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2016/3/26 誤字修正


 翌朝、総合ギルドに向かう前の、出かける準備をしていると、TSSタクティカルサポートシステムのメール機能は、再びERRORの文字を吐くだけに変わっていた。

 元の世界との繋がりが完全に切れた事に、少し寂しくも思ったが、俺はこの異世界で、いや、この世界で生きていくことを決めたのだ。


 TSSのスクリーンモニターを閉じ、「迷宮の白い花亭」を出て、総合ギルド別館へと向かった。まずは緑鬼の迷宮地図作成の報酬を貰う予定だ。


 

 随分と久しぶりな気がする総合ギルドのバルガ支部は、迷宮の収穫祭関連の依頼で、朝早くから大勢の冒険者で溢れていた。

 収穫祭関連の依頼は、なにも空魔石の回収だけではない。多くの商人や労働者が、迷宮からマイラル村、城塞都市バルガ、そして王都の間を往復している。

 運ばれる物資も、金も、魔石も大量になる為、輸送には必ず護衛が必要になる。収穫祭を狙って盗賊の類も増えてくるのだ。


 総合ギルド本館を出入りする多数の冒険者を横目に、俺は別館へと入っていった。本館と比べ、別館は朝の早い時間だけあって、依頼の清算をおこなう人も少なかった。




「ようこそおいで下さいました、鑑定係の『レズモンド』です。おや、これはシュバルツ様、お帰りなさいませ」



「はい、ただいまです、レズモンドさん」



「レミ様からの預かり物を受け取られに来られたのですね?」



「ええ、お願いできますか?」



「もちろんですとも、少々お待ちくださいませ」



 レズモンドさんは、受付カウンターの奥へと消えていくと、すぐに大きな荷袋を抱えて戻ってきた。総合ギルドを経由していない仕事なので、ギルドカードの提示は必要ない。その代わり、しっかりと受取証にサインを求められたが。


 これで十分な資金ができた。レズモンドさんにお礼を言い、総合ギルド別館を後にした。帰りに本館でアシュリーさんの姿を探したが、事務棟の方にいるのか、何かの仕事で出ているのか分からないが、姿を見かけることができなかった。




 城塞都市バルガの南に広がる歓楽街、そして商店の数々は、収穫祭に向けて大いに賑わっていた。一般市民にとっても、単純に迷宮が死ぬと言うだけで嬉しい事なのだ。

 歓楽街にある酒場では、真昼間から冒険者ばかりでなく、仕事の暇を見つけて集まった男達が、杯を掲げていた。迷宮の討伐を祝う声が、あちらこちらから聞こえてくる。


 この国にとって、いや、この世界にとって、迷宮とはそれほどまでに忌避されているものなのだろう。俺はその喧騒を横目に、マリーダー商会へと入っていった。



「いらっしゃいませ、シュバルツさん。お仕事は終えられたのですか?」



「ええ、無事に。マルタさんいらしゃいます?」



「はい、ただいま呼んでまいりますので、奥へどうぞ」



 マリーダ商会の店舗には、いつもの従業員が店番をしていた。案内された応接室で、久しぶりの美味しいお茶を頂いた。緑鬼の迷宮を攻略している時に、ラリィ……バルガの領主の娘、ラピティリカ様が淹れてくれていたお茶も美味しかったが、ここで出されるお茶は格別だった。



「この薄い茶色と香り……番茶かな? 渋みがなくて甘い……番茶じゃない、晩茶だ」



「さすがはシュバルツさん。違いがおわかりで?」



 いつのまにかマルタさんが応接室に入ってきていた。お茶に夢中で気づかなかった……


「今日お出ししているお茶は、真夏の一番茶をすり潰したものを一月ほどじっくり発酵させたものです。渋みが消え、甘みが出るのが特徴でございます」



「美味しく頂きました。お久しぶり、になりますかマルタさん」



「ええ、お待ちしておりました。この時期に帰ってこられると言うことは、迷宮の討伐に参加されていたのですか?」



「ええ、最終的な討伐には立ち会っておりませんが、微力ながらお手伝いをさせて頂きました」



「それはお疲れ様でした」



「ありがとうございます。今日は迷宮で獲た魔石の売却と、以前頼んでおいた野営用の道具類は準備できたでしょうか?」



「もちろんご用意できておりますよ、魔石の売却も、ありがたく引き受けさせていただきます」



 俺は緑鬼の迷宮の探索で獲た魔石の内、無属性魔石と幾つかの水魔石を残し、他は全て売却した。水魔石は水筒の魔道具に利用する分だ。売却金から野営用の道具代を差し引いてもらい、更に無属性魔石へと支払いを変更してもらう。


