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今日は二話連続更新しています。296を未読の方は注意してください。












「〈迷宮創造クリエイト・ラビリンス〉!」


 システムの起動を宣言すると同時に、眼前に浮くコマンドを押した。




       〜Modification Mode Start〜

            (Y/N?)




 コマンドを押して表示されたのは、視界をスクロールしていくシステム起動の文言だ。

 当然ながら、このシステムを起動しなくては迷宮竜ラビリンス・ドラゴンを討伐することは不可能だと考えている。


 システム起動を決定すると、俺の周囲が全方位型の球型モニターへと変化した――いや、実際にはそれが俺の視界内に表示された。


 球型モニターに表示されているのは様々なパラメーター、いくつものオブジェクト情報、俺のCPクリスタルポイントを始め、気象情報に温度、湿度、風速に時間の流れなど、一方向では視界に納められないほどの情報が表示されていた。


「すごいな……MOD機能も完全に再現されている……」


 思わず言葉が漏れるのも無理のない話だった。MODとは――簡単に言えば改造データそのものだ。

 FPSプレイヤーが忌避するチートと似た側面もあるのだが、チートがゲーム世界の中の一部を改変するのに対し、MODはゲーム本編のデータを利用して新たな本編――新世界を作り出す。


 だが、ゲーム開発側とユーザーの両者から嫌われるチート行為に対し、MOD作成はゲーム開発側に推奨されている場合があり、そのためのツールが公開されていることも多々ある。


 MODによってできることは、一言で言えば無限大だ。FPSゲームに新ルールを足すことなんて基礎も基礎、全く違うゲームジャンルに作り変えることもできれば、現代戦を宇宙戦争や戦国大戦に作り変えることも可能だ。


 VMBにもユーザー向けに公式MODツールが公開されていた。このツールはVMBの開発側が用意したもので、これを使うことでユーザーはVMBのあらゆる仮想空間データを利用することができ、自分が思い描く仮想世界を作り上げることができる。

 公式と名が付くことからも判るように、このツールによって作られた仮想世界――新世界ユーザーワールドはVMBを通して世界中に配信され、全てのユーザーがその世界にアクセスすることができた。


 そしてあの日、王都の晩餐会の会場で俺は〈迷宮創造クリエイト・ラビリンス〉と呼ばれるスキルを手にいれた。

 このスキルこそがVMBの公式MODツールにゲーム内部から――この異世界からアクセスすることが可能になるスキルであり、俺は俺の新世界ユーザーワールドをこの世界に創り出すことができる。


 それこそが、俺の生み出す迷宮だ。


「ワールド範囲設定、ベースマップ選択……ウェーク島、倍率変更……島の角度を変更……決定」


 球状モニターに表示された様々な項目・パラメーターを声と指と意思で操作し、新世界の土台となる島を選択した。


 このウェーク島は北太平洋に実在している島であり、かつての大戦――|WWII(第二次世界大戦)では日本軍とアメリカ軍が激突した島でもある。

 ウェーク島の特徴といえば、水没した休火山によって環状に形成されたサンゴ礁の島であり、コの字型の地形をしていることだろうか。


 本来はそれほど大きな島ではないのだが、島の倍率そのものを設定した新世界ユーザーワールドの境界線にまで拡大し、さらにはコの字の向きを変更して迷宮竜ラビリンス・ドラゴンを迎え撃つのに適した島へと変更する。


 ベースマップを決定した瞬間――救命ボートの上に立つ俺を中心に海面が輝きだした。眩いばかりの輝きは瞬く間に海面を走り、水平線の彼方まで光の輪が広がっていく。


 そして立ち昇る無数の光の粒子。球状モニターの向こうが光に包まれていく――。

 

