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 俺は攫われたミネアとメイドや、専属護衛の救出を最優先事項として行動を起こした。


 まずは、商館の屋根から地上に降り、闇にまぎれて同一敷地内に建つ、ヤゴーチェ商会商会長の邸宅と思われる建物に向かった。

 邸宅に近づき、周囲に人の目がないことを、目と音で確認する。目標の邸宅は石造三階建ての白を基調とした綺麗な邸宅だ。正面玄関側の壁面には多数の窓が並び、幾つかの部屋に明かりが点いている。

 まずは邸宅の裏手へ回り、明かりの点いている部屋から距離があり、付近に誰もいない場所を探し、一気にウォールランで壁を駆け上がり屋根へと上がった。


 誘拐犯たちの話しによれば、ミネア達は地下牢に入れられているはずだが、邸宅の窓には全て鉄製と思われる格子がはまっていた。何も準備せずの救出行動の為、できるだけ音を出さずに格子を外し、窓ガラスを開けると言う行程を取れる自信がなかった。


 邸宅への進入路として選んだのは、屋根の斜面から突き出している屋根窓だ。ここの窓は木窓だけのようだった。邸宅の正面に建つ、ヤゴーチェ商会の商館から見られていないか注意しながら、木窓の中央の鍵部分をゆっくりと力を入れて押していく。

 鍵開けなんて技術は知らない、ここは力技で鍵を破壊することを選択した。パワードスーツにアシストされた力で木窓を押していき、金具をゆがませ鍵を破壊した。


 部屋の中に入ると、そこは物置のようだった。木窓の鍵を破壊したことで、誰かが微かな音を聞きつけてやってくるかと警戒したが、その気配も音もしない。どうやら無事侵入に成功したようだ。


 次にTSSタクティカルサポートシステムを起動し、マップ検索から今いる位置をスクリーンモニターに表示する。半径150mを自動的にマッピングする機能により、俺はこの邸宅の3階の間取りを瞬時に把握することができた。

 下の階へと降りる階段の位置を確かめ、ショルダーホルスターからFive-seveNを抜き、同時にサイレンサーも取り出し、銃口へと取り付ける。続いて腰から特殊電磁警棒を抜き、縮小されていた本体を展開する。

 警棒を左手に逆手で持ち、Five-seveNを握る右手のグリップ部分にあて、Five-seveNが発砲時にぶれないように両手でホールドする。これでとりあえずの準備は完了か、後は捜索しながら考えよう。




 物置部屋から廊下に出る、廊下には明かりがなく、三階は基本的に日常使いはされていない雰囲気だった。

 できるだけ音がしないように三階の廊下を進み、階段までくることができた。二階を窺うと、こちらは廊下に灯りがついている。

 息を潜め、音を探っていくと、微かに話し声が聞こえる。同じ家屋内でここまで聞き取りにくいと言うことは、話をしている部屋には防音加工でもしてあるのだろう。

 一旦三階の廊下に戻り、話し声の聞こえる二階の部屋の、上に位置する場所まで移動する。



「商会長、マリーダ商会への矢文、問題なく撃ちこんできたそうです」


「よろしい、これで明日の朝には優先買取権の権利書は私の物になりますね」


「おめでとうございます、この功績で商会長の序列も一段と上がることになるでしょう」


「ルノードはもう向かったのですか?」


「ルノード団長は先ほど商館を出ました。夜明け過ぎには権利書と、マルタの首を持って帰るかと」


「よろしい、娘と女達は、ヴェネールの娼館に売り払ってきなさい」


「はっ」



 会話はこれで終了のようだ。男が部屋を出て、どこかへ向かう音が聞こえる。ヤゴーチェ商会の商会長は、この部屋に残るようだ。執務室か自室か? ガラスが鳴る音も聞こえる、果実酒か何か、酒でも飲み始めたのだろう。


 せいぜい見果てぬ夢に溺れるがいい、全て潰してやろう、全てだ。



 俺は再び移動を開始し、階段を降りて二階の廊下に出る。マップを確認すると、しっかりと二階の間取りを全てマッピングされている。微かな音から、どの部屋に人がいるのかも光点で示されている。

 ますはミネア達だが、盗み聞きした会話の中に、少し気になる表現があった。「娘と女”達”」と言っていたが、メイドは若い女性だが、専属護衛は男性だ。もしや捕らわれているのはミネア達だけではないのかもしれない。


 余計な仕事が増えるかもしれない。しかし、娼館に売られると聞いて、見過ごす気にもまた、ならなかった。



 一階への階段は、二-三階をつなぐ階段とは別の場所にある。各部屋の光点の動きに気をつけながら、気付かれないように廊下を進む。

 一階の階段が見えてきたが、どうやら一階の階段前に護衛が二人立っているようだ。


 どうする――斃すのは簡単だ。しかし、もしも見回りがいた場合、ここに二人が立っていなければ不審に思われるだろう。せめてミネア達を見つけるまでは派手な戦闘は避けたい。



