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翌朝、ケイモン子爵を筆頭に、西方バルガ騎士団12名と、山茶花のメンバーは迷宮の主討伐に向け、迷宮深部へと向かって行った。
残る騎士団パーティー6名は、泉から奥へ向かうまでは同じだが、ルートは最奥ではなく、それ以外のルートへ行き迷宮内の掃除を進める。
迷宮の主が倒され、大魔力石が外されると、迷宮内の魔素は緩やかに減少し、約一月ほどで全ての魔素が消滅するそうだ。
そして、主の滅んだ迷宮内では魔獣・亜人種は現出しない、変わりに魔素を吸い、迷宮に現れるのは魔石だ。
迷宮内で魔獣や亜人種を倒しても手に入れることの出来ない空魔石、これが主が滅び、大魔力石の外された迷宮に湧き続ける。そして、魔素が消滅した迷宮は、最下層から順に萎むように閉じていくという。最後には入り口も閉じ完全に消滅する、それが迷宮の死だ。
他にも、迷宮内に自然界を模写したようなフィールドダンジョンが存在する場合、擬似フィールドにある樹木や鉱物を伐採し採掘し、資源として採り尽くす。
そして最後に転送魔法陣だ。最下層の一番奥にあるものと、10層ごとの門番と同時に存在する転送魔法陣を、主のいなくなった迷宮から石造タイルごと引き剥がし、迷宮から持ち出す。持ち出した転送魔法陣を模写し複製を作り出せば、本物から複製への一方通行ながら、どれほど距離が離れていても転移する事が出来る。
クルトメルガ王国のみならず、このオルランド大陸にある諸国は、この転送魔法陣を利用し、遠方の調味料などの食材をはじめ、資材、人材、情報の輸送をおこなっている。
転送魔法陣は、国防の関係から国が管理運営しているが、安くない金額で商人も利用できる。しかし、大きな荷物を運ぶ商人は、陸路での輸送が基本なのは変わりはない。
迷宮を討伐するということは、自然界に生きるものに対して害悪を振りまく迷宮を斃すだけでなく、そこから獲られるものを、根こそぎ手に入れることを意味する。
迷宮の主を斃すだけでなく、別の騎士団パーティーが、迷宮内を探索する理由がこれだ。そして、俺もまた迷宮の主が倒れた後のため、円滑に魔石回収などをおこなえるようにする為に、この迷宮の地図を完成させなければならない、それが俺の本来の仕事だったはずだ。
俺は清浄の泉から出口方面へ進み、これまで探索していなかったルートを、マッピングしながら進んでいく。
途中、何度か戦闘を繰り返し、今もまた進行方向から、4匹の足音が聞こえている。
白光草の種を投げ、通路の光量を僅かばかりに足す、P90のタクティカルライトを消す。
俺は陰影を作り出し、暗くなった場所に膝立ちになり、P90を構えクロスヘアとアイアンサイトの先に、亜人種が現れるのを待った。
やがて、NVモードの緑色の視界にゴブリンの姿が映る。それが見えた瞬間、トリガーを指切りし、先頭の一匹の頭に穴を開ける。
先頭はノーマルのゴブリンだったようだが、後続の3匹はゴブリンアサシンだ。こいつらは迷宮の地下通路内を、素早く動こうとするので、乱戦になった場合少し面倒くさい。
先頭に続いて2匹目を捉えると、残る二匹は左右に散開し、こちらへと飛び込んできた。
俺は膝立ちの状態から、真後ろにスライドジャンプという超低空ジャンプをし、右手から襲い掛かってきたゴブリンアサシンの攻撃を回避し、そのまま胴撃ちで斃す。
左手から迫るゴブリンアサシンは、地下通路の壁を蹴り、三角飛びの要領で上から迫ってきていたが、俺のスライドジャンプは5~6mは移動する。無様に俺の目の前に着地したアサシンの頭を抜き、戦闘を終了した。
