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緑鬼の迷宮探索2日目、俺とミーチェさんフラウさんの3人は、朝食を摂るとすぐに迷宮へと出発した。昨日マッピングした部分を落とし込んだ地図を片手に、地下一階を突き進む。
キャンプを出発する際に、バロルドさんとキースさんから地図の精度確認の為、俺達より少し遅れて調査隊が迷宮に入る連絡を受けた。昨日の夕食時に話していた検証班だな。
聞こえてきた話によれば、俺が地図作成を始める前に作成されていた部分も、改めて俺が作ることになりそうだが、今は兎に角先へ進む。この緑鬼の迷宮地下一階は、侵入してすぐに大きな二股に分かれている。
俺達が昨日進んだルートは、既に地図が作成されていたルートとは逆の道に進んでおり、この道の行く先が地下二階なのか、それとも既に作成されたルートの先がそうなのか、もしくは進む先で合流しているのか、その見極めを少しでも早くおこないたかった。
「まずは昨日到達した大部屋まで寄り道無しで行きましょう、少し駆け足で進みますが大丈夫ですか?」
「もちろんにゃ」
「ええ、迷宮の広さが判らない以上、少しでも早く未踏破域まで行くべきだわ」
護衛として一緒に探索しているミーチェさんとフラウさんが、俺の意見に賛同する。俺はP90を正面へ構え、そのまま銃口を下げた体勢のまま移動速度を上げていく。走る速度よりは遅く、歩くよりは速い、そんなスピードで疲れる事がない俺の体は、一定のリズムを刻みながら移動していく。
後ろの二人もさすがはBランク冒険者、息を切らすことなく平然とついてくる。 魔術師であるフラウさんも全く苦にしていないようで、実は体術も出来るのではないかと疑問に思ってしまう。
「ストップ」
後ろの二人を手を向け急停止する。前方から聞こえる足音が5つ、この軽さはノーマルのゴブリン、それと何かを突く音……杖か?
「前方に5つ、ノーマルタイプと、もしかしたらメイジがいるかも知れません」
「確かに臭うにゃ、ゴブリンにゃ」
「ゴブリンメイジがいるならソレを最優先で、私は魔法障壁を張るわ」
この異世界での魔法攻撃は、非常に高い攻撃力を持っている。しかし、魔術師対魔術師で戦闘になった場合、先に魔法を放って当てた方が有利になるほど話が簡単なわけではない。
魔法攻撃を放てる魔術師は同様に、魔法防御の為の魔力による障壁を展開することが出来る。フラウさんの話によれば魔法障壁は不可視であり、展開される障壁の大きさは魔術師の技量によって変わり、最低でも自分自身を覆うことが出来る。
技量の高い魔術師による魔法障壁は、パーティ全員を覆うのは勿論、迷宮の小部屋程度は覆い尽くすほどに広い障壁も展開できるそうだ。
そしてこの魔法障壁は”魔力によって発現した攻撃全てを弾く”性能を持つ、障壁を打ち破るには、障壁に込められた魔力を上回る魔法攻撃を放つか、接近しての物理攻撃を魔術師本人に当てるしかない。
物理的な遠隔攻撃、弓矢などの攻撃も有効ではあるが、少しでも実戦経験のある魔術師は、対弓矢用の防御魔法を忘れたりはしない。
「先制攻撃します、援護するのでミーチェさんはメイジの首を」
「わかったにゃ」
俺は膝立ちでP90をダウンサイトし、正面にゴブリン達が現れるのを待ち構える。タクティカルライトの光は消し、前方に白光草の種をばら撒く。種はすぐに発芽し僅かな光を発し始めた。ヘッドゴーグルはNVモードなので、この僅かな光源で明快な視界を俺に与えてくれる。
やがて、前方の暗い地下通路から醜悪な顔が見えてくる、1匹、2匹、3、4匹、5匹! こいつがメイジだ。
「最奥、メイジ1」
俺の右斜め後ろにいるミーチェさんにそれだけ伝え、メイジ以外のゴブリンに発砲を開始する。狙いはミーチェさんの走る先にいる右端からだ。
俺の発砲で右端のゴブリンの顔に穴が開くと、同時にミーチェさんが駆け出す。 仲間が突然斃れたのを見たゴブリンどもは、こちらが見えていないようで何か奇声を上げて喚いている、あいつら夜目はないのか?