 一階の階段は、玄関ロビーから繋がるホールにある、音を聞く限りでは、目の前の二人以外には動く音は聞こえない。一階のマッピングは、俺が一階の床を踏まなくては作動しないだろう。地下牢への入り口がどの方向かはまだわからないが……。


 二階からFive-seveNを構え、一階のロビーから繋がる廊下の先にある、アンティークな燭台に狙いをつける。20mほど先の直径5cmほどしかない燭台の柄を――撃ち抜いた。


 サイレンサーにより、銃声は空気の抜けるような僅かな音にとどまり、逆に柄の折れた燭台は重量感のある音共に、火の点いた蝋燭を廊下にぶちまけた。



「おい、今の音は何だ?」


「あれ見ろ、蝋燭台が折れてるぞ! 水もってこい、火事になっちまう!」



 階段前の護衛二人が、慌てて廊下に落ちた蝋燭の火を消しに動き出した。


 階段前から護衛が動いた隙に、二階から静かに飛び降り、一階の床を踏む。マップを確認すれば、一階の間取りもマッピングができていた。すぐに地下牢への階段を探す……あった、奥の部屋の更に隠し部屋か? 部屋から部屋へと続く小部屋に階段のアイコンが付いている。


 運よく目的の部屋は護衛が向かった燭台とは反対側だった。折れた燭台の近くであたふたやってる護衛に気付かれぬよう、静かに、そしてすばやく移動し、一階の奥にある部屋へ向かった。




 地下牢への階段のある部屋へと繋がる、部屋の前に来たまではいいが、この部屋には護衛らしき人の動く音が聞こえていた。数は一人、もうここまで来ればいいか。


 音を立てないようにドアノブを回すと、鍵はかかっていないようだ。右手でFive-seveNを構え、左手で一気にドアを開け、中にいた護衛が気付く一瞬にクロスヘアを飛ばし、胸へ2発撃ち込む。

 護衛は椅子に座って酒か何かを飲んでいたようだ。被弾した反動で椅子ごと後ろに倒れて動きはない。クロスヘアとFive-seveNの照星を倒れた護衛に合わせたまま、すばやく接近し、上から見下ろす。


 問題なし。構えを解き、部屋の扉を閉めて隣の部屋への道を探す。マップに映っている地下階段のある部屋への扉はない、やはり隠し部屋か。道があるはずの壁を調べて右へ左へ――あった。

 書棚の奥に、本に隠れて壁に埋まる形で吊り輪を見つけることができた。たぶんこれだろう、吊り輪を引っ張ると、ただの壁だったところが横へスライドしていき、隣の部屋への道が開く。




 隠し部屋は石造レンガが剥きだしの部屋だった。地下へ降りる階段しかなく、階段の先から牢番の声だろうか、男二人の話声が聞こえる。



「あ~~暇だな~~」


「うるせぇなぁ、酒飲んで座ってるだけの仕事の何が不満なんだよ」


「だってお前、目の前に裸の女どもがいるのに手を出しちゃいけねぇなんて、これじゃ俺が牢に入れられてる気分だよ!」


「お前間違っても手を出すなよ、こいつらはきっとヴェネールの高級娼館とかに売られるんだからよぉ。下手に手を出して舌でも噛まれたら、お前ルノード団長にぶっ殺されんぞ」



 牢番達は階段を降りた先にいるようだ。ゆっくりと階段を降りていく。



「ん? もう交代の時間だ――誰だお前?」


「みねぇやつだな、ヤゴーチェさんの護衛か?」



 俺は隠れることはせずに、堂々と牢番たちの前に姿を現した。ここまで進んでやっと地下牢がマッピングされた、地下牢のある階層は牢番たちの待機スペースと、その奥に並ぶ牢屋が三つ。


 俺が誰なのか理解できない牢番は無視し、牢屋があるならば鍵があるはずと待機スペースを見渡す。



「それが牢屋の鍵か?」



 俺は壁に掛かる三つの鍵を指差し、牢番たちに聞いた。



「あ、あぁ、そうだが、なんだ女どもを上に出すのか?」


「そうだ」


「あんだよ! 女どもの乳を肴に、もうちょっと飲んでいたかったのによぉ」



 あぁ――、もう限界だ。



 俺は手前の椅子に座る牢番の顔めがけて、パワードスーツの力を全開に効かせた回し蹴りを放った。

 前にいた世界では、こんな蹴りなどしたことはなかった。しかし、この体は俺が思い描く動きをしっかりと実現してくれる。この体に、心のそこから感謝した。


 手前にいた牢番は、椅子ごと待機スペースの壁へ吹き飛び、そのまま崩れるように俯き動かなくなった。



「なっ!」



 奥に座る牢番が言葉を発せれたのはここまでだ、その顔にFive-seveNの5.7×28mm弾を撃ちこんでいく。何発撃ち込んだかわからないが、マガジンを交換し、壁に掛かる鍵を掴むと牢屋の方へと進んだ。






