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3/17 いくつかの描写を変更・加筆(展開自体は全く変わっていません)
迷宮竜は自分の真横に収束した無数の光の粒子に何を思っただろうか?
それが形作る超大型建設機械Bagger293を見たとき、自分に訪れる結末の姿を想像できていただろうか?
俺は最初からこの瞬間を描いて準備してきた。
Bagger293は坑道の迷宮の迷宮の主だったラムトンワームを討伐するときにも使用した移動用車両――というにはあまりにも巨大すぎる建設機械だ。
全長二二五メートルという巨体は戦艦長門とほぼ同一、しかし全高一〇〇メートルという大きさは戦艦長門の倍にもなる。
CPの枯渇に見舞われ、ガレージにある大半の支援兵器たちを売却したのだが、俺はこの超大型建設機械を売却せずに保管し続けた。
タイミングがどうであれ、島ひとつが迷宮化した迷宮竜の巨躯と張り合えるのは、このBagger293以外にありえないからだ。
戦艦長門による突撃によって迷宮竜の胸部は大きく破壊され、長い竜首にも大きなダメージを負わせていた。
それを真横に召喚したBagger293がさらに広げて追い討ちをかける――回転する直径二〇メートルを超えるバケットホイールを首元に押し付け、胸部をさらに破壊していく。
「Guoooooooooooooooo!!!」
胸部を抉られて鳴いた迷宮竜の咆哮は新世界全体を揺らし、その鳴動は自然界全体へと波及して世界を揺らした。
しかし、そんな叫びは降り注ぐハープーンミサイル群の爆発音によって掻き消され、再生させていた炎と氷の両翼は再びもげ落ちて砂上の魔獣たちを焼き、凍らせ、霧散した。
「Aaaaaaaaaaa!!!」
それでも迷宮竜は再び吠えた。だが、今度のはそれまでとは違うものだった。
両翼を落とされ、極彩色のブレスは邪魔をされ、迷宮竜自身、狂える女神の復活がうまく進まないことに狂乱激怒していた。
それも全て、俺が用意したバトルオブジェクトや戦艦長門、それに新たに出現したBagger293のせいだ。
まずはそれらを破壊する、殲滅する、滅殺する――咆哮から伝わる激情が、迷宮の主である俺にはよく判った。
そして迷宮竜の体に開いた穴という穴からあらゆる魔獣たちが無数に湧き出し、眼前の戦艦長門とBagger293に取り付き、さらには巨岩壁のバトルオブジェクトに向かって暴走し始めた。
その数は口腔から吐き出していた比ではない――数千、数万とも思えるほどの魔獣たちが止まることなく溢れ出す。
お前も必死だな――。
上昇し続ける零観は雲を幾重にも突き抜け、さらに上へと昇っていく。高度制限を解除した新世界の空はどこまでも高く続き、零式水上観測機であって零式水上観測機ではないVMBの零観はどこまでも高く昇っていく。
視界に浮かぶマップはすでに敵を示す光点で真っ赤に染まり、個を判別することすら不可能な状態だ。だが、俺に焦りはない。むしろ――ついに来てしまったこの瞬間に、操縦桿を握る手が震えていた。
地上では、Bagger293が無数の魔獣に取りつかれながらもバケットホイールで竜首を抉り、頭部に向かって首筋を押し上げていた。
迷宮竜もその力に反発するが、周囲のバトルオブジェクトの支援砲撃に気を削がれ、竜首がまっすぐに天を目指して伸びていく――。
Bagger293を前進させ、取り付く魔獣たちを踏み潰しながら迷宮竜をさらに押し込む。
着々と準備が進んでいく中、俺は自分の中でまた一つタガが外れたのを感じた。新世界も迷宮であることには変わりがない。その内部で魔獣を倒せば、それは経験となって俺の深淵へと取り込まれる。
それが何も意味するのか――? それはVMBのシステムがまた一歩、俺と深く同化し、より直感的にシステムの具現化ができるようになったということだ。
討伐計画の最終段階に来て、その成功率が間違いなく上がる事態に口角が緩む。