 普段から使用しているP90とSCAR-H用の弾薬代は、魔石の稼ぎによって、収支はプラスになっている。今後ソロで探索していけば、当然使用量が増え、これがマイナスに転換する可能性もあるが、ロケット砲系やレーザー系を湯水の如く使わなければ、収支のプラスは維持できるだろう。

 それに牙狼の迷宮とはいえ、下層へいけば生体武具や魔道具を回収できるかもしれないしな。



「ところで、マリーダ商会では食料品や調理具の取り扱いはおこなっていますか?」



「食料品や調理具ですか? あいにくと、バルガ支店では取り扱っておりません。王都の本店では取り扱っておりますが」



「そうなんですか、ではバルガでよい商店があれば、紹介してくれませんか?」



「そうですねぇ……ご紹介できるところは幾つかございますが、少し時期が悪いかもしれません」



「そうなのですか?」



「ええ、迷宮の収穫祭の関係で、多くの食材がマイラル方面へ流れています。どの程度の日数の食料品をお求めかにもよりますが、あまり多いと断られるかもしれません。商人にとって、収穫祭は商才の出しどころでもあるのです。この祭りで品薄を打った商会や商店は、商才なしと見なされて祭り後の信用がガタ落ちになります」



「そうですか、日数……2週間か3週間分を一日3食で63食分と言ったところでしょうか」



「それは、事前注文が必要な量ですね……」



 そこでマルタさんが少し考え込む顔をしたかと思うと、俺の目に錯覚かと思うのものが映った。マルタさんの柔和な顔が、商人の鋭い顔になり、明らかに目が光ったのだ。



「シュバルツさん、ご提案があるのですが」



「な、なんでしょう」



「三日後に、私は一度王都の本店へ戻り、収穫祭で売る商品を大量に持って、バルガへと戻ってまいります。どうでしょう、その商隊の護衛と、荷物の輸送を手伝っていただけませんか? 報酬として、通常の護衛及び輸送代のほか、早馬を出して王都で食料品を100食分用意させていただきます。こちらの御代も、当然ながら勉強させていただきます」



 うーん、どうしようか、安く食料を手に入れられるなら、それに越したことはない。それに王都を見てみたいと言うのもある。町並みとかを見たいだけで、総合ギルド関係には近づかないが。


 城塞都市バルガ以外の大都市を見ておくと言うのも、今後の為にもいい判断かもしれないな。



「いくつか確認をさせてください。商隊の規模と俺以外の護衛の有無、それと王都往復の行程、そして荷物の輸送の手伝いとは、つまり俺の道具箱を利用したいと言うことですか?」



「ええ、シュバルツさんの道具箱を利用させていただきたい、商隊は荷馬車3台で動きます。明日、王都から第一陣として、商品を持ってバルガに到着する予定です。商隊にもマリーダ商会専属の護衛がおりますが、バルガの当商会の倉庫護衛にも付きますので、外から冒険者を雇う予定です」



なるほど……俺はマルタさんに商隊の行程などや、運ぶ荷物の内容など、彼に話せる範囲ではあるが、俺が受け持つことになるであろう商品についてなどを確認した。


 行程は王都までは三日、王都で二日泊まり、そこから三日でバルガへと戻る予定となっている。これならば、王都を散策する時間もありそうだ。



「わかりました。その提案、お受けしましょう」



「おお、ありがとうございます」



「ただし、護衛に付くときに、俺は変装させてもらいます。俺の戦闘スキルや道具箱のことを、あまり広めたくはないのでね。便利だからと、クランの勧誘が煩くなると面倒ですから」



「畏まりました。私も肝に銘じさせていただきます」



 この世界で生きていく以上、いつまでもVMBの力を小出しにはできない、広く知られるときは遠からず来るだろう。しかし、それが俺自身ではない誰か、シュバルツではない誰かに誤魔化せれば、俺は清々と迷宮にアタックできる。


 まずは顔を隠し、ボイスチャット機能のボイスチェンジャー機能を使えば……あのマスクの出番だ!





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