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山茶花のメンバーと合流した翌日、早朝から緑鬼の迷宮へと向かった。このパーティーでの俺の役目は斥候だ、山茶花の5人よりも前の位置で一人歩き、迷宮内での先導と索敵を担当する。
俺はヘッドゴーグルに映るマップを見ながら進んでいくが、他の5人は俺の描いた地図を、更にギルド職員が複製したものを持ち、地図の正確さを自分の目で確認しながらの探索となった。
「シュバルツの地図は凄いな! 迷宮の形状が判るだけじゃなく、距離感も統一されてる地図なんて俺は初めて見たぜ!」
「この精度はウチの地図担当にも見習わせるべき」
俺の後方で、マリンダさんとルゥさんが地図を見ながら話をしているのが聞こえる。現在の隊列は俺を先頭にして、次にマリンダ&ルウ、その後ろにフラウ&ラリィ、最後尾にミーチェとなり、1-2-2-1の隊列で進んでいる。
これが正解なのか一般的なのかはわからないが、俺が先頭とだけ決まって、あとは山茶花のいつもの隊列なのか、自然とそうなっていた。
清浄の泉に到達するまでは、緑鬼の迷宮内での戦闘に慣れる意味でも、マリンダさん、ルゥさん、ラリィさんの三人が中心になって対応していった。
マリンダさんは重戦士でありパーティーの盾役、装備は柄の短い両刃斧と1mほどの長けがある大盾だ。形状はスクトゥムと呼ばれる、古代ローマ時代に使われていた大盾に似ており、少し湾曲している。その大盾でゴブリンの攻撃を抑え、弾き飛ばし、体勢を崩したところで両刃斧で斬り飛ばす、そんな戦い方をしている。
ルゥさんの持つ剣はやはり刀に似ていた、似ているだけで刀ではない、鍔が違うし刃文もない、しかし形状だけは日本刀そのもので、細身で反りがある片刃の剣だった。
なんだろう凄い違和感だ、刀を作ろうとして断念し形状だけ真似たような剣、 それがルゥさんの武器だった。しかし、剣士としての技術は凄いの一言で、居合い斬りを好むのか、一刀のもとにゴブリンの首を落とし、または心臓を一突きし、流れるようにして斬り刻んでいた。
そしてラリィさんはと言うと――彼女はどうやらサポート職のようであり、マリンダさんとルゥさんに、付加魔法のようなものをかけている。効果を聞くと、対象者の魔力がより円滑に循環するようになり、身体強化の魔法の効果が上昇するだの、魔法障壁を対象者の回りにかけるなど、色々な付加魔法があるそうだ。
ちなみに、ラリィさんに敬称を付ける付けないで昨日の夜は大変活発な議論を交わした……俺は基本的に、知人にさん付けする癖がある、あまり呼び捨てで誰かを呼ぶことはない。
基本的に丁寧な口調も性格としか言いようがない。しかし、ラリィさんはそれが領主の娘に対する畏敬の念から故だと思ったようで、今の自分にそれは必要ないと、年齢が下の自分に敬語は必要ないと言って聞かなかったが、最終的に呼びやすい呼び方でと言うことでさん付けで呼んでいる。
「この小部屋を越えれば清浄の泉です」
「やっと到着にゃー」
泉前の最後の小部屋を抜け、その先にある清浄の泉へと俺達は入っていった……中はギルド職員のパーティーによって、野営用の拠点として幾つかの道具や資材、食料品などが置かれているはずだったが……。
「狭い」
ルゥさんが呟いた、当然だ。清浄の泉の部屋は、覇王花の野営スペースと俺と山茶花のスペースが明確に分かれていたが、覇王花側は部屋の約半分、残り半分が俺達のスペースと言いたいところだが、部屋の角の一つは泉が湧く小さな池になっているので、実質1/4が俺達のスペースとして区分けされていた。
泉の部屋で一人留守番をしていたギルド職員が駆け寄ってきて、色々と説明をしてくれたが、話は簡単だ。覇王花のライネルが探索本部で決めていた区分けに口を出し、現地で無理やりこの区分けで作らされたという訳だ。
