32
4/3 誤字・空白・描写等修正
キャンプに帰還した俺達は探索本部のテントへと入り、そこで待っていたバロルドさんとキースさんに帰還の報告をした。
「お疲れ様です、緑鬼の迷宮と地図作成はどうでしたか?」
そう言うバロルドさんの問いに返答したのは俺ではなく。
「シュバルツは有能な探索者だったにゃ、でも今日は探索に行っただけにゃ、地図作成っぽいことはなにもしてなかったにゃ」
「え? シュバルツ君、今日はまだ何も?」
「いえ、ちゃんとやってますよ。どのように作成するかは答えられませんが、これから地図用紙に今日の探索範囲を落とし込みます。ご用意していただけるという場所は準備できてるでしょうか?」
ミーチェさんが俺が答える前に余計なことを言ってくれたので、バロルドさんが少し困惑した表情をしたが、俺は苦笑交じりにそれを否定した。地図作成方法は迷宮内でもミーチェさんやフラウさんに何も話してはいない。一緒に行動していた二人から見れば、ただ探索していたように見えただろう。
「準備は出来ている、私が案内しよう。バロルド、細かい報告は地図が描けてからにしよう」
最初にこのキャンプへ入った時に聞いていた、地図作成の為のテントにはキースさんが案内してくれるようだ。ミーチェさんは横に立つフラウさんに「測量してたにゃ?」と小声で確認しているが、俺の地図作成は測量なんてしないのでもちろんしていない、フラウさんも「していなかったけど、問題ないらしいわ」と小声で返している。
「シュバルツ君、どのくらいで描けそうですか?」
「1時間もあれば、まずは簡単に描いてきますよ」
「では、1時間後にまたここへ、夕食も今日はここへ運ばせます」
「わかりました、ではキースさんお願いします」
俺はバロルドさんとミーチェさん、フラウさんの三人に軽く頭を下げ、キースさんに誘導してもらい地図作成用のテントへと向かった。
「ミーチェ、フラウ、ご苦労様でした。彼はどうでしたか?」
「迷宮探索は問題ないわ。と言うよりも、彼が有能すぎて私達は少し暇だったわ。 地図作成に関してはこの後の出来上がりを見てからね」
「シュバルツはスキルとか隠したがってるけど無駄にゃ、すぐに噂が広まって争奪戦が始まるにゃ」
「争奪戦? 彼はまだ何も実績のないランクDですよ?」
「獣人族に匹敵する索敵能力、それに夜目も獣人族並かそれ以上、弓よりも速くて正確で力強い遠距離攻撃、そして地図も描ける。固定PTはもちろんだけど、勧誘するクランは少なくないでしょうね」
「シュバルツが女の子なら山茶花に間違いなく勧誘したにゃ」
「なるほど……」
◆◆◇◆◆◇◆◆
俺に対する評価が話し合われてるとは露知らず、キースさんに案内されたテントの中で、地図作成という名のトレース作業をしていた。用意されたテントは4畳半部屋くらいの広さがある四角い箱型テントで、作業机のほかに魔力で光玉が出せない俺の為に、キャンドルランタンがいくつか用意されていた。こんなに広いテントで作業できるとは思わなかったが、作業机や道具類、地図を貼り付けるボードなどがあり意外と空き空間は狭い。
「緑鬼の迷宮は、こうみるとアトラクションの巨大迷路みたいな感じだな……」
緑鬼の迷宮は広く、そして曲がり角が異様に多い。曲がった先も行き止まりが多く、正確な地図もなく歩き回っても行き止まりに迷い込むだけだろう、地下一階すら満足に探索できていなかったのにも頷ける。
しかし、俺の場合はそうはならなかった。オートマッピングにより半径150m先は自動的に表示される、曲がった先が行き止まりかどうかは行くまでもなくわかるのだ。間違った道を避け、正解のルートのみを突き進めば、地下二階への階段まで大きな間違いをすることはないだろう。
実際に今日の探索では、曲がった先が行き止まりになっているルートは全て避けてきた。短い時間の中で少しでも探索範囲を広げる、それが俺に求められていることだと理解しているからだ。
