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 迷宮竜ラビリンス・ドラゴンと無数の魔獣たちとの戦闘は、俺の精神を酷く消耗させていた。


 戦艦長門に搭載されている兵装だけでも四十基近く、ウェーク島要塞に設置したバトルオブジェクトの総数はその倍はある。

 その全てをFCS(火器管制システム)コントロールで制御し、次弾装填クールタイムを管理しながら照準、発砲までこなす。

 さらには迷宮竜ラビリンス・ドラゴンの動きを見逃さず、戦艦長門を操船しながら被弾しないように回避行動を取り続けなければならない。


 一手間違えれば戦艦長門を失い、魔獣の侵攻を止められなければ一気に俺の新世界ユーザーワールドは侵食されて暴威に飲み込まれてしまう。


 だが、そうならないために秒単位で次の行動、必要な行動を判断していくことは、FPSのクラン戦――チーム戦では当たり前の動きでもあった。


 どこか懐かしくも感じる緊張感を覚えながら、次弾装填クールタイムが完了した41cm連装砲の照準を迷宮竜ラビリンス・ドラゴンの首元に合わせていく。


 主砲の斉射を意識しようとした瞬間――再び迷宮竜ラビリンス・ドラゴンの竜首が海面にまで降りてきて巨大なアギトが開いていく――。


「またあのブレスかッ!」


 主砲の照準を首元から迷宮竜ラビリンス・ドラゴンのアギト――その口腔へと滑らせる。

 最初のブレスを放たれた時――その威力とは裏腹に、この攻撃は逆にチャンスだと感じていた。


 口腔の奥には極彩色に輝く大魔力石ダンジョンコアが見えている。それを破壊することができれば、迷宮竜ラビリンス・ドラゴンは迷宮の力を失いただの島へと戻るはず。


 攻撃こそ最大の防御、攻撃こそ最大の隙、狙い撃つは一点。


 最大船速でウェーク島要塞の湾内を航行する戦艦長門の動きを無意識的意識で計算し、弾道を予測。迷宮竜ラビリンス・ドラゴンの口腔から僅かに照準をずらし――。


「斉射ぁー!」


 戦艦長門の41cm連装砲四基八門が砲煙を噴くのと、迷宮竜ラビリンス・ドラゴンのアギトより極彩色のブレスが放たれたのは同時だった。


 八本の赤く燃える弾道が海上で極彩色のブレスと激突するのが見えたが、着弾まで悠長に見続けているわけにはいかない。

 41cm連装砲の斉射と同時に戦艦長門を回頭させ、少しでもブレスが直撃する確率が下がるように船体を縦に向けていく。


 海を割りながら飛来するブレスは戦艦長門の真横を通過し、俺の視線もそれを追うように後方へ流れた。


 二発目のブレスもまた、巨岩壁を粉砕して大穴を開けるかと思ったが、その着弾点は偶然にも一発目と近い位置だった。


 巨岩壁に開いた大穴がさらに広がりつつも、ブレスは巨岩壁を突き抜けた所で再び減衰して消滅していった。


 視線を迷宮竜ラビリンス・ドラゴンに戻せば、大きく開かれたアギトの一部から黒煙が上がっていた。


 アギトに着弾したようだが、残念ながら口腔にまでは届かなかったようだ。しかし、この二発目でブレスの情報がさらに増えた。

 まず、一発目と二発目の間には随分と時間が空いていた――連続で放つことができないのだろう。それに加え、ブレスを吐きながら首を振ることもできないようだ。


 直線的な巨大レーザーでしかないのなら、回避し続けることは可能なはずだ。


 だがこの時、俺は背後で起こっていた異変に気付くことが出来なかった。




「Uooooooooo!!!」


 迷宮竜ラビリンス・ドラゴンは極彩色のブレスを躱されたのを見ると、竜首を天高く立てて世界を揺るがす咆哮を上げた。


 新世界ユーザーワールドを駆け抜けていく咆哮が俺の体をも突き抜けた瞬間、怒りや憎悪というよりも、大きな歓喜の声だと感じた。


 自然界全てを増悪する歓喜、生きとし生けるものを破壊し、滅殺する狂喜。そして、復活の道しるべに狂喜乱舞する心の奥底から吹き上がる感情の爆発。


「おぇぇぇ」


 そのあまりにも不快な歓喜の感情に思わず吐いた。測距所の手すりにつかまり、甲板へと胃液を吐き出しながら、少し前にも感じた俺ではない俺の歓喜に恐怖を感じた。


 その咆哮は迷宮竜ラビリンス・ドラゴンが誕生した時に感じたものと同じものだった。

 エルケイネスが見せた一瞬の隙をつき、真紅のエンプレスアントはその支配を企んだ。だが、意識を取り戻した迷宮の主ダンジョンマスターの一撃によって絶命し、俺の放った銃弾によって全てが死に絶えた――かに見えた。


 だが、最後に全てを手に入れたのは、主人を失った迷宮そのものだった。


 それが迷宮竜ラビリンス・ドラゴン、歓喜の咆哮を上げ、邪悪なる母――狂える女神復活のために進み出した。


 そう――迷宮竜ラビリンス・ドラゴンの目的はその一点なのだ。そのために、自然界に生きるものを襲い、生活圏を破壊し、同じだけの力を持つ迷宮を――迷宮の主ダンジョンマスターを探した。


