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マップに映る光点の仕様の矛盾を修正
どのくらいの時間そうしていただろうか、巣穴を見つめ続け、気づけば空が紅く日が落ちようとしている時、ヘッドゴーグルに映るマップに、複数の移動する光点が現れた、色は赤色が複数。
このヘッドゴーグルは、伸縮収納可能なヘッドマウントディスプレイ兼眼球保護シールドであり、VRFPSとなったことでTVやモニターで知ることができなくなった様々な情報を、ゲーム内で見ることができる。
マップ情報や兵装の装弾数、敵味方の位置情報などの総合情報が纏めて表示される。また、様々な環境ステージでの戦闘に対応でき、赤外線サーモグラフィーのFLIRモードや暗視装置のNVモードにも変更できる。
そして、円状のマップ表示半径は最大で150mにも及び、範囲内の音を集める集音センサーによって、動的対象物を光点で表示してくれる。VMBのゲーム内では敵は赤色、味方は青色で表示していた。
ゲーム内では敵を視認する、もしくは対象の敵対的アクションによって、赤色の光点へと自動的に表示されたが、今いるこの世界はゲームではない。先ほどの3匹のゴブリン追跡時もずっと赤色表示の光点だったが、あのゴブリンがこの世界の原住民の姿であり、敵対的な対象とは限らない、かと言って味方だとは思えないが。
「川の向こうか……」
マップに映る光点の正体を確かめるべく、木を背にカバーリングしながら光点が見える位置へ移動する。
「あれは……ゴブリン……」
複数の赤い光点は、先ほどと同じ背格好のゴブリン達だった。しかし、よくよく見ると一匹だけ着ている物が違う……はんてんのような上着に、祭服のストラのような帯状のものを掛けている。手に持っている棍棒は他のゴブリンたちより長く、それはまるで魔法使いかシャーマンのようである。
その後ろにぞろぞろと続くゴブリンたちの手には、豚と思われる家畜を抱えていた、また中程のゴブリンはござの様な大きな布に包まれた……
「足? あれは人か?」
ゴブリンが抱えている布の端から細い足が見えていた、男と言うより女の足だ。まるで狩りの成果を誇るかのように豚や女と思われる人を抱え、人の言葉ではない奇声を上げながら、その集団は巣穴へと消えていった。
これはどういう状況だ?
俺は再び巣穴を見つめ、いま目にした状況を少しでも理解しようと内心へと意識を沈める。
VMBと言う仮想現実シューターをプレイしていたはずなのに、気づけばどこか知らない異世界と思われる場所にいる。そして目にしたゴブリンとしか見えない人ではない人型の何か、同時に攫われた思える人の足、あの人は生きているのだろうか、俺がここに来た、落ちた理由はあの人なのだろうか、助けろと?
思わず手に力が入る。感じる感触はMP5A4という鉄の塊、凶器の塊。VMB内の姿そのままにここに立っているが、本当にこの銃を発砲できるのかをいまだ試していない。CPによってTSSからSHOPを利用できるまでは確認したが、購入を試してはいない。
弾薬や備品の補充ができる保障はない。仮に発砲や補充が問題なく出来たとして、この銃であのゴブリンを斃すことが出来るのか? 9x19mmパラベラム弾が通用するのか?
不安と疑問で心が埋め尽くされる。気づけば夕暮れから完全に日は落ち、周囲は夜の帳に囲まれていた。
「行こう……せめてあの人が生きているか確認し、生きているなら助ける。 万が一銃撃が効かなければ、あの人には悪いが逃げる」
そう自分に言い聞かせ、俺はヘッドゴーグルのモニターを暗視装置、NVモードへと切り替え、林の切れ間からゴブリンの巣穴へと進んでいった。
◆◆◇◆◆◇◆◆
巣穴の中は思ったよりも広く、高さは約3m、幅は4~5mはあり、曲りくねりながら道を奥深くへと進んでいく。中は所々に生えている光る小さな花によって僅かにだが明かりが得られているが、こんな花は見たことも聞いたこともない。
しかし、そのおかげでNVモードがしっかりと機能し、俺に明瞭な視界を提供してくれている。ヘッドゴーグルのマップは未踏破部分がマスクされているため、集音センサーでもマスク部分には動的対象物は表示されない。だが、センサー自体が機能していないわけではないので、イヤーパッドを通して進行方向からゴブリンと思われる奇声が聞こえてくる。
こちらへ近づいてくる! 足音は2種類、2匹か……思わず手に握るMP5A4のグリップに力が入るが、まだ何も判明していない状況でMP5A4を発砲すれば、その発砲音で2匹以上の敵を呼び寄せかねない、この武器が根本的に通用するかどうかもわからない状況でそれは不味い……。