作業は丁度1時間で終了した。出来上がった今日の探索範囲の地図を持ち、探索本部へと向かった。
「本日の探索分、出来上がりました」
探索本部の中にはバロルドさん、キースさん、ミーチェさん、フラウさんの4人が待っていた。さっそく俺から地図を受け取ると、4人で覗き込んで唸り声を上げた。
「なるほど、レミさんがわざわざ協力要請なんて形で依頼するわけです、これほど整然と描かれた地図は初めて見ました。シュバルツ君、明日以降も頼みますよ。そちらの机に夕食を運んで置いてもらったので、冷めてしまわない内に食べてください」
「ありがとうございます」
俺はバロルドさん達が座っていた机から離れた所に用意された、夕食の並ぶ机へと移動した。今夜の夕食はパンとスープのようだ。シチューっぽくも見えたが、汁が白いだけで中身は豚汁を思い出させるほどの大きな野菜と、何かの肉が入っていた。
俺が食事を始めても、4人は地図を囲んで何やら小声で話し合いをしている、距離的には普通なら聞き取れない距離だが、俺のイヤーパッドは話の内容を全て正確に拾っていた。
「バロルド、この地図の出来栄えは問題が出るな、今まで他の地図屋に描かせた地図では不満が出るぞ」
「キース、私もそう思う。今は迷宮に誘われる魔獣掃除をしてくれているが、この出来栄えと同様の地図を彼らに要求するのは無理だ、全てをシュバルツ君に描いてもらう必要がある」
「この道、私達行ってないわ」
「ここも行ってないにゃ」
「どういうことかね? 行ってない道が描かれてると?」
「そうね、探索はシュバルツが先導しておこなったけど、この交差点は彼がこちらへと進むのを決定したの、でも地図だと誘導した道以外の道は全て行き止まりになっているわ」
「地図には行き止まりが一杯あるにゃ、でも探索中一度も行き止まりで引き返してないにゃ」
「つまり彼は進まなくても道の先がわかっている、そういう事か?」
「いや、運が良かっただけで、行き止まりの部分は想像で描かれた可能性もある。 これは地図の正確性の検証が必要だな」
「わかった。明日までにこの地図を複製し、シュバルツ君達の探索班とは別に、地図の検証班を迷宮に向かわせよう」
「検証班は他の地図屋と護衛がいいだろう、この地図の出来栄えと実際の精度を自分で確認させれば、地図が描き直しになっても不満は言うまい」
あれ……ちょっと雲行きが怪しくないか? 道の先が行き止まりなのはマップを見ればすぐにわかったので避けてきたが、一度も行き止まりまで進まなかったのは不味かったかも知れない。
明日の探索でわざと行き止まりに誘導するか? いや……それは止めておこう、地図作成に関するスキルは話せないと何度も言ってる、曖昧な動きで地図作成スキルに余計な不安を持たせてもいい事は無い、話はしないがどうやら先が判るようだ、そういうスキルの様だ、と完結させてしまった方がいいだろう。
「ごちそうさまでした、食器はどうすればいいですか?」
「あぁ、そこへ置いておいてくれ」
「わかりました、それでは明日もよろしくお願いしますね、朝から探索へ向かいましょう。俺はこれで休ませてもらいます」
「寝所の天幕はわかるな? 開いてるベットならばどこでも大丈夫だから、ゆっくり休んでくれ」
地図を眺めている4人の内、キースさんが答えてくれたので、そのまま彼に軽く頭を下げ探索本部のテントを後にした。
寝所のテントへ向かいながら、俺は自分の能力、このVMBのシステムと力を改めて考えていた。俺の地図作成方法はこの異世界の住人から見ればチートなのかもしれない、チートか……FPSプレイヤーとしてはその響きは忌避し、憎悪するものだ。ゲームのバランスを意図的に崩壊させ、そのタイトルを終焉に向かわせることも珍しくないチートというプログラム改竄。俺という存在はこの異世界にとっては異物であり、バグというよりもチート、バグを不正利用するデュープではなく、意図的に外部ツールで世界を改竄するチーター……吐き気がする。