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4/4 使用武器の整合性を修正
2/22 名称間違いを修正
城塞都市バルガに戻ってきたのは、夕方に差しかかろうかという時間だった。牙狼の迷宮で見つけた魔法武器の短剣を、総合ギルドのレズモンドさんに鑑定してもらいたかったが、これから向かっても総合ギルド別館は混雑する時間になるはずだ。
多くの冒険者が依頼達成の報告や、討伐証をもって別館に押し寄せる。仕事の早いレズモンドさんの窓口とは言え、待たされる時間が惜しい。短剣の鑑定は、マリーダ商会のマルタさんに聞いてみることにしよう。
まずは、「迷宮の白い花亭」へ帰り、明日からの商隊護衛依頼に向けて装備を整えよう。夕食も摂りたいし、出発は明日の朝だ。すばやく準備をして、今夜は迷宮探索の疲れを癒すとしよう。
夕食を摂り、準備を終えて早めに寝るはずだったのだが……現在時刻は深夜2:00。
「まさか構成にここまで悩むとは……」
明日からの商隊護衛は、『Dランク冒険者のシュバルツ』として受けるのではなく、『変装した別の誰か』が受けることにしている。
俺のVMBの力は、既に少なくない人数に見られている。しかし、実際にVMBの攻撃能力を知っているのは極僅かだ。他の人には優れた地図屋程度の認識でしかない。
単独で迷宮にアタックを仕掛けている以上、何れは俺の戦闘能力も広まるだろうが、ここを上手く別々に、シュバルツの地図作成能力と、別の誰かの戦闘能力で分ける事ができれば、俺は煩いクランの勧誘などに悩まされずに、迷宮に専念する事ができるだろう。
外観は決まっている。顔を隠す為のタクティカル ケブラーマスク、これは台湾やボスニアの特殊部隊が使用している防弾マスクで、9x19mmパラベラム弾や357マグナム弾すら耐える防弾性を持っている。
マスクのデザインは、黒一色で目元の二つ穴しかない、鼻も口も開いていないフェイスマスクだ。目元には普段つけているヘッドゴーグルと同じレンズが付いており、普段見ているマップなどの情報は、問題なく取得できる。
これにVMBのボイスコミュニケーション用の機能、ボイスチェンジャーで声質を変える予定だ。
服装はパワードスーツを完全に隠せるものを着るつもりだ。もう11月の半ば、厚着をしていても何も問題はない。普段はフィールドジャケットを着ているので、これとはイメージがまったく違う――WWIIの頃のドイツ軍親衛隊の黒服、これに同じく黒皮のオーバーコートを着る。ベルトはつけない、ショルダーホルスターからハンドガンが抜きにくいからな。
アバターカスタマイズで一瞬で着替え、セット内容を登録しておく。黒いケブラーマスクに黒服の組み合わせは、完全に厨二病を拗らせた将校だな……。
そして問題の武器だが、まずはFMG9だ。アメリカのマグプル社がグロッグ18という拳銃に外部パーツ取り付け製作したSMGだ。これは警護任務用特化のSMGで、長方形に折りたたむ事で、ズボンの後ろポケットに納まるほどのコンパクトサイズになる。
装弾数は33発で折りたたみ状態からは、0.5秒も掛からずに展開し射撃を開始できる。
王都内ではFMG9を近距離用に用意し、道中に魔獣に襲われたときにどうするかで非常に悩んだ。普段使っているP90やSCAR-Hとは外観が全然違うものにしたいのだが……。
インベントリに並ぶ数々の銃器や、アタッチメントの組み合わせに頭を悩ませつつも、この構成を考える時間が非常に楽しい。そんな悩ましくも楽しい時間に寝ることを忘れ、いつの間にか朝を迎えていた。
結局、メイン兵装として選択したのは、ARFのカテゴリーなのにサイレンサー機能を有している銃器、AS_VALに決定した。この銃はソ連のスペツナズという特殊部隊向けに開発された特殊消音アサルトライフルで、使用弾薬は9×39mm弾で発射速度が遅い代わりに非常に高い消音効果を発揮する。しかし、1マガジンの装弾数は20発と少なく、サイレンサー持ちという特殊性能と天秤を合わせている。
攻撃力は9x19mmパラベラム弾と7.62×51mm NATO弾の中間と言ったところか、ある程度の大型魔獣が出てきても、十分対応できるだろう。
サブ兵装として持ち歩くFMG9にも、不恰好になるがサイレンサーを取り付けれるように、一緒にオーバーコートの裏に隠し持つAS_VALも同じように中にいれる。周りから見れば何も武器を持っていないように見えるだろう。
最後に銃器以外の武器として、特殊電磁警棒を用意した。これはVMBのオリジナル近接武器だ。護身用の市販されているスタンバトンの改良型で、伸縮する細身の円柱警棒タイプのデザインで、伸ばすと70cmほどになる。
