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4/10 誤字・描写修正

「おう、邪魔するぞー」


「あれ、ジークフリードさん珍しいですね。なにか御用ですか?」



 俺は傭兵ギルドで新規登録者の実技試験官を務めた後、王都警備隊の詰め所に来ていた。



「昨日、王都の西休憩所でマリーダ商会の商隊が襲われたと聞いてな、騎士団出たんだろ? その時の話が聞きたくてな」


「ちょっと待ってくださいね、報告書持ってきます」



 詰め所に待機していた若い警備隊員が、奥へ報告書を取りに行ってくれた。俺がここへ来た目的は一つだ。マリーダ商会が連れてきた黒面の男、シャフトの情報が欲しかった。元ランクA冒険者である俺が、現役を離れて久しいとは言え、一瞬で行動不能にされた。あれほどの実力者が無名なはずがない。

 しかし、総合ギルドで確認できることはまったくなかった、納税記録もなく、今日の登録時にマリーダ商会が纏めて支払った事だけだ。



「お待たせしました、ジークフリードさん。これが騎士団からの報告書です」


「お、ありがとうよ、ちょっと見せてもらうぜ」






 なんだこれは……西休憩所までの街道に盗賊と思われる死体が7体、背や頭部、胸に複数の刺突痕。休憩所の周辺には、火魔法だと思われる盗賊の死体が8体と馬8頭、別の場所では盗賊の死体が9体で、どの死体も頭部が大きく損傷。

そして、休憩所から少し離れた場所には頭部のない馬の死体が8頭……。


 盗賊の死体には身分証はなし、大盗賊団との通報で向かったが、統一された印などは見当たらず、手配書に該当する顔もなし(但し、頭部の損傷が激しく、確認できない死体多数)。


 休憩所に被害はなし、放火されたと思われる荷馬車が二台放置されていたのみと――周囲を偵察するも盗賊団の姿はなし、か……。


 商隊の護衛は4名、内3名は襲撃時に即逃亡、その後の行方は不明。と言うことは、この損害を与えたのは黒面一人ということか。

 マリーダ商会は面白い奴を手に入れたな、これで王都の裏の争いから、守ることも攻めることもできるようになったか。



 警備隊員に報告書を返し、警備隊の詰め所を後にし、傭兵ギルドへと戻ることにした。俺はこの王都に、黒面を中心とした騒動が必ず巻き起こることを、つりあがる口元を押さえきれずに予感した。






◆◆◇◆◆◇◆◆




 マリーダ商会に戻ってきた俺とマルタさんは、マリーダさんを加えて、今回の商隊護衛の報酬である、弁当100食の受け渡しをおこなっていた。



「シャフトさんの希望した米食とパン食で50食ずつ、おかずは揚げ物や蒸したものを中心にいたしました。付け合せに野菜をいれて、大体のお値段が食堂の夕食分ほどの値段を、少し超える程度で収まっています」


「感謝する。この籠は後で回収すると言う話だったが、再利用を考えているのかな?」


「そうです、一食あたりの値段を下げるのと、この大きさの籠を数多く生産し続けるには、体制がまだ整っておりません。今回の収穫祭でのベントーも同様に、籠の回収での割引を考えています」



 そんな雑談をしながら、TSSタクティカルサポートシステムを起動し、ギフトBOXを召喚する。俺の召喚する派手な柄のギフトBOXを初めて見るマリーダさんは、光の粒子が収束していく様子を興味深そうに見つめていた。



「それがシャフトさんの道具箱ですか、光が集まって形をなす様子は、不思議な光景ですね」


「今日のところは俺の受け取り分の100食だけを収納で間違いないか?」


「ええ、商隊で運ぶ分は、出発前までに揃えて用意します」



 盗賊団の襲撃により荷馬車を2台失うことになった為、王都から城塞都市バルガへと戻る荷馬車は1台だけとなった。計画していた積荷は、荷馬車3台分と俺が収納して運ぶ分があったが、全て俺が運ぶことに変更されていた。

 マリーダ商会本店の荷馬車を利用してもいいのだが、城塞都市バルガへの帰路で再び襲撃を受けても困る。護衛対象を減らす上でも、荷馬車を一台にし、マリーダ商会の専属護衛と共にバルガへと向かう予定となった。


 俺の移動用車両の利用も考えたが、移動用車両でバルガへ入るのはさすがに避けたい、手前で降りたとしても、歩いて王都から帰ってきたなどと言うのは、余りにも不自然すぎるので却下した。




 帰路の商隊護衛の確認も大体終わったところで、マルタ邸のメイドがお茶を持ってきてくれた。



「旦那様、奥様。そろそろお嬢様のお迎えに行ってまいります」


「あぁ、よろしく頼むよ。護衛を連れて行くのを忘れないようにね」


「はい、行ってまいります」



 マルタ夫妻の娘ミネアは、王立第一魔術学院に通っているそうだ。まだ9歳らしいのだが、このぐらいの年齢から学院に通い、魔力や魔術に関する知識や経験を学ぶほか、一般教養や礼儀作法を学ぶらしい。

 第一魔術学院は、王侯貴族をはじめ有力商人の子供や、高ランク冒険者の子供が通う学院で、王都の一般市民の子供や中ランク以下の冒険者の子供などは、王立第二学院へ通う。


 学院への通学は任意だそうだが、通わせる余裕のある家庭は殆ど行かせているそうだ。第二学院の生徒でも、内包魔力が高く、魔術の素養が高いのが認められれば、奨学金や後見人の助力により、第一魔術学院に通うこともできる。