しかし、その代償も大きい。座礁して操船不能状態だった戦艦長門が、魔獣の波に飲み込まれて爆散した。
巨岩壁に設置したバトルオブジェクトたちも、次弾装填が間に合わずに次々に破壊されていく。
もう再配置は不可能だ。CP消費額が非常に高い近未来オブジェクトのHBWを使ってしまったし、新世界が魔獣で溢れかえった状態ではどこに設置しても即座に破壊されてしまうだろう。
地形を造成し直すという手段もあるが、結果は目に見えている。
それにもう、こちらの準備は最終段階に到達した――後は、最後の一撃を繰り出すのみ。
高度制限を解除した新世界の空を昇り、高度三万メートルにまで達した零観のスロットルを弱める。
母艦である戦艦長門が爆散しても、発艦した艦載機はすでに別の搭乗兵器扱い、こちらまでリンクするように破壊判定が出ることはない。
さぁ、行こう。全ての決着をつけるため、この戦闘を終わらせるために――。
前部操縦席から抜け出し、制御を失って失速していく零観の主翼を伝って現在地を確認――微修正をかけるための方向を決め、一気に中空へと身を投げ出した。
急加速していく自然落下の中で両手両足を広げて姿勢を整え、最後の支援兵器召喚を行う。
これまでは、VMBの仕様上同時に召喚できる支援兵器車両は一種一台までだった。だが、新世界の中で無数の魔獣を斃し続けたことにより、ついにその制限も解除された。
地上では爆散間近のBagger293が迷宮竜の首を直上に押し上げ、その頭部を真上に向けさせている。
迷宮竜から俺は見えているだろうか? いや、今は見えなくとも、すぐに見えるようにしてやる。
「来い――原子力潜水艦『オハイオ』!」
超高高度で召喚したのは全長一七〇メートル超、全幅一二メートル超の原子力蒸気タービン推力機関を持つ、排水量一六〇〇〇トンを超える原潜だ。降下する俺の周囲に光の粒子が集束し、次の瞬間には目の前に原潜の発令所が広がっていた。
この原潜はVMBに登場する支援兵器の中で、最も特殊な位置にカテゴライズされている兵器だ。
VMBに用意されているオリジナルシングルストーリーモードの最高難易度を、ハイスコアでクリアしたものだけに贈られるたった一隻の原子力潜水艦。耐久値の回復は出来ず、再入手の方法は存在せず、兵装の自動回復すらない。
だが、その搭載兵器の攻撃力はVMB内で最強最悪――それゆえに、これをゲーム内に召喚したプレイヤーは敵チームプレイヤーだけでなく、味方プレイヤーからも襲われる悪魔の兵器として認知されていた。
しかし、その兵器はまだ使わない。
迷宮竜の外側からいくら攻撃を仕掛けても、内部の迷宮は傷一つつかない可能性がある――世界が違うのだ。
まずは超高高度からの質量攻撃――艦首を下にして降下を始めた原潜は分厚い空気の壁をぶち破り、一六〇〇〇トンの大質量が一個の巨大な弾丸となって大空を切り裂く。
原潜の潜望鏡を通して地上の様子を見ながら、竜首を押し込むBagger293の操作を意識し、落下ポイントと迷宮竜のアギトが一致するように修正していく。
その意図的な押し込みの理由に迷宮竜も気づいたようだ。
天空に向けられたアギトが輝き始める――極彩色のブレスを放つには間隔が短すぎる。だが、最大出力でなければもっと早く放てていたということか。
Bagger293は無数の魔獣に取りつかれて押し込むこと以外はできそうもない――ならば、こちら側でなんとかするしかない。
「艦首魚雷発射管開放――テェーー!」
急降下するオハイオの艦首から射出――正確には勢いよく落下していくのは、全長五メートルを超える潜水艦用長魚雷、Mk48だ。
四発しか装填されてないが、その全てを射出して先行させる。同時に、地上からは極彩色のブレスが天空目指して照射され、その行動を抑えていたBagger293は魔獣の群れによって耐久力をゼロにし、破壊された。
そして、中空で激突した地点には大きな爆発が起こり、吹き荒れる爆煙の中に巨大な弾丸が突入した。




