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 牙狼の迷宮地下九階、このアンデッドゾーン後半ではゾンビの上位種、イルネスゾンビの群れと、もう一種のゾンビ上位種に苦戦していた。



「あぶねっ!」



 目の前のゾンビ上位種に掛かるのもお構いなしに、後方のイルネスゾンビ3匹が一斉に毒液を噴射してくる。

 後方にスライドジャンプしながら180度反転し、逃げ場がなくなる前にウォールランで壁を駆け上がり、さらに後方へと下がる。


 ウォールランから反対側の壁へ向かってジャンプしつつ、再び反転。空中で180度回転しながら、高速で動くクロスヘアを地下九階で初めて遭遇したソンビ上位種、ホッパーに一瞬で合わせ、トリガーを引いて携帯放射器1-1型が火炎を噴射していく。


 このホッパーというゾンビ上位種は、フードつきのローブを着たゾンビで、口を大きく裂きながら飛び掛かって噛み付きを狙ってくる。動きがとにかく早く、こいつ一種でくるなら捌けそうだが、後ろから毒液を噴射してくるイルネスゾンビが厄介で、逃げ道を塞ぐかのように噴いてくる。


 なんとか目の前のホッパーを焼き払い、あとはイルネスゾンビだ。ここまでの戦闘経験で、一度毒液を吐くとしばらく吐いてこないのは判っていた。向こうは3匹いても肉弾戦しかできない。そんな距離には行くわけがない。クロスヘアを振り撒き、1-1型の火炎が波打つように踊る。



 地下九階ではゾンビの上位種ばかりではなく、グラスウルフの上位種であるダイアー・グラスウルフのゾンビタイプまで出てきた。

 ホッパーと同じように動きが早く、こちらも動き回りながら、追い込まれないように立ち回って焼き払っているが、以前にマリーダ商会のマルタさんを助けたときに戦ったダイアーのような、魔法攻撃の咆哮――魔砲は使ってこなかった。


 たまたまなのか、ゾンビタイプが使えないのかはわからない。これは資料館で調べないと駄目だな。魔獣図鑑のキャプチャーを浚っても、すぐには答えを見つけられそうもない。


 地下道を進み、小部屋でゾンビの混成集団を焼き払うと、部屋の中央に石造の箱のような物が置いてあることに気付いた。



「もしや、宝箱か?!」



 小部屋の中央に鎮座しているのは、まるで石櫃を思わせる箱だった。小部屋で斃したゾンビの魔石を拾い上げながら近づいていき、よく観察してみると、上蓋の上部には細かい刻印がびっしりと刻まれている。

 マリーダ商会で取り寄せてもらった、魔道具の水筒に刻まれている魔法陣と何処となく似ている。石櫃の大きさは長さ1m、巾60cm、高さ60cmほどの大きさで、俺のギフトBOXよりも少し細いくらいの大きさだ。


 事前に調べた限りだと、迷宮が吐き出す魔道具や魔法武器は祠とか大部屋の台座に置かれているという話だったが、この石櫃のような物の場合もあるのか? いや、もしかしたらこれも魔獣か?



 石櫃には触らずにしばし観察するが、やはり開けてみない事には何もわからない。左腕のCBSサークルバリアシールドをいつでも展開できるように準備し、右手で石櫃の上蓋をゆっくり押し開いていく。


 ゴリゴリと石が擦れる音がするだけで、罠などはないようだ。上蓋を押し切り、迷宮の床へと落とす。石櫃の中を覗くと、中には一本の剥きだしの短剣が入っていた。


 短剣を取り出すと、石櫃は石から砂へと変わり崩れていった。その砂も迷宮へと染み込んでいき、そこには何もなかったかのように元の小部屋へと姿を戻した。

 石櫃よりも今は短剣だ。刃渡り10cmちょいくらいだろうか、木製の柄にブレード部分は少し波打つような両刃のデザインだ。


 迷宮が吐き出した武器ということは、これは魔法武器マジックウエポンなのだろう。魔石消費型には見えないので、魔力消費型か、俺には使えそうもない。

 まぁ、どのような効果かもわからない魔法武器を振り回すつもりはないが。


 刃が剥きだしのままでは持ち歩けないので、まずはギフトBOXを召喚し、その中へと仕舞っておく。マリーダ商会のマルタさんか、総合ギルドのレズモンドさんに見てもらうとしよう。



