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4/2 誤字修正等



「な、何にゃーって言われても……こ、これが俺のスキルですよ」



 緑鬼の迷宮での、初エンカウントで見せた俺のP90での射撃は、俺の護衛として一緒に探索に来ている獣人族のミーチェさんには、刺激が強すぎたようだ。色々と俺に聞きたいことがある中で、依頼内容の中にある俺についての口外禁止、見た事のない防具や武器に、『魔抜け』の筈なのに魔法で生み出した光玉と同じ光を放つ道具、好奇心旺盛な猫系の性格は、Bランク冒険者としての自制や自覚を上回ったようだ。



「シュバルツ、私も知りたいわ。さっきは余計な詮索は無しとミーチェを窘めたけど、あなたのスキルを見た以上はそうも行かないわ。好奇心や知的欲求で聞いているわけではないの、あなたの護衛をしつつ、迷宮を探索する上であなたの能力を正確に把握しておきたいの。それに、それは普通のスキルではないわ。あなたは《スキル》と《技能》がどういうものか説明できて?」



 自制しきれていない冒険者がこちらにもいたか……いや、むしろ冒険者故に依頼をしっかりと果たそうとしているのか……一緒に探索している護衛のもう一人、エルフのフラウさんがゴブリンの沈み行く死体に顔を向けたまま、流し目でこちらに問いかけてきた。



「いえ、正確にはわかりませんが、《スキル》が能動的な特技で、《技能》が受動的な特技と言ったところでしょうか」


「そうね、概ね間違ってはいないわ。《スキル》は持ち主の意思で発動させるもの、《技能》は意思に関係なく常に持ち主に作用しているものよ。ここまであなたが見せたそのスキルは、私達が普段認識しているスキルよりも上位的なものだわ」


「つまりどういうことにゃ?」


「血統スキル、もしくは根本的に違うものよ」



 これは参った。血統スキルと言えばそれで納得してくれるかと思ったが、根本的に違うものである可能性も言及された。血統スキルだと言えばいい感じに誤魔化せるかと考えていたが、この言い訳も長くは持たないかも知れないなぁ。



「……血統スキル、『Arms』です。《スキル》と《技能》両方の力を持つスキルです。口外しないでくださいよ」


「あら、意外とあっさり言うのね。もちろん口外はしないわ。ミーチェ、あなたもよ」


「勿論にゃ、総合ギルドに睨まれたら冒険者としては死んだも同然にゃ」


「もう少し正確に教えてもらえるかしら、とくにゴブリンを倒した魔法攻撃のようなものについて、それと索敵能力も」



 どう説明しようか一瞬悩んだが、俺はこういう場面はいつか来るとずっと考えていた。だから毎晩のように、寝る時には血統スキル「Arms」の設定を考えていた。

 武装召喚に魔力の結晶のような物を飛ばす力、周囲の動きを感じる力、身体的能力の向上など、俺のVMBのシステム、その力をファンタジーな世界の言い回しに変換し、真実を隠す。 


 俺の説明を聞き、フラウさんとミーチェさんは一応の納得をしてくれた。そして、迷宮探索を継続していく上での役割分担や戦闘時の対応を話し合い、探索を再開した。






 そこからの探索は順調そのものだった。余計なお喋りは消え、俺が斥候役と先制攻撃を行い、多方向から敵が接近してくる場合は、一方をミーチェさんとフラウさんに受け持ってもらった。

 ミーチェさんは小盾と短剣装備でのすばやい攻撃が売りの軽戦士で、フラウさんは水と風の属性魔法を得意とする魔術師だ。


 俺は本格的な魔術師の戦闘を初めて目の当たりにした。


 魔術師の魔法攻撃には、必ず魔言による詠唱が必要となるが、熟練の魔術師になると得意属性の魔法は魔法名に直接魔力を送り込み、それを唱えるだけで具現化させることが出来るようだ。

 しっかりと詠唱した方が大きさや威力、挙動などを細かく指定できるそうだが、魔法名に魔力をこめて発現させる場合は、個人で作り上げた一つのイメージによる魔法が発現するらしい。どちらも一長一短だとは思うが、魔法の自由度の高さは想像以上だった。 


 