しかし、ゴブリンメイジだけはこちらを凝視し、杖を少し持ち上げ何か喚いた。 NVモードのヘッドゴーグル越しにも、ゴブリンメイジの周囲の空気が一瞬歪んだのが見えた、魔法障壁を展開したのだろう。
それを見つつも、俺はクロスヘアを滑らせ残りのゴブリンを潰していく、喚きながら何やらバタバタと体を動かしていて頭が狙いにくい、胴撃ちに狙いを切り替え、指切りで前3匹の動きを止める。
前衛のゴブリンが撃ち斃される後ろで、ゴブリンメイジが何かを詠唱しているのが見えた。手に持つ長杖の前に火球が生み出され、こちらへ放たれようとしているが、魔法が完成する寸前、ゴブリンメイジの首が不自然に横に転がり落ち、火球はその場で四散した。
ミーチェさんがゴブリンメイジの後ろに回りこみ、文字通り首を落としたのだ。
「終ったにゃ」
ミーチェさんがゴブリンの魔石を拾い上げながら戻ってきた。ちなみにこの探索で獲た魔石は、俺たち三人で等分している。正確に分けているわけではないが、キャンプでは換金できないので石の状態で分け合っている。
「では先に進みましょう」
本当はゴブリンメイジの魔法障壁では、俺のP90の銃弾を弾くことが出来ないのはわかっている。一番最初にアシュリーさんを助けた時点で、MP5A4の9×19mmパラベラム弾が魔法障壁を突き破っていたはずだからだ。
9x19mmパラベラム弾がゴブリンメイジの魔法障壁を上回ったのか、それとも魔力の通っていない物理的な遠距離攻撃として、障壁を抜けたのかは正確にはわからないが、フラウさん達には俺がスキルで飛ばしているのは、魔力の塊と言うことになっているので、障壁を貫通できるなどと安易に言わないようにしている。
この後も3人で役割分担しつつ地下通路を走り抜け、昨日到達した大部屋まで戻ってきた。ここで今日も小休憩をし、ここからが今日の探索の開始となる。
大部屋で小休憩を取った後、俺達は地下一階の未踏破域へと進んでいった。光源の一切ない緑鬼の迷宮の地下通路に、白光草の種を蒔きながら進んでいく。ヘッドゴーグルに映るマッピングされていくマップを見ていると、この迷宮は入り口からずっと同じ様な入り組んだ迷路のような構造をしている。
休憩している時にミーチェさんとフラウさんに聞いてみたが、他の地域にある迷宮で地下一階からここまで広いものは、何百年も昔からある数個の迷宮ぐらいらしい。
しかし、この緑鬼の迷宮は昔からあるわけではなく、近隣の魔獣・亜人種の発生数を見ても、ごく最近生まれた迷宮であるのは間違いない、ならば何故ここまで地下一階が広いのか?
地下通路を進み、遭遇するゴブリンやその上位種ゴブリン達を斃しながら、更に奥へ奥へと進む。そして、それが俺のマップに映った……。
「どうしたにゃ? ゴブリン来たにゃ?」
先頭を歩く俺が足を止めたので、ミーチェさんとフラウさんが攻撃態勢を取った。しかし、俺は棒立ちのままだ、敵の動きを察知したわけではない、あるとは思っていなかったものが見えたことに驚き、足を止めてしまったのだ。
「シュバルツ、敵ではないの?」
「いえ、いや……え? たぶんですけど……この先に清浄の泉があります」
そう、俺のマップに映ったのは、牙狼の迷宮で見た清浄の泉と同じサイズの、通常の小部屋よりも小さい四角い空間だった。しかし、ここは緑鬼の迷宮の地下一階だ、清浄の泉は存在する階層が決まっているわけではないが、総合ギルドの資料館で調べた限りでは、少なくとも地下一階にある迷宮は無かった。
「泉があるにゃ? 地下一階ににゃ?」
「めずらしい……いいえ、地下一階に泉があるのは聞いた事がないわ」
二人も驚いている、やはり通常なら有りえない事なのか?
「とりあえず、本当にあるか先へ進みましょう、少し進んで右に曲がってその先です」
俺達は少し駆け足に地下通路を進み、右へ曲がった時点で予想通りだとすぐに判った。明るいのだ、その部屋は俺のタクティカルライト、フラウさんの光玉、そして白光草の光しかなかった闇だけの緑鬼の迷宮の中にあって、眩いばかりの光を放ち、部屋全体を明るく照らしている、間違いなく清浄の泉だ。
「本当に泉ね……」
「これは不味いにゃ」
「不味い? 地下一階に清浄の泉があることがですか?」
「殆どの迷宮で言えることだけど、泉がある階層の二つ下は門番がいるわ。でも、もしそこが最後の泉なら一つ下に門番、そしてその下にいるのは迷宮の主よ」
「つまり、地下一階で泉があると言うことは地下二階に門番、地下三階に迷宮の主がいると?」
「違うにゃ、この迷宮は他の迷宮に比べて広すぎるにゃ、ここまで来る間に他の迷宮の二層分以上は歩いたにゃ、このまま歩けば更に二層分歩かされる可能性が高いにゃ、つまりにゃ、門番と迷宮の主はこの先にいる可能性が高いにゃ」
「キャンプへ戻るべきだわ、バロルドとキースに泉の発見を報告するべきね」
「賛成にゃ」
「……わかりました、キャンプへ戻りましょう」
俺達は急ぎキャンプへと向かった。 この緑鬼の迷宮が他の迷宮に比べて生まれたてにも拘らず広い理由、それは複数の階層で構成される迷宮ではなく、一階層に全てを詰め込んだ迷宮である可能性を伝える為に。