 迷宮探索で初めての魔法武器の発見に、探索の面白さをまた一つ見出しながら、俺は小部屋の奥へと進んだ。






 地下十階へと降りてきた。この階層には転送魔法陣があるはずだ、俺には使えないが、それ自体は見てみたい。

 そして、アンデッドゾーン最後の階層でもある。地下十一階からはフィールドダンジョンに変わるはずだ、アンデッド系がアンデッドゾーンにしか現出しないわけではないが、現出する対象が増えれば自然と遭遇率は下がるだろう。


 携帯放射器1-1型は、この階層で一旦お役御免だ。そして、この階層を走破し、地下十一階の雰囲気を確認したら地上へと帰還する。1-1型には、もう少しだけ付き合ってもらおう。


  

 この階層はゾンビ系やスケルトン系よりも、ラビリンスバットと数多く遭遇した。地下道を進み、角を曲がったり、ルートが分かれるところで上部を確認するたびに、多数のラビリンスバットが待ち伏せていた。

 待ち伏せ自体は厄介だが、角を曲がる際には必ずリーンという、壁の縁に背をつけ先を覗う動作で進行方向と上部を確認する。ラビリンスバットがぶら下がっていれば、リーンから一気にクロスヘアを合わせ、動き出す前のラビリンスバットに容赦のない火炎を噴射していく。

 燃え盛るゲル化油はラビリンスバットに直撃するだけでなく、天井自体も炎で多い尽くす。赤く燃え盛る天井から、奇声を上げて墜落するラビリンスバットにクロスヘアを合わせながら、まだ動く個体にさらに噴射し燃やし尽くす。


 射程40mもある1-1型の火炎放射は、二次災害を完全度外視できるソロの迷宮探索では、かなり有効な武器だった。使い始めた当初は気にしていなかったが、迷宮内で噴射し続けても、迷宮内の酸素が減るということもないようだ。


 火炎放射器という武器は、洞窟などの閉所空間に向けて使うことにより、内部の酸素を喰い尽くし、無酸素状態を作り出すこともできる。直接炎を浴びせる必要もなく、生物を酸欠状態にして排除できるのは、火炎放射器の有能な部分であり、また残虐な部分でもある。 

 1-1型の燃料を補充しながら炎が消えるのを待ち、残った魔石を回収していく。さて進むかと歩き出したところで、こちらへ駆け寄ってくる音が聞こえた。ゾンビ達の足音もだいぶ覚えてきている。この音はホッパーとダイアーの混成だ。


 1-1型を腰に構え、クロスヘアを正面へ置き俺も前へと走り出す。何度かの戦闘で、この混成は正面からぶつかった方がやり易いと結論付けていた。


 まず見えてきたのはダイアー・グラスウルフゾンビが二匹だ、さすがにホッパーは遅れている。

 クロスヘアを振りながら火炎の波を二匹へ振り撒いていく。ダイアー二匹は、こちらへ駆け寄りながらも、目の前に迫る火炎に反応し左右に散開する。

 しかし、左右に波打つように噴射されたゲル化油は、地下道の幅いっぱいに火炎を振り撒いている、回避しきれるはずがない。

 一気に炎に飲まれ、ダイアー2匹は動きを止めた。その後方から地下道に点々と広がる燃えるゲル化油を避けながら、ホッパーが飛び掛ってくる。



「オラァッ!」



 俺は右手で1-1型の筒先を持ち、左手のCBSを展開しながら打ち払うように飛び掛ってきたホッパーを壁へと弾き飛ばした。パワードスーツで強化されているのは脚力やジャンプ力だけではない、基本的な膂力も上がっている。