「この先に大部屋があるようです、複数の敵の蠢く気配がします」



 本当は大部屋の中に12匹の亜人種と思われる敵の声と、動く音が聞こえているのだが、正確に判る事をあえて隠しながら後ろの二人に伝える。



「どうするにゃ?」


「私が広範囲魔法を撃ち込むわ。その後はシュバルツ、ミーチェお願いね」


「わかりました、フラウさんの魔法の後、大部屋の入り口から俺が攻撃を仕掛け、最後にミーチェさんお願いします」


「わかったにゃ」



 緑鬼の迷宮の大部屋は、部屋全体が広いというよりも通路幅が拡張されたような長方形な部屋だった。その長方形の出口に、12匹のゴブリンが陣取っている。中央付近にいる3匹は通常のゴブリンよりも体が大きく、ミーチェさんが「あれはゴブリンファイターにゃ」と教えてくれた。


 ゴブリンファイターだと思われる大きな体躯のゴブリンが吼え、周囲の9匹がこちらへと駆け出そうとした時、フラウさんの魔法攻撃が唱えられた。



「~~~~、~~~、~~~~、暴風乱舞サイクロン



 フラウさんの詠唱によって、俺たちとゴブリン達の間に大きな竜巻が発生し、それがゴブリンの集団に向かって進みだした。竜巻に飲まれたゴブリン達は吹き飛ばされ、暴風に切り刻まれ、無色な暴風の竜巻はゴブリンの血を巻き上げ乱舞し、赤い竜巻となって大部屋に吹き荒れた。


 俺は大部屋の入り口付近から膝立ちになり、竜巻が収まったところで軽傷で済んだゴブリンや、後方に留まっていたゴブリンファイターに向けて発砲していく。

 棍棒を持つ手を吹き飛ばし、暴風に耐えるために、顔付近で腕をクロスしていたゴブリンファイターには、腹や膝を狙ってダメージを与えていく。当然無防備な顔には穴を開ける。


 俺の発砲が始まるのを確認するとミーチェさんが駆け出し、暴風乱舞サイクロンと銃撃によって動けなくなったゴブリン達の首を狩っていく。


 終ってみれば大部屋の多数のゴブリンは、何も出来ずに死体を晒すだけとなった。





「この大部屋で30分ほど休憩しましょう、済んだらキャンプへ戻ります」


「そうね、そろそろ戻る時間になるけど、地図の作成はしなくてもいいの?」


「詳細は話せませんが、問題ありません。地図の作成も順調ですよ」



 ほんの数時間の探索ではあったが、緑鬼の迷宮の入り組んだ内部構造をだいぶマッピングする事ができた。 


 全体像はまだまだ見えてこないが、この調子で行けば数日以内に地下二階へ下りる階段も見えるだろう。問題無いという返答に、フラウさんは訝しむ視線を送ってきていたが。



「お腹空いたにゃー」



 ミーチェさんが道具袋と思われる布袋から……焼き魚を挟んだロールパンのようなものを取り出して頬張っている……フィッシュフライロールみたいなものか……俺も腰に吊るしている荷物袋から干し肉を取り出ししゃぶっている。 

 もうちょっとマシな食事をしたいが、俺は料理は出来ない。冒険者として致命的かもしれないが、今は我慢だな。


 フラウさんも道具袋から水筒を取り出してコップに注いでいる……湯気が出ている……。



「道具袋って、中の時間は止まっているんですか?」



「完全には停止しないわね、でも朝入れた紅茶が夜までは熱いまま飲めるくらい緩やかに進むわ」



「そうなんですか、俺は道具袋が使えないのでその手軽さは羨ましいです」



 ギフトBOXというアイテムボックス代わりの物は手に入れたが、やはり道具袋の手軽さには敵わないからな、それにギフトBOXまでポンポン召喚して使っていたら何を言われるかわかったものではない。



「ならパーティーを組めばいいにゃ、シュバルツならだれとでもやっていけるにゃ」



「『魔抜け』では難しいですよ、俺のスキルについて一から十まで全て話して考えてもらうってのも無理があります。それに、ソロで活動することの方が色々と都合がいいんですよ」



 パーティやチームを組んで探索を行う方が効率はいいだろう。しかし俺はVMBのシステムを利用する為に、多くの無属性魔石を消費している。VMBの力自体は元より、報酬の分配や戦闘方法で、共に行動する人とぶつかるのが目に見えている。

 それに俺の体、この疲れを知らぬ自己再生ともいうべき回復力を持った体を、あまり人に知られたくはない。人として認められないかもしれないという恐怖、実験動物のように扱われるのではないかという恐怖、知られて良い方に転がるなどとは到底考えられなかった。



「そろそろ戻りましょう、帰りは真っ直ぐ地上を目指します」



 そんな恐怖心を悟られまいと、俺はすぐに先頭を歩き前へと進んだ。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 目立ちたくない系主人公は数多いですが、その理由がこれだけ納得いく主人公は初めてです。能力の体系が他と違いすぎる。
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