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「Guh Guh」
「ん……んぅ……」
(こ、ここはどこだろう? 周りは薄暗く日の光も魔力光も感じない、かすかに明るいのは白光草の光かな……)
「Guuuu Gyy」
(まだ瞼がしっかり開かない、それに床が固くて痛い、私どこに寝て……)
そこで意識が一気に覚醒した。両手は何かに縛られてる足もだ、ゆっくりと瞼を開けると、目の前には洞窟内だと思われる岩壁が見える。他には何も……背中に複数の亜人種の声が聞こえる。
(そうだ、私は先輩と一緒に冒険者の達成した依頼の事後調査でマイラル村へ、そして西の川周辺の調査を行なって、そこで何かに襲われた。気を失った前後が思い出せない……ここはやつらの巣?)
私が起きた事に気づいたのか、亜人種が動いている音がする、1匹こちらへやっ近づいてくる音だ。
「Guhhhh」
ゴブリンという亜人種に雌はいない、雄しかいない種であるゴブリンは、種族を増やすために他種族の雌をその苗床とする。主に普人種や獣人種を複数人数攫い、廻し、孕ませ、生ませる。ゴブリンの子は着床から出産まで1ヵ月、新生児が成体になるまでも1ヵ月と、成長速度が恐ろしく早い。
この繁殖速度で、一度巣穴を作り雌を囲えば、驚くほどのスピードで繁殖し、周囲へ害悪を振り撒く。
その為、はぐれゴブリンや巣分けして新しい巣穴を作るために移動してるゴブリングループが発見された場合、速やかに排除しなければいけない。
冒険者ギルドではそういった依頼が数多く出されており、達成後にも狩逃しや巣穴の有無を確認するために、ギルドから調査員が派遣される。今回は今までゴブリンを見かけなかった地域で見つかった、はぐれゴブリン討伐後の調査に調査員見習いの私と、調査員の先輩の二人で訪れていた。
マイラル村の西に広がる林は想定よりも広く、短時間だけならと先輩と二手に分かれてから半刻ほど、そう大きくない川辺に立ち、川の流れに目を奪われていた数瞬、後方より打たれた何かで気を失い今ここにいる。
(ゴブリンの巣穴に連れ込まれた……間違いない、ならその目的は……)
亜人種の足音が真後ろまで来ている、私は地面に横になったまま、起き上がらずにゆっくりと顔を後ろへ……。
「きゃあああああああああ!!!」
思わず叫び声を上げてしまった。亜人種……ゴブリンの顔がすぐ目の前にあったからだ、その顔は赤い釣り目を細くし、大きな口を開けて犬歯を見せ付けるように嗤っていた。
口から垂れる涎が私の体に落ちる、思わず縛られてる両手で近づく顔を叩くように払いのけた。
「Guhhhhhh!」
顔を叩かれたことに激高したのか、ゴブリンは犬歯の並ぶ口を大きく開け、威嚇するように奇声を上げた。そして手に持っていた棍棒を振り上げ
「くぅ……!」
思わず顔をそらし、目を瞑ってしまった。ゴブリンの持つ棍棒が振り下ろされるのが気配でわかる。棍棒の振り下ろす先にあるのは私の頭、このまま頭を潰されて死ぬ。そう思った瞬間、私の頭の真後ろにソレは振り下ろされた。
棍棒が私の頭の真後ろに叩きつけられ、地面を打ち鳴らす鈍い音と、その振動が頭に伝わってくる。
「Gyahaaaaa!」
(外れた! いや、外した……)
再び棍棒は振り上げられ、今度は私の顔の前へと振り下ろされた。地面に打ちつけられた衝撃で巻き上がる土が私の顔を打つ、私は目を開けることが出来なかった。
三度棍棒が振り上げられ、今度は頭の後ろの地面に叩き付けられた。その振動が頭に響く。ゴブリンという亜人種は非常に残虐な性格を持っており、弱者をいたぶる事に快楽を感じる、弱者をおもちゃにする事に快楽を感じる。
その存在のみならず性格もまた邪悪、決して亜人種以外の人種と共生はせず、人に害なす為だけに存在する種、それがゴブリンを始めとした亜人種であった。
(このままじゃ、こいつらの苗床かおもちゃにされて殺される)
棍棒を振り下ろしているゴブリンは、私に跨り前へ後ろへと何度も何度も棍棒を叩きつけ、その振動が私の頭に体に響くたびに私は恐怖に震えていた。私に跨るゴブリンの他に、まだ何匹もいるんだろう、一緒に奇声を上げて嗤っているのが聞こえる。
何かを食べているのであろう咀嚼音に、ゴブリンの奇声と棍棒を地面に叩きつける音だけが繰り返されて…………止まった。
「え?」
思わず声が出た。振動が止まると、すぐに何かが倒れる音が響いた。一緒になって嗤っていた他のゴブリンの奇声も止むと、再び倒れる音が一つ、二つと続く。
私は再びゆっくりと目を開け、後ろへと視線を向けると、そこにはゴブリンが3匹倒れこんで……いや死んでいた。
(な、何が起こってるの?)
目に入った3匹の死体の向こうには、更に10匹近いゴブリンたちが輪を作っていた。その中の中央にいる個体は、棍棒と言うには長い木の棒……木杖を持ち、布の上着にストラのような帯を纏っている。
(こ、こんなに数がいたの?! それにあれはゴブリンメイジ? 魔法が使える個体だなんて、ただのはぐれの集まりじゃないわ!)
ゴブリン達は、急に倒れた同族の姿に呆気にとられていたが、群れのボスと思われるゴブリンメイジが、巣穴の出口方面へ杖を向け奇声を発する。周囲のゴブリンに何か命令したようだ。ゴブリン達が奇声を上げ、出口方向へ動き出そうとしたその時。
出口方面の一角が赤く閃き、何かが炸裂したような音が3つ続き、また閃きと同時3つ続く、その閃きの度にゴブリンが1匹、また1匹とその頭部を血の赤に染めていく。
(こ、これは魔法? 見たことない属性攻撃だけど、ゴブリン達を的確に排除してる……! 先輩の魔法攻撃はここまで丁寧なものじゃない、むしろあの人なら両手剣を振りまわして……あっ!)
次々と倒れていくゴブリン達を盾に、ゴブリンメイジが杖を前に構え何かを唱え集中している。すると、ゴブリンメイジの前に大きな圧縮された空気の塊が出来上がっているのが見えた。そしてそれが、ゴブリンメイジの前にいるゴブリンの上半身を後ろから突き破り、血の赤を纏いながら赤く閃く角へ向かって飛んでいく。
(あれは風魔法のエアボール! ゴブリンの癖にあんなに大きな球体を撃てるなんて!)
ゴブリンメイジの放ったエアボールは50cm近い大きさがあった。身長が120cm程度しかないゴブリンが放つソレは異様に大きく見えた。
そして、出口へ続く通路の壁の一角が轟音と共に削り破裂した。
ゴブリンメイジが奇声を上げ嗤う。そして再び号令を出し、生き残ってるゴブリンたちに追撃を命じたその時、再び削られた一角が赤く閃き、次の瞬間にはゴブリンメイジの頭は吹き飛んでいた。
(す、すごい、ゴブリンメイジとは言え、体力は通常のと殆ど変わらないけど、少なからず魔法障壁があるのに、それを突き破って一気に斃してる)
ゴブリンメイジの死体に目が釘付けになり、そんなことを考えているうちに閃く光も、炸裂するような音も止んでいた、そして場をゴブリン達の死体と静寂が支配した時に、その人は暗い巣穴の道からゆっくりと現れ、こちらへ歩いてきた。