「思った以上に横暴な振る舞いをするクランなんですね」
「覇王花はこの国では最古参のクランよ、元はクルトメルガの王族が興したクランで歴史と知名度だけでなく、その力は現在でも間違いなくトップに君臨するクランよ」
フランさんがそう言いながら荷物を俺達のスペースへ置いていく、出発時に決めた今日の予定では、ここで小休憩を取り、すぐに泉の奥へと探索を開始する事になっている。
「休めるだけいいさ! 休憩入れて午後の探索に備えようぜ!」
「そうですね、迷宮は一日でも早く討伐するべきです。お茶入れますね、シュバルツさんも飲みますよね?」
ラリィさんが小動物のような動きで泉へ水を汲みに走っていく、他のメンバーも吹っ切れたように野営用の道具を置いていく、俺も荷物を置きたかったが……。
もう諦めてるけど、レミさんに出した三つの条件、これ何も守られてないよな……。
俺が今回の緑鬼の迷宮の地図作成の依頼を受けるにあたって出した三つの条件、地図作成者としての俺の名前を伏せる、少人数での探索、地図作成法及び俺のスキルを口外しない、この三つを今後の俺の動きを束縛されないようにと出したわけだが、実際はどうだ?
俺自身で口にした部分も有るが、山茶花のメンバーにはベラベラと偽装した俺の力を教えている、勿論口外しないでくれとは頼んであるが、しかし地図作成者としての俺の名前は探索キャンプに出入りしているギルド職員のみならず、この国のトップクランにまで知られた。
迷宮討伐に参加できたこと自体はいいんだが、結果的に俺の力は多数の目に止まるだろう。なんかもう、めんどくせぇな!
「シュバルツは野営道具持って来てないにゃ?」
俺がたいして荷物を降ろしていないことに、ミーチェさんが気付いたようだ。
「ありますよ、本格的な野営道具はまだ持っていないので、毛布とか食事関係しか持っていませんけどね。まぁ、寝る前に出しますよ」
その後はラリィさんが入れてくれたお茶で一息入れ、留守番役のギルド職員に荷物を頼み、清浄の泉の奥へと探索を再開した。
泉の奥の探索予定時間は約3時間、行きと戻りを合わせての時間なので、1時間半ほどを目安に進行し泉の野営地へと戻る。ここからは6人全員で戦闘行動を取っていく。ヘッドゴーグルに映るマップの形状は泉の前と変わっていない、相変わらずの曲がり角の多さと、その先の行き止まりの多さが目立つ。
「正面の二股、左に3匹、奥行き止まり。右に2匹、正道です」
イヤーパッドに聞こえてくる音と、マップに映る光点により敵の動きはほぼ完全に判る。ここまではマップに光点で映らない、音が聞こえないと言った敵は一匹も居ない、全ての敵が映り音が聞こえるなんて思ってはいないが、索敵が非常に楽なのは確かだった。
「マリンダ、シュバルツは右、残りは左」
俺と山茶花の混合パーティーは、俺の索敵報告に合わせてフラウさんがリーダーとなり指示を出している。
フラウさんはランクB冒険者で、マリンダさんとルゥさんはランクAなのだが、山茶花の中ではフラウさんの方が古参だそうで、自然とパーティーリーダーがフラウさんになっている。
俺はP90の安全装置をフルオートに廻し、ダウンサイトして歩行射撃の体勢で前進していく、マリンダさんも俺の横に付き、大盾を構えて付いてくる。
目の前のT字路を右に曲がり少し進むとゴブリンが見えてきた、ノーマルではないゴブリンファイターだ。
ゴブリンファイターはノーマルよりも一回り大きな体躯で、手に持つ棍棒も大きい、俺は立ち撃ちのまま2匹のゴブリンファイターへクロスヘアをなぞるように滑らせ、指きりで2連射-2連射と交差した瞬間に撃ち込んでいく。
