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「地下一階に清浄の泉だと?! 本当かそれは?」
キャンプの緑鬼の迷宮探索本部に戻った俺達を迎えたのは、書類仕事をしていたキースさんだった。バロルドさんは食堂用のテントで夕食をとっているらしい、俺たちが戻ってきた事はすでに知らせが行っているので、じきにここへ来るだろう。
「間違いないわ、迷宮へ侵入して時間にして5時間ほど進んだ場所よ」
「5時間? それだけ進めば他の迷宮なら2層は踏破できるな……」
「そういうことにゃ、緑鬼の迷宮は1層のみで構成された大迷宮だと思うにゃ」
「シュバルツ君、至急清浄の泉までの地図を描いてもらえるかな、それを元に迷宮の討伐計画を立てる。ミーチェ、フラウはフルパーティーを作ってくれ、シュバルツ君を加えて6人だ」
「地図作成はすぐにおこないますが、フルパーティーに組み込まれると言うことは、俺も討伐に参加すると言うことですか?」
「そうだ、通常の迷宮なら清浄の泉の先は魔獣や亜人種の格が上がる。君には門番までの道を調べてもらわなければならないが、それは道中の危険が増し、更には門番と対峙する事を意味する……怖いか?」
「いえ、問題はありません」
そう、何も問題は無い。俺がこの異世界に落ちた理由……あの牙狼の迷宮の泉で座り込み、漠然と欲した生きる意味、目標、目的、それが迷宮の討伐だ。良いじゃないか、これはいい機会なのかもしれない。俺の力が、このVMBのシステムと力が迷宮の魔獣や亜人種にどこまで通用するか、ここでしっかりと確認しておけば、後々単独で門番や迷宮の主と相対する時に、きっと助けになる。
「キース、私達は明日バルガまで行って来ます。山茶花のメンバーを連れて明後日には戻ります」
「わかった。あぁフラウ、ついでに総合ギルドに連絡を頼む、夕食が終るまでには報告書を作っておく、後で取りに来てくれ」
「わかったわ。ミーチェ、私達は夕食をいただきに行きましょう。シュバルツ、明日は探索を休んで明後日に再合流しましょう」
「わかりました、では俺も地図を作成してきますので失礼します」
探索本部を出た俺は、地図作成用に用意してもらったテントへ移動し、今日新たにマッピングした部分を新しい地図用紙に描き込み、さらに入り口から清浄の泉までを収めた縮小版も作成した。作業を終え、テントから出た時にはすっかり日は落ち、周囲には篝火の明かりがいくつも灯っていた。
探索本部に行くと、キースさんとバロルドさんが地図の完成を待っていた。二人に地図を渡し、俺は空腹を満たす為に食堂用のテントへと向かった。
◆◆◇◆◆◇◆◆
次の日の朝、フラウさんとミーチェさんは馬に乗りバルガへと向かった。俺は何をしていたかと言えば、地図作成のテントへ来ていた。地図を描く為ではない、明日の迷宮攻略に向け、装備の点検や構成を考える為に人目を遮れる場所がここしかなかったのだ。
主兵装、サブ兵装は現状のままを基本としても、もしも5.7x28mm弾が通用しない敵が出てきた場合に備えて、もう少し威力重視の銃器も選んでおく必要があった。
VMBの銃器は、それ自体には威力設定が無い、あるのは発砲時の銃弾の初速やRPM(Rounds Per Minute)と言う、1分間に何発発射できるかという数値などが、実銃に近い数値で設定されており、いわゆる攻撃力的なものは銃器が使用する弾薬のサイズによって設定されている。
その攻撃力は、弾丸径や薬莢長が大きくなるほど高くなる傾向がある。これが実弾ならば更に弾丸の種類が複数あり、フルメタルジャケット弾やホローポイント弾など、幾つかの特徴ある弾丸の種類で溢れているのだが、VMBはそこまで設定されていない。
例えば、今使用しているP90やFive-seveNの5.7x28mm弾には、貫通力上昇といった細かい弾丸の設定がされているが、他の弾丸は殆どがフルメタルジャケット弾と設定されている。この辺はゲームゆえに、攻撃力を左右させる要素を簡略化させたともいえるが、ならば何故5.7x28mm弾には個別の設定がされているかといえば、この弾丸がP90やFive-seveN専用の弾丸であり、存在理由だからだ。
俺が求めるのは5.7x28mm弾より強い弾丸となる。AK-47の7.62x39mm弾かその上の7.62x51mm NATO弾を使用する銃器が妥当だとは思うが……。
TSSのインベントリから、銃器類を集めてあるタブを開き、銃器を選んでいく。 VMBをプレイした3年以上の月日の中で収集した銃器たち、またSHOPを利用すれば新規に購入することも出来る、幾つかの選択肢の中で、俺が好んで使っていた一丁のアサルトライフルを召喚した。