 持っているのが銃器ならば、飛び掛ってくるところを撃ち落しながら対処をするが、1-1型では逆に火の玉化して危険になりそうなのでそれはしない。


 そして、ホッパーの動きを自由にさせると、思わぬ距離から飛び掛ってきて厄介なのだ。こちらでホッパーの動きを止めるなり誘導するなりして、対応しやすい状況を作っていく。

 壁に打ち付けられたホッパーが立ち上る前に、1-1型を構え壁に押し付けるように火炎を浴びせていく。



 黒焦げになったホッパーを見ながら後続がないのを確認する。俺の心には、FPSとはまた違う動作や対応に戸惑うこともあるが、やれる、やっていける、そんな自信が少しずつ湧いてきていた。





 小部屋、大部屋と突破し、ついに俺の目の前に白い石柱に支えられた門が見えてきた。緑鬼の迷宮で見たものと同じ意匠が施されているが、門の上部にある玉座には狼の顔を持つ亜人種が座っていた。こいつが牙狼の迷宮の迷宮の主ダンジョンマスターか……。


 迷宮の門を越え、過去に門番がいた大部屋に入っていくと、部屋の中央に転送魔法陣と思われる魔法陣が見えた。



「これが転送魔法陣か……」



 無駄だと思いつつも、太ももに付けているレッグシースからコンバットナイフを抜き、指を少し傷つけて血を垂らしてみた。

 しかし、転送魔法陣に俺の生体情報が記録された様子はない。



「やっぱり駄目か」



 しょうがない、俺もこれが使えれば迷宮探索が楽になっただろうが、使えないものに拘っても時間の無駄だ。大部屋の奥にある、地下十一階へと続く階段へと向かった。





 地下十一階からは迷宮の周囲を模した、自然界と見間違えるかのような景色が広がるフィールドダンジョンになる。しかし、俺の目に映った擬似フィールドは、とても牙狼の迷宮がある東の森とは思えない景色だ。


 たしかに森ではある、一応の通路になるであろう林道のようなものが続いているが、周囲の森の雰囲気はまったく違う。

 暗く、妖しい霧をまとい、見るからに魔の森といった雰囲気を醸し出している。フィールドダンジョンの大きさは階層ごとに違い、林道を外れたからといって見えない壁があるわけでもないらしい、ちゃんと階層の端には壁が存在し、明確に区切られているらしいが。

 あたりを見回しても壁など見えない、相当な広さがあるのは間違いない。


 林道の先が気になるが、今回の探索はここまでだ。続きはマリーダ商会の商隊護衛依頼を終了してからとなる。

 再び地下十階へと戻り、門番の大部屋でドーチェスターを召喚し、食事休憩をとることにした。


 清浄の泉のような水分補給はできないが、この大部屋に魔獣や亜人種が侵入してくることもない。探索者が転送魔法陣から現れるかもしれないが、その時はその時だ。

 ドーチェスターの後部居住スペースで椅子に座りながら食事を摂り、装備の補充や点検をおこない、1時間ほどで再出発した。



 ここからはペースを上げ、地上へ一気に戻る。早めに戻って、明日からの装備も整えたいしな。





使用兵装

携帯放射器1-1型

日本の陸上自衛隊に配備されているM2火炎放射器の改良型。ゲル化油を燃料に使うことで、射程は40mと類似種の中で最長のスペック、噴射回数も多く調整されている。ただしCP消費コストが高い。


サークルバリアシールド(CBS)

VMBオリジナルのバリアシールド、左人差し指の付け根に展開スイッチがあり、エネルギーが続く限り、VMBではあらゆる攻撃を防ぐ円盾状のバリアを張れる。消費したエネルギーは時間による自然回復もしくは回復アイテムで回復させる。


AEC装甲指揮車 ドーチェスター

第二次世界大戦時に使用されたイギリスのAEC社製の装甲指揮車、厚い鋼板に囲われた

キャンピングカーの様な居住スペースを後部に持つ装甲バスである。

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