マリンダさんは俺の遠距離攻撃に一瞬体を強張らせたが、ゴブリンファイターが崩れ落ちるのを見ながら大盾を前面に出して警戒している。結局はゴブリンファイター2匹は何も出来ずに崩れ落ちていった。
右方向は排除完了したので後方の様子を見たが、あちらも問題なく3匹を倒していた、向こうもファイターだったようだ。
「シュバルツのそれ凄いな!」
マリンダさんが俺の肩をバンバン叩きながら賞賛してくれているが、ちょっと痛いです。
ミーチェさんも「シュバルツがいれば楽ちんにゃ」とか言いながら魔石を回収しラリィに渡している、回収した魔石の保管はラリィの担当だ。
俺が斃した分の魔石をラリィに渡そうとすると、目を輝かせて「お疲れ様です!」と元気に言ってくれた。何この子、凄く可愛い。
その後も行き止まりに迷い込むことなく、俺たちは正道を進み小部屋、大部屋とゴブリンどもを斃していった。泉の奥はノーマルが殆ど居ないようで、基本ファイターで集団の中にメイジやアサシンと言った別クラス種が混じっていた。
また、途中でマップの端のほうの行き止まりで動き回る、10個の光点を見かけた、たぶん覇王花達だ。向こうも時間的に泉に戻る途中で、行き止まりの方へと進んだのだろう。
ここで顔を合わせたくもないので、皆には何も言わずに正道へと誘導しもう少しだけ奥へと行くことにした。
「この先に小部屋ですね、たぶん3匹程が居ます……この音は聞いた覚えが無いなぁ、ファイターよりも重量感のある足音が聞こえます」
「ホブゴブリン?」
「かもしれないわね、ホブゴブリンはゴブリンファイターよりも少し大きいけど、強さは少しではすまないわ、マリンダ頼むわよ」
「任せておきな! しっかり押さえつけてあげるよ!」
小部屋へ近づくと、入り口からもその姿がしっかりと確認できた。ゴブリンファイターはノーマルと同じ緑色の肌をしていたが、見えている奴は赤茶色の肌をしており、背は頭一つ分ほどファイターより高く、そして手に持つのは棍棒ではなく大きな両刃の剣だ。
「生体武具持ちね、シュバルツは左を引き付けて、マリンダ中央、ミーチェ、ルゥは右よ! ラリィは付与魔法を!」
フラウさんの指示にメンバーが動き出す。俺も左のホブゴブリンにクロスヘアを合わせ、ヘッド狙いでトリガーを引いた。しかし、ホブゴブリンは発射された3発の内2発を顔を傾けて回避した、回避しきれなかった一発は右目に入り、奴の片目を潰したようだ。
目を潰され怒りに我を見失ったのか、ホブゴブリンが咆哮を上げてこちらを目掛けて駆け出した。俺はすぐに隊列から離れ距離をとると、再びダウンサイトしクロスヘアをホブゴブリンに重ねていく、狙いは胴体だ。
胴撃ち2連射が全てホブゴブリンの胸板へと吸い込まれていく、ホブゴブリンは被弾するたびに上半身を仰け反らせ、たたらを踏みながら仰向けに斃れた。
ヘッドゴーグルの光点が消え、息遣いも聞こえてこない、斃したことを確信しすぐに他のメンバーが対峙しているホブゴブリンへとクロスヘアを滑らせる。しかし、こちらもすぐに終った。マリンダさんはホブゴブリンの上半身を、腰のラインで二つに両断し、最後に残ったホブゴブリンも、ルゥさんに両手を斬り落とされたところで、フラウさんとラリィさんの火球が当たり火達磨となっている。
P90のマガジンを交換しつつ、ノーマルとかに比べると5.7x28mm弾の効きが弱いが、まだまだいけるなと思いつつも、背中に回してあるSCAR-Hの出番も近いかなと、そんな事を思いながら皆の元へ歩いていった。
使用兵装:FN P90
ベルギーのFN社製のサブマシンガン、特徴は人間工学に基づいた扱いやすいデザインと専用弾薬の5.7x28mm弾により、通常の拳銃弾と比べると剛体に対しては高い貫通力を誇り、人体などの軟体に対しては着弾した内部で弾頭が乱回転し、貫通せずに体内を大きく破壊する。