召喚された補給BOXから取り出したのは、これまで使っていたP90、Five-seveNと同じFN社が開発したARFの『FN SCAR-H ブラックモデル』だ。このARFはアメリカ特殊作戦軍向けに開発されたもので、末尾のHはHeavyを表し弾丸は7.62x51mm NATO弾を使用する。
マガジンの装弾数は20発と少ないものの、7.62x51mm NATO弾は非常に攻撃力が高く、5.7x28mm弾が通用しなければこちらを使うことに決めた。
このHに相対するL型もあるのだが、こちらは使用する弾丸が5.56x45mm NATO弾なので今回は見送った。そしてこのSCAR-Hは、VMBのゲーム内でしか獲得できないブラックカラーモデルでお気に入りの銃器の一つだった。
もしもSCAR-Hでも通用しない場合は……金食い虫のレーザーライフル系かRPGとかを持ち出すしかない。
VMBの戦場は、過去の大戦だけが舞台ではない。近未来が舞台の戦場やPvEではエイリアン的なモンスターとの撃ち合いもあった。
その為、各種装備品には、現実には存在しない科学兵器のレーザーライフルなども使用できた。
しかし、根本的にFPSプレイヤーと言うのは実銃を愛する傾向がある。俺もその一人で、近未来銃よりも実銃を使うことが多かったし、レーザーライフルのマガジンであるエネルギーパックは、高威力故にCPの消費が非常に激しく、毎回の戦闘に使用できるものではなかった。
RPG-7を筆頭にロケットランチャーなどの対戦車ロケットも同様にCP消費が激しく、持ち歩くのも不便すぎるので安易には使えそうもない。しかしこの辺も何れは実際に使って見なければならないと思うが、今はその時ではないだろう。
補給BOXから同時に選択したSCAR-H用のマガジンを取り出し、マガジンベルトへ挿していく。空になった補給BOXにはP90を入れ、蓋を閉めれば補給BOXは光の粒子となって消えていった。
準備は完了だ、俺は地図作成用のテントから出てキャンプの外へと向かった。 SCAR-Hはリコイルという、発砲した時の反動が強い銃器だ。迷宮でいきなり使ったら、P90とのリコイルの差に戸惑うことになるだろう、リコイルコントロールをする為に練習をする必要がある。
◆◆◇◆◆◇◆◆
キャンプから離れ、緑鬼の迷宮がある方向とは別の方向へと向かって歩くこと15分ほど、程よく視界の開けた起伏のある野原が見えてきた。 間違ってもキャンプに出入りしている冒険者やギルド職員に誤射するわけにはいかないので、盛り上がった丘の斜面に向けて発砲できるポイントを探した。
何か的になるものを持って来れば良かったなと思いつつも、いい感じの斜面を見つけ、そこへ拾った石でゴブリンの背丈ほどの人型を描き、さらにはゴブリンファイターやメイジの形を枠取りし簡易的な的とした。
「さて、異世界でのSCAR-Hはどんな感じかな?」
まずは膝立ちで安全装置をセミオート、トリガーを引くと一発だけ発砲される位置へ廻す。ダウンサイトしヘッドゴーグルに表示されるクロスヘアと、SCAR-Hのアイアンサイトを合わせていく。狙っている場所が斜面なので望遠機能は作動しないが、構わず枠取りしたゴブリンの頭へとあわせてトリガーを引いた。
VMBのゲーム内で聞いたサウンドと変わらない発砲音と、同時に排出される空薬莢を弾く甲高い金属音。VMBで散々聞いた音に気分が高揚し、的と化した斜面へ向けてトリガーを連続で引いていく。
やはりリコイルは大きい、しかしこれがコントロールできなければSCAR-Hを使う資格は無い。マガジンを換装し今度はフルオートで発砲していく、周囲に銃撃の砲音が鳴り響く。フルオートでも撃ちきったところで斜面に近づき、弾のバラけ具合や命中率を確認していく――――悪くない。マガジンの装弾数20発というのは、集団戦になった時に心許ないが、迷宮へはP90とSCAR-Hの両方を持っていくつもりでいる。
VMBのゲーム内であればメイン兵装は1種類しかもてなかったが、異世界という現実ではその制約は無いらしく、2丁同時に携帯できるのは確認できている。
マガジンを更に多く携帯しなければいけなかったり、高機動ムーブを取った時に握っていない方の銃器が暴れるかもしれないが、そこは我慢するか肩に掛ける帯、スリングを短くするなどして対応することになるだろう。
そうして2時間ほどかけて、アタッチメントを変えたり、発砲時の体勢を変えたりしながら射撃練習し、キャンプへと戻った。