 一つ目の牢屋の中を見る。中にいるのは普人族の女性が二人、十代だろうか? 服は着ていない、唯一下着だけは着けていたが、上は何もない。俺の姿に怯え、胸を手で隠しながら牢の奥で二人固まって震えている。


 二つ目の牢屋の中を見る。中にいるのは獣人族の女性が二人、こちらは20代に見える。普人族の女性同様に下着しか着けていないが、こちらは物凄い目でこちらを睨みつけている。この二人は双子だろうか、髪の色だけ違うが顔は同じ顔だ。大きな胸を隠しもせずに、牢屋に男らしく座り込んでいる。


 三つ目の牢屋の中を見る。中にいるのは……。



「シャフトさま!」



 俺の姿が見えた瞬間に、マルタ邸のメイドが声を上げた。ミネアの姿もある、そしてこちらも下着以外の服は着ていなかった。メイドの女性の胸に抱かれ、こちらから顔を逸らしていたミネアは、メイドの上げた声に、「えっ?」と声を漏らし、ゆっくりと振り返り――泣かれた。



 牢屋の鍵を開け、中に入ってく。



「無事か? 護衛の3人はどこだ?」


「シャフトさま、どうやってここに……護衛の方々は学院を出たところで襲われた時に……」


「そうか、えぇっと……」


「メルティアでございます」


「メルティアか、ミネアを抱いたままいけるか?」


「いけます」



 マルタ邸のメイドであるメルティアは、20代後半くらいの普人族の女性だ。邸宅にいた時は髪をあげて纏めていたが、今はその長い黒髪をおろしている。ここへ入れられた時に、髪留めの類も取られたのだろう。


 ミネアはメルティアに抱きつき、顔を首元に埋めたままだが、すでに泣き止んで入るようだ。体が震えているが、これは恐怖だけではないだろう。今は11月の半ば、そしてこの何もない地下牢に下着だけでは寒くてたまらないだろう。


 光の粒子となって消えるかもしれない、しかし、試さずにはいられない。俺はオーバーコートを脱ぎ、ミネアを抱くメルティアの肩に掛けた。


 消えないか? 消えない? いつだったか、アシュリーさんにFive-seveNを持たせると、すぐに光の粒子となってFive-seveNは消えた。しかし、今のところオーバーコートは消える様子――?! 

 オーバーコートの内側が光るのが見えた。特殊手榴弾か、もしくはFMG9が消えたようだ。いや、両方かもしれない。武器類だけが消えるのか? いや、今はコートが消えないならそれでいい。

 

 TSSを起動し、Five-seveNのマガジンとAS_VALのマガジンを召喚する。各4本、着ているドイツ軍親衛隊の黒服のポケットへ入れていく。



「いくぞ、できるだけ、ミネアに周囲を見せないようにしてくれ。これ以上の悪夢はいらないだろ」



 メルティアの目を見ながらそう言い、少しでも安心させようと、ミネアの頭を少し撫でる。


 メルティアも俺の目を見て、力強く頷いた。




「お前達もくるか? 来なければ娼館に売られるだけらしいが、まぁ、その時は来ないだろうが、今出なければ、いつ出れるかはわからないぞ」



 手前の二つの牢屋にいる4人へそう呼びかけると、やはり気の強そうな獣人族の女性が声を返してきた。



「あんたは誰だい? ここから出て連れられた先が、暗殺ギルドとか言われても困るんだが」


「俺はシャフト、マリーダ商会の護衛だ。これからここを出て、マリーダ商会へ向かう」


「マリーダ商会? あそこがお前みたいな怪しい黒面を雇うとは思えないが」


「信用できないなら信用しなくてもいい、君達はどうする?」



 こちらを睨んでいる獣人族から目を外し、隣の普人族の女性二人へ声を掛ける。



「助けて、くれるのですか?」


「ここから出して、マリーダ商会までは連れて行く、その先は知らん」


「それでも良いです! 助けて!」



 こちらは二人ともついて来ると、さて獣人族はどうする? 俺は再び獣人族の二人へ目をやった。



「……あたしらも連れていってくれ、頼む」


「姉さん! こんな黒面信じるの?!」


「このままここにいても、待っているのは身の破滅だけだ」



「決まったようだな」



 両方の牢屋の鍵を開け、これで6人か……だが、問題はない。




使用兵装

FN Five-seveN

ベルギーのFN社が開発したハンドガンで、マガジンの装弾数が20発と多く、使用される弾薬は5.7x28mm弾で貫通力に優れたハンドガン

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