たちがいる廊下には僅かな灯かりしかない為、廊下に影ができている。そこに身を隠し、ホールを窺う。やはり護衛の二人が階段前で立っている。

 Five-seveNを構え、照星とクロスヘアを護衛の頭に合わせる。後ろでメルティアの息を呑む音が聞こえた。頭は止めておくか……狙いを護衛の胸に変え、手前から奥へと2連射-2連射。


 護衛二人は声を上げる事もなく絶命し、その場に倒れた。だが、俺はまだ構えを解くわけにはいかなかった、護衛が倒れる音がホールに響いたからだ。

 誰か音に気付いたかもしれないと、影に潜んだまま少し待ったが、近づく音も不審に思う声も聞こえてこない、どうやら大丈夫そうだ。


 前進する声を掛けるため、後ろを振り返るとメルティアに抱かれているミネアが、俺を凝視していた。少し顔が赤いか? 風邪を引きかけてるのだろうか、警棒を床に置き左手で再び頭を撫でてやる。



「いくぞ、ここからは少し早く動く。それと、倒れたあの二人のことを見るなよ」



 後ろの6人に声を掛け、警戒しつつも早足で玄関ロビーを横断する。一応、護衛二人が完全に停止しているか確認の視線を向けるが、間違いなく胸の急所に撃ち込めている。

 二つの遺体の前で歩を止めることなく、通り過ぎて反対側の通路まで進む。


 メルティアやエミリーたちは、それに顔を向けないように背けながらこちらへ駆け寄ってくる。最後尾のアルム達は俺の攻撃方法が気になるのか、止まりこそしないが傷口を見ているようだった。



 その後は比較的楽だった。マップを見ても、俺の集音センサーにも人の動きを知らせるものはない。厨房へ入り、すぐさま裏口のドアを開け、ヤゴーチェの邸宅を脱出した。

 表通りに行くわけにもいかないので裏通りへと出る。



「ここからどうするんだい?」



 厨房にあったテーブルクロスを、胸と腰に巻きつけたシルヴァラが聞いてきた。もちろん考えてある。マリーダ商会までは距離がある、この寒空の中を裸足で、しかも布一枚巻いただけの姿で移動させるわけにもいかない。



 俺はTSSタクティカルサポートシステムからガレージを選択し、AEC装甲指揮車 ドーチェスターを召喚する。



「な、なんですかこれ!」



 声を上げたのはプリセラだ。皆、光の粒子が収束した先に現れた鉄の箱に、声を失っている。



「質問はなしだ」



 俺はドーチェスターのリアに付いている後部ドアを開け、中に6人を乗せていく。後部居住スペースには椅子が5つしかない、まずは置きっ放しにしていた野営道具の袋から布を取り出し、上に何も巻いていないミネアに手渡す。

 5人を椅子に座らせ、絶対に立ち上がるなと忠告し、アルムには助手席に座るよう指示する。助手席に座るアルムにシートベルトを回してやり、俺も運転席に座る。


 エンジンキー代わりのエンジンスタートボタンを押し込み、ドーチェスターのアクセルを踏んでいく。



「さぁ、出発だ。すぐマリーダ商会に着くからな、もう少しの辛抱だ」








 眠りついた王都を、低く唸るドーチェスターのエンジン音と、フロントに付く小さな二つのライトの光が走る。王都の道は比較的平坦に舗装されていた為、思ったよりは揺れる事はなかった。


 そのせいもあってか、座ってろと忠告したはずの後部居住スペースの5人は、サイドに開いている小さな覗き窓から、キャーキャー言いながら外を覗いている。


 まったく……こんな暗い道を覗いたって、殆ど何も見えないだろうに。



 俺の横の助手席に座るアルムも、「この帯はどうやって取るんだ!」とシートベルトを外して外をもっと見たいらしく、あたふたやっている。俺は完全に無視である。



 ドライブの時間はすぐに終わり、マリーダ商会一階の駐車場にドーチェスターを入れた。


 そのエンジン音に、すぐに専属護衛や従業員たちが顔を出し、ドーチェスターを取り囲んでいるが、サイドのドアからミネアとメルティアを降ろしてやると、大きな歓声があがった。


