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 緑鬼の迷宮、門番のいる大部屋での戦闘は、さすがにBランク、Aランク冒険者を擁する山茶花サザンカのメンバーと共に戦えれば、少し危ない場面もあったが、概ね大きな問題もなく終了した。


 この戦闘で見れた門番の強さや防具の堅さは、今後ソロで攻略するにあたってのよい情報収集となった。そして、今回の迷宮討伐は、残すところ最後の一匹、迷宮の主ダンジョンマスターを残すのみとなった。


 しかし、俺はこれには追従しないつもりだ。このあと清浄の泉に戻れば、最後の迷宮討伐パーティー、城塞都市バルガからやってくる騎士団がいるはずだ。


 総合ギルド関係者や覇王花ラフレシアに対しては、俺の描いた地図の出来具合を口止めするだけで済むが、騎士団と一緒に迷宮の主ダンジョンマスターのところまで一緒に行けば、それ以上の情報を与えてしまう事になる。レミさんも、別組織であろう騎士団にまでは影響力を持っていないだろうし、ここは自主的に隠れさせてもらう。





 そんな事を考えながら、門番の体が迷宮へと沈んでいくのを見ていたが、オーガファイターが持っていた戦槌だけは、靄に包まれる事もなく、その場に残り続けていた。



「どうやら、生体武具を落としていったようね」



「にゃー」



 フラウさんとミーチェさんが、俺の傍で同じ様にオーガの体の沈む様を見ていた。


 ルゥさんとラリィさんは、マリンダさんの様子を見ている。最後の一撃は逸れたが、そこに至るまでに、パーティーの盾役として、何合も打ち交わしている。怪我がないわけはないのだ。



「生体武具は討伐証の代わりにもなるわ、シュバルツが欲しいなら譲るわよ」



 ミーチェさんが戦槌を回収しにいくのを横目に、フラウさんが提案してくれたが、俺はそれを断った。Cランクになってしまったら、指名依頼がくる可能性があるからな、迷宮に入れる探索者の資格と、生活していく上で不自由しない金額が稼げれば、面倒くさそうな昇級試験や指名依頼はお断りしたい。


 それに、俺には自然界で魔獣や亜人種を討伐する為の、基本的な知識が足りていない、そこを勉強するよりも、迷宮に篭って戦い続ける方が楽だろうと今は判断している。


 ラリィさんの治癒魔法により、マリンダさんの体調も完全に回復し、俺達は大部屋の奥で佇む、もう一つの迷宮の門、迷宮の主へと続く白い石門を見つめながら、清浄の泉へ戻る為に動き出した。






 清浄の泉まで戻ってくると、そこには予想通りに騎士団と思われる統一された鎧を纏った面々がいた。しかし予想外だったのは、人数が1パーティー規模の6人ではなく、18人の3パーティー規模もいた事だ。



「おお、ラピティリカ様! 戻られましたか!」



 泉の部屋の中で、所狭しと作業をしている騎士集団の中から、一際大きな体躯と、デザインは他の騎士たちと似ていながらも、さらに細かい意匠の凝られたフルプレートメイルを装着し、オールバックの白髪、白髭を綺麗に整えた老騎士が声を上げた。



「ケイモン副団長! 貴方が迷宮討伐に来られたのですか?」



 騎士団……正式名称はクルトメルガ王国、西方バルガ騎士団。この集団を率いて来たのが、バルガ騎士団の副団長、バトラー・ケイモン子爵だった。

 俺は、山茶花サザンカのパーティーに同行しているランクD冒険者の地図屋、ということで軽く自己紹介した。ここまでの報告はフラウさん達に任せ、早々に泉に留まっている総合ギルド職員の下に行き、覇王花ラフレシアのウィルが置いていった、今日の探索範囲の地図を受け取り、地図作成作業の為に泉の部屋を離れることにした。


 ここに戻ってくるまでの間に、山茶花のメンバーには、俺のスキルや地図作成能力に関して、口外しないようにと再度確認し、明日の迷宮の主ダンジョンマスター討伐にも同行しないことは伝えてある。スキルなどに関してはすんなりと受け入れられたが、迷宮の主討伐へ同行しないことに関しては渋々といった感じで了承してもらった。


 俺は念のため、泉の手前の小部屋ではなく、更に戻った先の袋小路まで移動し、そこに昨日同様にAEC装甲指揮車のドーチェスターを召喚し、その中で地図の作成作業をおこなった。


 1時間ほどで今回の探索範囲分を描き上げ、ドーチェスターの運転席から、正面に亜人種がいない事を確認する。音は何も聞こえていなかったが、警戒するに越した事はない。

 ドーチェスターをガレージに戻し、清浄の泉へと向かって歩き出した。






 泉の部屋に戻ってくると、18人いたバルガ騎士団が12人に減っていた。まさか、夜通しで迷宮内の討伐を進めるつもりなのだろうか?