 この世界がいかに魔力を重視し、より高い魔力を持つ子孫を生み出そうとしているかがよくわかる。


 そんな学院の話を聞いていると、俺もそこを見に行ってみたくなる。今日はもうメイドが迎えに行ってしまったが、明日の朝とか護衛について行こうかな。






 しかし、その日の夜にミネアは帰ってこなかった。






「行方の手がかりは見つかったか」


「いえ、第一区域の第一学院を馬車で出たところは目撃されていますが、第二区域への当商会の馬車の通過は確認されていません」


「つまり、学院を出てすぐに何かあったと……」



 普段なら夕暮れ前には帰宅するはずのミネアが帰らず、かれこれ3時間ほどがたっている。迎えに行ったメイドと専属護衛3名も行方がわからず、これは何かが起こったと見て間違いはなさそうだった。


 マルタ夫妻が、捜索に出た専属護衛の報告を聞いているが、進展は何もない。タイミングを考えれば、盗賊団もしくはその仲間による誘拐だろう。しかし、マリーダ商会には何も要求らしきものは届いていなかった。


 更に2時間がたった。完全に日は落ち、周囲は魔道具による光やランタンによる灯火だけが点々と点いているだけだ。


 俺はマリーダ商会の屋根の上にいた。マルタさんには、建物内から呼びかけてくれれば判ると伝え、商館の屋根に腕を組んで直立し、薄目でマップに映る光点の動きを見ながら、全神経を集音センサーから聞こえる様々な音の聞き分けに集中していた。


 必ず要求を伝えに何かが来る。ソイツを逃がさない。




 さらに2時間がたった。依然として何も起きず、マリーダ商会の専属護衛たちが捜索に出ては戻り、手掛かり無しの報告を繰り返すだけだった。

 俺が屋根に上がって少したった頃には、王都警備隊の一部隊がマリーダ商会を訪れ、ミネアとメイドや専属護衛の捜索に協力をしてくれている。


 盗賊による襲撃の延長による誘拐ではない可能性もあった為、マルタさんは早々に警備隊へと通報をおこなっていた。しかし、警備隊も何も手掛かりを掴めずにいた。



 そしてさらに1時間が過ぎた頃、辺りの灯は消え、王都の一日が終わり、新しい明日への眠りについた静寂の中、音を殺すように何かが近づいてくるのが聞こえる。

 一定のリズムで、静かに近寄る音、足音だ。マリーダ商会から100mほど離れた建物の影で足音は止まった。続いて聞こえてくるのは弓なりの音、そして放たれる風を切る音と、マリーダ商会の木製のドアに刺さる矢の音だ。矢文だ、なんとも古風な連絡の仕方だが、やっと来た手掛かりだ、逃がしはしない。


 ケブラーマスクのレンズをNVナイトヴィジョンモードに切り替え、マリーダ商会の屋根から飛びだし、屋根伝いに誘拐犯の連絡員を追う。

 連絡員も、まさか接近を感づかれていたとは思いもせず、まして屋根伝いに追われているとは想像もできずにいた。マリーダ商会からある程度離れると、足音を殺すのを止め、軽い足取りで第二区域を駆けていく。

 やがて、一際大きい建物の裏手へと回り、人目を確認しながら中へ入っていった。



「ここか……」



 マリーダ商会と似てる感じの建物だ。やはり、商圏争い絡みの誘拐だったのか? 石造3階建ての建物の1階部分に掛かる看板を確認すると、「ヤゴーチェ商会」と書いてある。

 

 ヤゴーチェ商会の屋根に立ち、中の音を聞き取っていく――



「矢文は届けてきたのか?」


「はっ、正面扉に打ち込んできました」


「おう、ご苦労、下がってろ。おい!、小娘どもはどうしてる!」


「逃げれねぇようにひん剥いて、会長のところの地下牢に放り込んであります」



 地下牢……か、この命令口調の男がこの商会の商会長だろうか。いや、この声は聞いた覚えが……盗賊団か、休憩所で襲ってきた盗賊団を率いていた男の声だ。


 と言うことは、この商館の奥の建物が商会長の建物か。王都が静かな眠りの時間に入っていると言うのに、このヤゴーチェ商会の敷地内には、ランタンの灯かりを手に持つ男たちが何度も俺の足元の建物と、その奥にある邸宅を往復している。


 一度マリーダ商会に戻り、ミネア達の居場所が判ったことを連絡するか、それともこのまま救出に向かうか。

 矢文の内容を確認せずに、連絡員を追って離れてしまっているので、もしも収穫祭の優先買取権を早急に破棄しろといった内容ならば、それを止めなくてはならない。

 

 ほんの数瞬の葛藤、俺は救出を最優先にすることにした。仮に優先買取権を失ったとしても、マルタ夫妻にとって大事なのは、ミネアやメイド達だろう。一刻も早く救出する、きっとそれが最善手だ。




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― 新着の感想 ―
[一言] いや、この場合の最善手は1度帰って作戦会議でしょ。 人質を取る以上、身の安全は保証されているんだから。 ちなみに報酬の弁当99食にすれば一枠で済むのにね。まぁいいけど。
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