 残りのエイミー、プリセラ、アルム、シルヴァラの4人も降ろし、近くにいた従業員の女性に声を掛ける。



「マルタはいるか?」


「いえ、少し前に出て行かれました」


「どこへ向かったかわかるか?」


「王都の商会倉庫が数多くある、第二区域の西だと思います」


「わかった。マルタを連れ戻してくるから、マリーダさんに彼女達の保護を頼んでくれ、事情は彼女たちが話すだろう。それと、専属護衛の皆聞いてくれ! ミネアとメルティアは連れ戻したが、彼女達に付いていた護衛3人はすでに手遅れだった。これから俺とマルタが戻るまで、商館と邸宅の防備を固めろ! まだ終わってないぞ、警備隊にも改めて協力を仰げ、メルティア! 細かい話は君がしてくれ」


「はい、畏まりました」



 これでとりあえず大丈夫だろう、次はマルタさんだ。手遅れになる前に合流したい。ドーチェスタをガレージに戻し、今度はカワサキ KLR 250-D8を召喚する。

 KLR250に跨り、エンジンを掛け商会倉庫へと向こうとしたが。



「シャフトさま! あ、ありがとうございます!」



 ミネアが顔を真っ赤にさせてそう言ってきた。俺がどこかに行くことに気付いたのか、エイミー達も礼を言ってくる。だが、まだ終わったわけではない。



「風邪を引くぞ、早く中に入れ。それにマリーダさんに無事な顔を見せてやれ。お前達もだ、ここなら安全だろう。温かいスープでも貰って、今日はもう休め」



 それだけ言い、俺はアクセルを回して第二区域の西へと向かった。







 ◆◆◇◆◆◇◆◆



 商館の扉に打ち付けられた矢文を見た私は、すぐに優先買取権よりも娘、ミネアの命を取りました。

 賊の要求はとても簡素でした。『優先買取権の権利書を持って、第二区域の13番倉庫に一人で来い、娘と交換する。』たったこれだけの要求のために、8時間も焦らされ、ミネアはきっと恐怖に震えていることでしょう。


 シュバルツさんに声を掛けましたが、彼は戻ってきませんでした。どこかへ行ってしまわれたのか、この局面でどこへ……いえ、彼には2度も救って頂きました。

 ここから先は、父親のやるべきことでしょう。マリーダも矢文を読み、目に涙を浮かべています。


 マリーダにもしもの時のことを伝え、私は一人、馬車に乗り13番倉庫へと向かいました。






 王都の灯は落ち、御者台に下げたランタンの灯かりと月明かりを頼りに馬車を走らせ、各商会の倉庫が建ち並ぶ、倉庫街へと入っていきました。指定された13番倉庫、ここはたしか先月の初めに商会長が盗賊に襲われ、商売が回らなくなり閉めることになった商会の持ち物だったはずです。


 倉庫の外に馬車を止め、13番倉庫の中に入っていきます。中には灯りはなく、積荷が置かれているわけもなく。何もない空間が広がっていました。



「マリーダ商会のマルタだ! 権利書は持ってきた! ミネアはどこだ!」


「ご苦労なこったな、マリーダ商会の商会長さんよ」



 私の叫び男の声が返ってくると、倉庫に光玉の光が浮かび周囲が明るくなりました。倉庫の奥にミネア達を攫ったと思われる男達がおりました。



「ミネアはどこだ!」


「まずは権利書だ、本物か確かめたら娘は返してやる」



 中央に立つ男が、横の部下らしき男に指示を出し、権利書をとってくるように指示しています。周囲を見渡してもミネアの姿は見当たりません。罠か……そう思っても、私にはこの取引にかけるしかないのです。