 そして見つけたのだ。ドラゴンの力を取り込んだ迷宮と同等に渡り合う迷宮を、迷宮の主ダンジョンマスターを――俺を見つけたと歓喜しているのだ。


 迷宮竜ラビリンス・ドラゴンの上げた咆哮には、その感情全てが詰まっていた。


 不愉快どころの話ではない。迷宮竜ラビリンス・ドラゴンは俺を同種と見なし、狂える女神復活のために殺し合おうと言っている。

 殺し合うことが狂える女神の復活にどう繋がるのか判らないが、俺にそれを手助けするつもりは全くない。


 だが、迷宮同士で――迷宮の主ダンジョンマスター同士で戦うことが復活につながるのならば、この戦闘を長引かせるわけにもいかない。


 まだ少し嘔吐えずきながらも、戦艦長門の操船に意識を戻し、FCS(火器管制システム)コントロールで新世界ユーザーワールドに侵入した魔獣たちの掃討を再開した。

 同時に、コの字型の湾内に侵入し始めた迷宮竜ラビリンス・ドラゴンの動きを封じ込めるべく、〈迷宮創造クリエイト・ラビリンス〉を起動する。


「造成コマンド表示……地形変更――海を陸へ、盛土を決定。土質変更――バトルオブジェクト配置、スキル解除」


 迷宮竜ラビリンス・ドラゴンの巨躯を覆うようにコの字型の先端を盛土して繋ぎ、巨岩壁へと造成。そして戦艦長門が回避行動を行えるだけの領域を確保しつつ、湾部の海を陸地へと変換した。


 迷宮竜ラビリンス・ドラゴンはこの海域で必ず仕留める。そのためには、その侵攻を完全に停止させ、自由を奪い、必殺の一撃を間違いなく急所へと叩き込む必要があった。

 これはその前段階――ウェーク島要塞の前部に光の粒子が溢れんばかりに湧き昇り、集束して行きながら迷宮竜ラビリンス・ドラゴンの背後を巨岩壁が閉じていく。

 湾部の海水にも変化が生じ、煌めく海面が染み渡るように広がりながら砂へと変わっていく。


 その変化に追い立てられるように、海中を進行していた魚型魔獣が砂上へと押し上げられ、そこを狙い撃つように野砲の攻撃が降り注ぐ。


 歓喜の咆哮を揚げていた迷宮竜ラビリンス・ドラゴンも自分の周囲に起こった変化に気づいたようだ。

 ゆっくりと高度を下げていく竜頭が僅かに左右へと振られ、自らの巨躯が砂に埋まって動けなくなっているのを見ている。


 ドス黒く光る赤い眼が歪み、煩わしそうに炎翼と氷翼を広げると、その周囲に無数の炎弾と氷塊が生まれ始めた。


 動きを固定している砂や巨岩壁を吹き飛ばすつもりなのだろうが、そうはいかない。本命への攻撃を仕掛ける前に、まずはその両翼を無力化する。


「サイロ開放、ミサイル攻撃開始!」


 迷宮竜ラビリンス・ドラゴンを討伐するためには、いくつかのステップを踏む必要があると考えていた。


 一つ、重カノン砲や艦載砲による遠距離からの攻撃。


 二つ、迷宮竜ラビリンス・ドラゴンが吐き出す魔獣の群れを掃討。


 三つ、その移動能力を奪い、攻撃手段を奪い取る。


 そのためには、邪魔な両翼を根元から剥ぎ取る物量攻撃が必要だと考えた。


 それが新しく造成した巨岩壁内部に設置しておいたバトルオブジェクト――サイロ発射型のハープーンミサイルだ。

 巨岩壁上部に設置された直径50cmほどの丸葢が開放されると、その内部に設置されたハープーンミサイルのロケットエンジンが点火され、噴煙を巻き上げながら白いミサイルが次々に上空へと飛翔を開始した。


 このハープーンミサイルはアメリカで開発された対艦ミサイルで、日本も含めて三十ヶ国以上で採用されているミサイル兵器の傑作だ。

 発射方法は航空機からの空対地、潜水艦からの海中発射、艦上搭載での艦対艦用と幅広く対応しており、VMBでもあらゆる発射機構に適合するミサイルだった。


 上空高く舞い上がったミサイル群はブースターを切り離し、目標地点としてマーキングされた地点までジェットエンジンによって飛翔する。


 当然ながら、発射準備を整えた時点でハープーンミサイルたちには迷宮竜ラビリンス・ドラゴンの両翼を目標地点としてマーキングしており、巨岩壁の両側から放たれたミサイルの雨が今まさに降り注がんと急降下を開始した。


 その軌道を上空で煌めくジェットエンジンの火線で確認し、俺も次の一手へと移動を開始する。


 迷宮竜ラビリンス・ドラゴン討伐のための最終ステップ――攻撃手段を奪い、その勢いで奴の大魔力石ダンジョンコアを直接破壊する。


 そのために、戦艦長門の後部甲板にある艦載機、零式水上観測機を使って直接構内に乗り込む。


 そう考えて測距所の後方へと振り返った瞬間、全く予想していなかったものが戦艦長門のはるか後方に存在していた。











 プイッ♪




 空気を切り裂きながら飛翔するハープーンミサイルのジェット音、無数の魔獣を撃ち斃し続けていた野砲と75mm高射砲の砲音の中で、そのチャット受信音だけはやけにハッキリと聞こえた。


『そこに有るぞ?』




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