「シュバルツが戻ってきたにゃー」



「おかえり」



 ミーチェさんとルゥさんが、すぐに俺に気付いてくれた。他の3人、フラウさん、マリンダさん、ラリィさんはバルガ騎士団の区分けの方で……あんなテーブル持ち込んできたのか……彼女達は、ケイモン副団長と木製の円形テーブルを囲んでお茶を飲んでいた。



「騎士団の方の人数が減っているようですが、奥へ向かったのですか?」



「泉周辺の掃除をしに行った」



 ルゥさんが火にかけてある鍋から、お椀に汁物を注いでくれながら答えてくれた。一緒に差し出された今日の夕食は……。




 ルゥさんに差し出されたお椀を受け取り、野菜と薄切りにされた肉と……これは米か?


お椀を持つ俺の手は震えていた。不意打ちだ……この異世界に落ちて、もう一月は経っただろうか。城塞都市バルガでは、定宿にしていた「迷宮の白い花亭」でばかり食事をしていたが、そこでは一度も米は出てこなかった。米の存在を聞こうとした事もあったが、そんな物はない、知らないと言われるのが怖くて聞けなかった。


 この異世界には米はないのだろうかと、もう二度と食べれないのかと思ったこともあったが、日々の生活の中で自然と気にすることもなくなってきていた。それが今、突然目の前に現れた。



「どうしたにゃ? コメ知らないにゃ?」



「い、いえ……ひ、久しぶりに見たもので……」



「コメは高いにゃ、普通は依頼で出てる先で食べるものじゃないにゃ、今日は騎士団が持ってきてたにゃ」



「米が高い? 高級品なのですか?」



「オルランドの東から転送魔法陣で持ってくる、使用料が高いから自然と高くなる」



「そうですか……そうなんだ……」



 久しぶりに食べた米の入った雑炊のような汁物は、ちょっと塩の効いた、しょっぱめな味だった。








 夕食を食べ終え、俺は総合ギルド職員とバルガ騎士団の斥候班のヨハンさんを交え、ここまでの地図や、この先の迷宮の主までのルートの地図を渡しながら、亜人種の出現傾向、到達に掛かる予想時間などの説明や話し合いをしていた。そこへ、副団長のケイモン子爵がやってきた。



「ヨハン、明日の行程のめどは立ちそうか?」



「はっ、シュバルツ殿の地図と情報から考えますと、3時間から4時間で到達できると思われます」



「地図を見せてもらえるか」



「はっ、どうぞ」



 ケイモン子爵は俺の描いた地図を眺め、次の瞬間には目だけが俺の方へと動いた。



「シュバルツ君、たしかDランクと言っていたな、いつ頃Cランクに上がれるのかな?」



「恐れながら、地図を描くことしか能の無い身、迷宮に篭り細々と暮らしております。Cランク昇級試験を受けれるほどのギルドポイントを貯めるには、まだまだ月日が必要な状態です」



「そうか、ならば騎士団に入るつもりはないか? 探索者として細々と暮らすよりかは良い暮らしが出来よう」



「私は剣も魔法も得意としておりません。騎士として責務を果たすには力不足と考えます」



「そうか……気が変わったらバルガの騎士団本部へ来るといい」



「はっ、ありがとうございます」



 ケイモン子爵はヨハンさんにいくつか指示を出し、また騎士団の区分けの方へと戻っていった。今のやり取りで良かったのか……それははっきり言ってわからない。地図を一目見て、俺の地図作成能力の有用性を確信し、確保しておきたいと思ったのだろうが、軽い気持ちでの勧誘なのか、それともこの場は引いただけなのか。


 騎士団になんて入ったら、本当に地図屋として働く事になりそうだ。その生き方も、もしかしたら有りなのかも知れない。しかし今はまだ、俺の生き方を目的・目標を変えたくはない、まずは牙狼の迷宮だ。あそこを俺の手で、討伐する。





使用兵装

AEC装甲指揮車 ドーチェスター

第二次世界大戦時に使用されたイギリスのAEC社製の装甲指揮車、厚い鋼板に囲われた

キャンピングカーの様な居住スペースを後部に持つ装甲バスである。

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