俺は音を立てないようゆっくりと後退しつつ、MP5A4のスリングを背に廻し、腰に装備しているガンホルスターからサブ兵装の『M1911A1 コルト・ガバメント』を引き抜いた。更にその横のポーチからサイレンサーを取り出し取り付ける。
M1911A1はジョン・ブローニングが設計し、アメリカのコルト社が開発したM1911の改良型で、一発でも敵の動きを止められる威力を求められ開発された、45ACPという大口径弾を使うハンドガンだ。9x19mmパラベラム弾と比べると3mmほど口径が大きいが、これがゴブリンに通用しなければMP5A4も通用しまい……。
サイレンサーをつけたことにより、発砲音が抑えられるが、同時にデメリットも存在する。あくまでもVMBのゲーム内でのバランス調整としてのデメリットだが、威力減衰が大きくなり、遠距離での相手に与えるダメージが低くなることや、重心のバランスが崩れ、Hipfire時に命中精度が低下する。
しかし、この現実の異世界へと落ちたことで、そのデメリットがどうなっているのかはわからない、撃ってみるしかないのである。
M1911A1の安全装置を解除し、ヘッドゴーグルにクロスヘアが出るのを確認すると、曲線を描くカーブの内側へ身を隠しリーン状態から片手で構える。NVモードによって、俺はゴブリンを視認できるが、ゴブリンが果たしてこの僅かな明かりでどこまで見通せるのか……体の露出を最低限に抑え、視界にゴブリンが映るのを待つ。
ゴブリン……と勝手に言ってはいるが、本当にゴブリンなのだろうか? 撃つなら反撃も断末魔も許さずヘッドショットで一瞬で決める……でもあれがこの世界の一種族的な存在なら、俺はただの人殺しになる……。
せめて、女と思われる人がどのような状態にいるのか、それを確認してから戦闘行為に移行したかった。何かしらの非道が行なわれているなら迷いはしない、そういう世界なのだと、自分のいた世界ではなく異世界なのだと割り切れる。そんな思いにぐるぐると意識を捕らわれながらも、ゴーグル越しに闇を見つめる……。
来た、やはり2匹……子供にしか見えない身長だが……うっ!
視界に入ってもまだ迷う自分の心にアレは敵だと、撃つべきMOBだと明確に認識させたのはソレの顔だった。
なんだよあの顔、どう見たってモンスターじゃないか! そう思うと同時に空気の抜けるような音と、何かが潰れる音が二つ続いた。
俺の銃撃は的を外すことなく、2発で二つの頭を打ち抜いた。やはりゲームの銃の性能がそのまま実現されている。現実のサイレンサーは、音が全く聞こえなくなるようなものではない。
しかし、VMBのサイレンサーは相手のMAPに表示されないほどの極僅かな音しか発生させない、更に薬莢の排出は地面に落ちる前にどこへとも無く消滅した。
銃撃を受け、仰向けに倒れた二匹へとM1911A1を構えたままゆっくりと近づき、その顔をまじまじと見つめた。
間違いなく死んでいるようだ、こいつでヘッド一発ならMP5A4でもやれるはず、しかし……銃を構えたまま、俺はその場から動けなかった。ゴブリンの顔は耳が極端に大きく、鼻も鷲型に伸びている、口は横に広く見開いた目は赤い……開いたままの口から見える歯は犬歯のように尖っているようだ。
こいつらがもし、ただの原住民や一種族だったとしても、俺は到底仲良くできそうもないな……こいつらを殺したのは俺……でも、あまりに人と顔が違うせいか罪悪感のようなものが湧いてこない、この死体は消えたりしないのか? このままってことは……CPを得る手段が存在しない?
疑問が解決した途端に新たな疑問が浮かび上がる。敵を倒しても、クリスタルが得られなければCPは溜まらない。TSSを見ても自動的に増えてるなんて事も無い、このままではいずれ補給が不可能になり、唯一の戦闘手段を失いかねない……。
俺の足は暗い巣穴に根を張るように動かなくなり、この先進めば見知らぬ女の人を助けるために失う弾薬惜しさに、前へ進むことを拒んだ。
使用兵装
MP5A4
ドイツのヘッケラー&コッホ社製のサブマシンガン、世界でもっとも使用されているサブマシンガンであり、そのバリエーションも非常に多く。軍隊、警察、対テロ部隊等、幅広く活躍する名器である
M1911A1
ジョン・ブローニングが設計しアメリカのコルト社が開発したM1911の改良型、一発でも敵の動きを止められる威力を求められ開発された45ACPという大口径弾を使うハンドガン