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 俺と山茶花サザンカのメンバーは、緑鬼の迷宮から戻るとすぐに、探索キャンプの本部となっているテントへと向かった。


 昨晩は早めに寝たため、迷宮内を日の出前の時間から出発し、キャンプへ到着したのはまだ朝早い時間だった。しかし、本部テントには総合ギルド職員の、バロルドさんとキースさんがすでに待機していた。



「おお! 戻ってきましたか! 昨晩、緑鬼の迷宮が討伐されたと思わしき慟哭が聞こえいたので、朝早くから待機していた甲斐がありました」



 迷宮の慟哭は、外の自然界にまで響いていたようだ。バロルドさんがニコニコ顔で迎えてくれた。俺と山茶花の臨時パーティーではフラウさんがリーダーを務めていたので、代表してフラウさんが報告をおこなった。



「ええ、色々と報告があるので、急いで戻ってきたわ。まず、緑鬼の迷宮の門番の討伐と大魔力石ダンジョンコアの入手には成功したわ」



 そう言って、フラウさんがラリィさんに前へ来るように促した。大魔力石は、ラリィさんが台座から取り外し入手したことになっている。これは、彼女が山茶花での花嫁修業を終えたことを意味していた。



「ラピティリカ様、おめでとうございます。大魔力石を拝見させていただいても宜しいですか?」



 バロルドさんもそれに気づいたのだろう。Cランク冒険者のラピティリカに対する態度ではなく、城塞都市バルガ周辺を治める領主の娘、ラピティリカ・バルガに対する態度へと切り替えていた。



「はい、勿論です。これが緑鬼の迷宮の大魔力石です」



 そう言ってラリィさんは、腰に付けていた道具袋より、多彩な色に光り輝くラグビーボールと似た形と大きさをしている魔石を取り出した。その輝きは7色の虹色とは言い難く、極彩色に輝く魔石は、宝石のようなマーキースカットにされていてる。

 魔石の放つ色彩は、内包する属性によるもので、火、水、風、土、闇、光、雷、氷、木、空、そして無属性を合わせた計11属性の色彩を持ち、これ一つで超大型の魔道具、たとえば都市機能の一つ、上下水の浄化施設を稼動させたりするのに使われている。


 美術品としての価値も高く、冒険者によって迷宮より持ち帰られた大魔力石は、王都などの大都市でオークションに出され、一般の商人や貴族らによって取引されていた。



「たしかに、見事な輝きです。大魔力石に間違いございませんね」



 バロルドさんもキースさんも、大魔力石に目が釘付けになっていた。


 

「バロルド、まだ大事な話が残っているの。実は、緑鬼の迷宮の最奥には迷宮の主ダンジョンマスターがいなかったわ。現在も騎士団が深部を探索しているはずだけど、たぶん居ないわね」



「迷宮の主がいない? そんな事がありえるのか? それに大魔力石を持ち出せば、迷宮の主だって死滅するはずだ」



 キースさんの疑問は、俺たち皆が思った疑問だ。しかし、誰もいなかった事実は変わらない。今考えるべきは迷宮の主の事ではなく、間違いなく死を迎える緑鬼の迷宮に対して、どうするかだ。


 俺はこれまでの迷宮の地図を作り、未完成部分を埋めるべく、再び迷宮へ向かうことになるだろう。山茶花のメンバーの内、フラウさんとミーチェさんは、当初の予定通りに俺の護衛として同行する。残る3人はマイラル村、そして城塞都市バルガへと戻り、総合ギルドと領主への報告をおこなうことになる。


 これから約一ヶ月、緑鬼の迷宮の収穫祭が始まる。迷宮から得られる魔石と資源を求め、バルガ周辺から冒険者や商人が集まり、様々な労働者が集まる。マイラル村を中心として、迷宮が死ぬその瞬間まで続く長い祭りが始まるのだ。









「シュバルツさん、お世話になりました。貴方のお陰で、これほどに早く迷宮討伐という成果を上げることができました、ありがとうございます」



「いえ、お顔を上げてください、ラピティリカ様。助けられたのは私も同じです」



 俺は、これから城塞都市バルガへと向かう3人を見送るため、探索キャンプの出口にいた。ラピティリカ様はバルガに帰還後、迷宮討伐者として領主の娘へと戻り、優れた魔力の持ち主として嫁ぎ先を決める事になるという、大魔力石もその嫁入り道具になるそうだ。


 収穫祭の最後には、迷宮の死を見届けるために、領主のフランクリン・バルガ公爵と共に戻ってくる。元々マリンダさんとルゥさんは、山茶花の中でのラピティリカ様の護衛として付いてまわっていたそうだ。今回の迷宮討伐でその依頼も終了となり、祭りの終わりに戻ってくるところで依頼完了となる。