「天候を晴天に設定、海中、海上温度は周囲環境をトレース、風向きと風速を設定――」


 立ち昇る光の粒子が見せる幻想的な景色に見とれている時間はない。すぐに基礎パラメーターの入力を開始し、巨大化させただけのウェーク島を頑強な要塞へと造り変えていく。


「造成コマンド表示……島全体を盛土、浅瀬の深度を変更、土質を変更……高度制限を解除、フィールドオブジェクトを表示……設置」


 高低差が殆どない平面的なウェーク島全体を盛土し、高さの制限をなくし、迷宮竜ラビリンス・ドラゴンの巨躯に負けないほどの巨大な岩壁を創り上げた。


 これにより、海洋都市アマール側から近づく海洋騎士団は巨岩壁の向こうで何が起こっているのかを見ることはできない。

 それに、島の位置を新世界ユーザーワールドの境界線に寄せて配置したため、海上から新世界ユーザーワールドの中に侵入することは不可能に近い。


 これは彼ら(海洋騎士団)を巻き込まないために必要なことだった。


 気づけば、救命ボートは海上ではなく砂浜の上にあった。光の粒子が具現化し、島の形を形成し始めたのだ。


 やはり時間がかかるか――。


 ゲームのように、選択した瞬間にそこに存在しているとはいかないようだ。決して遅くはないが、それでも創造を続けていけば具現化は遅れ続けるだろう。

 迷宮竜ラビリンス・ドラゴン新世界ユーザーワールドの境界線に近づく前に、すべての準備を完了しなくてはならない。


「バトルオブジェクト表示……大型カノン砲選択……S23 180mmカノン砲……決定、決定、決定、決定、決定――」


 岩壁の上には一定の間隔でマップに設置できるバトルオブジェクトの180mmカノン砲を配置していく。


 この180mmカノン砲は一九五六年にソビエトが開発した重カノン砲であり、その名が示す通りの180mm口径の巨砲によって榴弾を撃ち出し、その圧倒的な射程距離は三万mにも達する。

 発射間隔は二分ごとの自動装填、バトルオブジェクトに弾切れの概念はなく、今の俺なら何基設置しても意思一つで全てのFCS(火器管制システム)をコントロールできるはずだ。


 だが、だからと言って無計画に無数の180mmカノン砲を設置するわけにもいかない。この新世界ユーザーワールドの創造は、何を決定してもCPクリスタルポイントを消費する。

 限られたCPクリスタルポイントをやりくりし、迷宮竜ラビリンス・ドラゴンと吐き出された魔獣を殲滅する舞台を整えなくてはならない。


「高射砲選択……決定、野砲選択……決定――」


 高威力の重砲だけでなく、対空兵器に対魔獣用の砲門も配置し、ウェーク島の巨大要塞化は進んでいく。


「アーキテクト表示……造船所を選択、決定」


 新世界ユーザーワールドの基礎パラメーターを決定し、ウェーク島の地形を全く違うものへと造り直し、巨大要塞として機能するように各種砲門を配置する。


 これだけで用意したCPクリスタルポイントの大半を消費した。


 しかし、まだ足りない。あともう少し、造船所を建築することで作成できるオブジェクトシップこそが、迷宮竜ラビリンス・ドラゴン討伐のキーになる。

 球状モニターの中から周囲を見渡し、次々に具現化していく180mmカノン砲や高射砲の完成を見ながら、目の前で光の粒子が収束していく造船所の完成を待った。


 オブジェクトシップ――それはプレイヤーが購入することができない特別な艦船であり、他にもオブジェクトカーやタンク、へリなどが存在する。

 そのどれもが強力な移動用兵器であり、戦局を一変させる力を持つものもある。また、この特別な移動用兵器を自由に設置できる点が、VMBにおける新世界ユーザーワールドを創造する楽しみであり、その新世界ユーザーワールドをプレイするプレイヤーの楽しみでもある。


 やがて周囲の輝きが収まり、目の前の造船所も完成して巨大な工廠とクレーンが姿を現した。

 




コミカライズ版の一巻は本日発売!

どうぞ宜しくお願いします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 現在、2022年ですが 軽くコミカライズ版を少し読みました 柔らかいタッチの絵でしたね。
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