マッピング作業を続けながら何度かの戦闘をおこない、そろそろ清浄の泉に戻ろうかと思ったとき、迷宮の中に慟哭が鳴り響いた。同時に、風の流れていない迷宮内の空気が震える。どうやら迷宮の主が倒れたか、もしくは大魔力石を取り外したのだろう、これが迷宮の死の始まりか。
当初の探索の予定では、今日の探索で俺と山茶花のメンバーは、一度迷宮を出て、探索キャンプへと戻る予定になっていた。しかし、門番を斃した事で状況は変わり、俺達はもう一日、清浄の泉で野営する事になった。
同じく、今日の朝から再び迷宮入りする予定になっていた覇王花は、一日待機しているはずだ。ちなみに、連絡は留守番をしていた総合ギルド職員が、夜中に走ってくれていた。
俺は一足先に清浄の泉に戻り、騎士団と山茶花の帰りを待った。最初に戻ってきたのは、主を倒しに行ったのとは別の騎士団パーティーだ。彼らもまた、迷宮の慟哭を聞き、泉へと戻ってきていた。
泉で待つこと数時間、イヤーパッドに十数人の足音が聞こえてきた。
「帰ってきました」
俺の一言に、騎士団の6名が声を上げた。すぐに彼も近づいてくる集団に気付いたようだ。そして泉の部屋に戻ってきた騎士団12名と山茶花の5名、誰一人として欠けた者はおらず、また怪我もないようだった。しかし、同様に皆の顔は迷宮の主を討伐してきたと言う、やり遂げた表情ではなく、何か納得がいかないような、そんな浮かない表情ばかりだった。
「迷宮の主がいなかった……?」
「そうよ、門番のいた大部屋の先には何もいなかったわ」
「誰も座っていない玉座と、大魔力石だけがあったにゃ」
「こんなのは初めて」
泉に戻ってきたフラウさん達によれば、門番のいた部屋の奥の、白い地獄の門を思わせる意匠の凝らされた門を開けると、そこには大きな空間が広がってはいたが、もぬけの殻だったそうだ。しかし、大魔力石が台座に嵌っていたままだった為、それを外し、迷宮を死に至らしめた。迷宮に響いた慟哭は、大魔力石を台座から外す時に起こるものだそうだ。
迷宮の主はどこに行ったのか? そういえば、ミーチェさんは誰もいない玉座があったと言った。空の玉座、あの白い石門の上部にあったものと同じだ、もしや最初からこの迷宮には主が居なかったのではないか? そんな俺の疑問に答えたのはフラウさんだった。
「迷宮は、主がいてこそ成り立つものよ。それが居ないなんて言うのは、普通なら考えられないわ。でも、この迷宮は第一層しかない、今までとは違う迷宮でもあるわ。ありえない事ではないのかもしれないけど、明日以降の探索でどこにも主の姿がないと確定するまでは、最終的な判断はできないわ」
確かに、今ここで俺達だけで結論を出す事はできないだろう。この緑鬼の迷宮自体は、大魔力石を外した事により、緩やかな死へと向かって走り出した。夕食を取りながら、明日以降の予定を話し合うが、まずは明日の朝一でキャンプへ戻る。
ケイモン子爵率いる騎士団はここに残り、迷宮内の残っている亜人種を狩り、同時に迷宮の主らしきものがいないかを探索する。
俺達は夕食後の休息もそこそこに、睡眠をとる事にし、泉の見張りは騎士団の方々に任せ、明日の朝に備える事にした。
使用兵装
FN P90
ベルギーのFN社製のサブマシンガン、特徴は人間工学に基づいた扱いやすいデザインと専用弾薬の5.7x28mm弾により、通常の拳銃弾と比べると剛体に対しては高い貫通力を誇り、人体などの軟体に対しては着弾した内部で弾頭が乱回転し、貫通せずに体内を大きく破壊する。