「祭りの最後までには戻ってくるからな!」



「また会える」



「ええ、楽しみにしています。道中お気をつけてくださいね」



 俺のスキルなどに関しては今更言うことはない、彼女らならば他言はしないだろう。祭りの後半にはまた顔を合わせるだろうしな、今生の別れでもなく、また会える。


 そうして、彼女らは総合ギルドが用意した馬車と馬に乗り、探索キャンプを離れていった。






 彼女らを見送りを終え、地図作成用のテントへ行き、これまでのマッピングした分を地図に落とし込もうかと振り返ると、そこには覇王花ラフレシアのライネルとウィルが立っていた。



「地図屋、迷宮を討伐したそうだな」



「討伐したのは騎士団と山茶花ですよ」



 相変わらず、この男は俺のことを”地図屋”としか呼ばない、つまり俺の価値はこいつにとって地図を描く事だけなのだろう。



「そこまで導いたのは君だろう? 生まれたばかりの迷宮の主なんて、大して強くもなかったはずだ。まぁ、居なかったという話だけど、知らずにどこかで討伐してしまったのではないかな」



「そういう可能性もあるかも知れませんね」



 確かに、その可能性はある。あの門番として戦ったオーガファイターが迷宮の主だったのかもしれない、いやしかし、それだと迷宮の門の上にあった、玉座の意匠が空席になっていた意味がわからない。


 バロルドさんとキースさんにも聞いたが、迷宮の門の上の玉座の意匠には、その迷宮の主を模した彫像が座っているそうだ。これまで空席の玉座など、聞いたことがないという話だった。



「今回の迷宮討伐の、一番の功労者はお前だ地図屋。俺たちが1週間以上かけても先に進めなかったのを、お前はほんの数日で深部までたどり着いた」



「山茶花の皆さんのお陰ですよ」



「あんな女狐どもはおまけだ!」



 こいつは……本当に山茶花が、女性が嫌いというか、下に見ているんだな。



「シュバルツ、俺たち覇王花は君を大変高く評価している。どうだい、俺たちのところへ来ないかい?」



「覇王花に加入しろと?」



「そうだ! 山茶花は女狐だけのクランだ、男のお前が一緒に居る場所じゃねぇ。だが俺たちのところは違う。多少女も居るが、能力のある男の集団だ。お前には覇王花に入るだけの力がある、俺たちのところに来い!」



 こんな勧誘の仕方、聞いたこともされた事もない……俺は「P0wDer」に加入する以前にも、他のFPSゲームタイトルで幾つかのクランを渡り歩いた。色々な趣旨のクランがあった、ただ楽しむだけの身内のようなクラン、逆に勝つことだけを目的としたクラン、初心者を導く教導団の様なクランを組織したこともあった。


 しかし、どこもこんな傲慢なクランではない、こいつらを見ていると昔を思い出す。



「…………お断りだ」



「なんだと!」



「覇王花の、クルトメルガ最大のクランからの誘いを蹴るのかい? 自慢ではないが、俺たちが直接勧誘するなんて事は、滅多にないことだよ? どれだけ名誉なことか、君にはわからないのかい?」



「はっきり言わないと判らないのか? 俺はお前たちの態度が気に食わないんだよ、山茶花への、いや……女性に対する態度もそうだが、傲慢なクランほど反吐が出る。昔から居るんだこういうクランが……実績やメンバーの功績を鼻にかけ、他人を見下し、常に自分たちが正しいと言い放ち、やりたい放題のガキどもが……どこの世界も一緒だな!」



「地図屋……きさま……」



「……シュバルツ、君の気持ちはよくわかったよ。しかしね、ならばこちらもはっきり言おう、俺たちはお前の力が欲しいんだよ、道具としてね! 君の地図作成能力があれば、覇王花はクルトメルガの……いや、オルランド中の迷宮を制覇できるだろう! そしてその先もだ! いずれ君もわかるだろう、誰の下に付くべきかをね……」



 ライネルとウィルはそう言って探索キャンプの中へと去っていった。


 その背中を睨みながら、俺は彼らの言葉を思い返していた。あいつらは俺を、私利私欲のための道具としてしか見ていない、そんなクランへは行くつもりはない。

 俺もまた、探索キャンプへと戻り、今俺がすべきことをおこなう。まずは緑鬼の迷宮を完成させる。





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― 新着の感想 ―
[一言] 加入して道具扱いされるより良いんじゃね?
[一言] 「道具」って、はっきり言いやがった…ラフレシア完璧な糞野郎の集団だってはっきりわかんだね。
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