「おっさん、権利書渡しな」



 目の前までやってきた男が手を出し、権利書を渡すように要求しています。本当に渡していいのか、渡せばミネアは帰ってくるのか。数瞬の葛藤の答えは、やはり権利書を……。




 出された手に、権利書を渡そうと私も手を出しましたが。



「えっ?」



 そこに男の手が在りませんでした。



「えっ?  イデェェェェェェ!」



◆◆◇◆◆◇◆◆




 どうやら間に合ったようだな。



「手がぁぁぁ! 俺の手がぁぁぁ!」



 倉庫街に到着してから、この倉庫を見つけるのは、そう難しい話ではなかった。静かな夜の倉庫街に響く音は、主人の危険を俺に知らせる馬の嘶く声だった。


 開いている入り口から中を覗くと、マルタさんの前に立つ男が、権利書を要求しているところだった。俺はAS_VALを構え、ダウンサイトしクロスヘアを男の肘に合わせ、トリガーを引く。

 ほぼ無音の発砲による放たれる9×39mm弾は、男の肘から先を吹き飛ばし倉庫に絶叫が響き渡った。



「マルタ、商会へ戻れ。後は俺がやる」


「シャフトさん! しかし、それではミネアが……」


「心配するな、ミネア達はすでに邸宅だ。専属護衛3人は無理だったが、彼女たちは無事だ。それと、おまけもいるがな」


「本当ですか!」


「あぁ、早く戻って安心させてやれ」




「おいおい、何勝手に決めてんだこの黒面は!?」



 倉庫の入口からマルタさんのもとまで歩いていき、ミネア達の無事を伝えていると、それまでニヤニヤと権利書が渡されるのを見ていた男が、顔に激情を浮かべ吼えた。



「その黒面……休憩所で雇った冒険者と、俺の部下を殺ってくれたのはテメェだな」


「お前がルノードか?」


「そうよ、俺様が盗賊団”鬼蓮オニバス”の団長、ルノード様よ!」



 鬼蓮? あれか、池に浮かんでる円形の葉っぱの水生植物か。


 ルノードは獅子のような体躯と茶髪の獣人族だ。鍛え上げられた肉体の後ろには、黄色と茶色の斑の尻尾が揺れている。その肉体を誇示するかのように両手を挙げ、胸に力を入れるように両手を握りこむと、奴の体が更に大きく膨れ上がり、両手に装備している手甲から30cmほどの爪が飛び出てきた。



「ルノード……獅爪のルノード! シャフトさん、あいつは元ランクA冒険者で、かつて王都の北で暴れまわった盗賊団の団長ですよ!」


「マルタ、お前は早く戻れ」


「しかし!」



「はっ! 逃げ切れると思ってんのか!」



「行け! 俺なら大丈夫だ、今夜で全て終わらせる、俺もあいつをここで逃すつもりはない」


「……わかりました。商館で帰りを待っています」



 マルタさんはそう言い、倉庫の外へ向かって走っていく。その音を聞きながら俺はAS_VALの照星とクロスヘアを、ルノードに合わせていた。

 ルノードも俺が向けている物の危険性を感じ取っているのだろう。変化が起こった瞬間には回避行動を起こそうと軽く腰を落としている。


 倉庫に響くのは、いつまでもビービー泣き叫ぶ肘から先を失った男の声と、俺とルノードの殺気に押され、後ずさるルノードの部下達の足音だけだった。













使用兵装

AEC装甲指揮車 ドーチェスター

第二次世界大戦時に使用されたイギリスのAEC社製の装甲指揮車、厚い鋼板に囲われた

キャンピングカーの様な居住スペースを後部に持つ装甲バスである。


FN Five-seveN

ベルギーのFN社が開発したハンドガンで、マガジンの装弾数が20発と多く、使用される弾薬は5.7x28mm弾で貫通力に優れたハンドガン 


AS_VAL

ソ連のスペツナズという特殊部隊向けに開発された特殊消音アサルトライフル、使用弾薬は9×39mm弾で発射速度が遅い代わりに非常に高い消音効果を発揮する。しかし、装弾数は20発と少なく、サイレンサー持ちという特殊性能と天秤を合わせている。


カワサキ KLR 250-D8

伝令や偵察活動に使われるオフロードバイク。米国海兵隊や特殊作戦部隊で使用されている

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