先端部分を相手に押し付け、グリップのスイッチを押せばスタンガンと同じように電流が流れ、相手を一時的にスタンさせる効果がある。
VMBでは、これを使うなら撃ち殺せと言われるネタ武器の類で、俺も使ったことは殆どない、完全に見せ武器だ。
これで準備は完了だ。幾つかの手荷物を持ち、女将のミラーナに1週間ほど留守にすると伝え、部屋の延長料金を食事代抜きで支払い出発する。
マリーダ商会の前まで行くと、すでに大きな荷馬車が3台止まっており、従業員達が荷箱や荷袋を荷馬車に積み込んでいる真っ最中だった。
いつもの従業員がいないかと中を覗くと、積み込み作業をしている他の従業員の目が一斉に俺に集まった。
お客に対する目ではなく、明らかに警戒と不安の目である。それもそのはず、すでに俺はケブラーマスクにドイツ親衛隊の黒服ルックで来ているのだから。
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか」
俺とは気付いていないようで、いつもの従業員が顔に緊張を浮かべながら対応に出てきた。
「俺はシャフト、マリーダ商会の商会長に頼まれ、商隊の護衛依頼で来た」
シャフトと言うのはこの服装のときの偽名だ。偽名を考える時間が全然なかったので、AS_VALのような特殊消音アサルトライフルのコードネームを、そのまま使わせてもらった。
「ただいま商会長に確認を取ってまいりますので、少々お待ちいただけますでしょうか」
「いいだろう」
「それでは確認してまいります」
あー、マルタさんには変装してくるとは言ったけど、偽名に関しては何も言ってないわ。察してくれるとありがたいのだが……。
言われたとおり、少し待たされたが、マルタさんがこちらを警戒しながらやってきた。
「マリーダ商会の商会長を務めております、マルタでございます。失礼ですが、シャフト様とおっしゃいましたか、当商会の商隊護衛で来られたとか、どなたからのご依頼か確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
「……Dランク冒険者、シュバルツの変わりでやってきた。商会長は了承済みだと聞いていたが、違ったかな?」
「これは失礼をいたしました。もちろん承知いたしております、それではシャフト様、ここではなんですから奥へどうぞ、出発まではもう少し掛かります」
さすがはマルタさんだな、上手く誘導して確認をとったようだ。俺はマルタさんの後ろへ続き、いつもの応接室へと向かった。
「シュバルツさんも思いきった変装をしてきましたね」
「中途半端な変装では意味がありませんからね」
「いやしかし、服装やその黒面は簡単でしょうが、お声まで全然違うとは……黒面を外していただくまでは信じきれないところでした」
俺の声はいつもの声質に比べて、かなり低音に調整している。ケブラーマスクで口元が隠れているのもあって、低く響く声質になっていた。
マルタさんに応接室へと案内されたものの、完全に俺だとは信じ切れていなかったようなので、最初にマスクを外して本人確認をすることになったほどだ。
「ええと、今はシャフト様でしたか、都市の出入りの時はどうしますか?」
「そこを偽装する手段はないので、バルガと王都の出入りの時はシュバルツで行きます」
「その方がいいですね、別のギルドに登録すればギルドカードは複数もてますが、別名義だと税金も個別になりますからね」
ギルドカードって複数もてたのか……。
「二重登録は珍しいですかね?」
「そうでもありませんよ、冒険者登録と商業ギルド、もしくは魔術師ギルドなど、専門分野で多重登録する方は大勢いらっしゃいます。各専門ギルドの登録証がないと、利用できない施設もありますからね」
「なるほど……」
珍しい事ではないのなら、王都に行ったときに別のギルドでシャフトの登録証を作ってしまうのも手だな、考えておこう。
そんな雑談をしていると、いつもの従業員が応接室へやってきた。
「商会長、総合ギルドから依頼を受けてきた冒険者3名がやってまいりました、お通ししてもよろしいですか?」
「おお、来ましたか、お通ししてください」
「はい、ただいま連れて参ります」
従業員さんは俺の方には決して目を向けず、要件を告げてすぐに応接室を出ていった。
「ちょっと、強面に見えすぎですかね?」
「護衛を務めるのですから、優男に見えるよりかはましでしょう」
マルタさんは従業員さんの行動が面白くて仕方がないようで、ニコニコ笑いながらお腹を揺らしていた。
「おお! ここか!」
「ええ! ここですよ、リーダぁ!」
「おいらが開けますでさぁ!」
応接室の外からなにやら騒がしい声が聞こえてくる、気のせいか前にどこかで聞いたような……