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俺が最初にマイラル村から城塞都市バルガへと荷馬車で移動してきた時は、約半日ほどかかった。そして、今の時間はすでに昼を回っている。今からマイラル村へと向かっても、普通なら到着は夜中になると思われるのだが……。
「ミラーナさん、仕事で少しの間バルガを離れる事になりましたので、今日でチェックアウトします」
「急な御出立なんですね、ご利用ありがとうございました。でも、今からバルガを出られるんですか?」
「ええ、出来るだけ早く仕事に取り掛かりたいので」
「そうですか、それはお気をつけて。またのご利用お待ちしています」
俺はフロントにいたミラーナさんに部屋の鍵を渡し、この異世界での俺の家も同然だった「迷宮の白い花亭」を後にし、まずはマリーダ商会へと向かった。
「こんにちは~」
「いらっしゃいませ、シュバルツさん。生憎と商会長は店を出ておりまして……」
「そうですか、それではマルタさんに、仕事でしばらくバルガを離れるとお伝え下さい」
「かしこまりました、伝えておきます」
マリーダ商会のいつもの従業員に伝言を頼み、ついでに無属性魔石を大量に購入した。マイラル村では買うのが難しいだろうから、補給できる時にCPを補給しておく。
そして総合ギルド本館に顔をだし、適当に開いてる窓口で声をかけると、ギルドカードでの本人確認後に、レミさんからの預かり物として、一通の手紙を受け取った。これをマイラル村の総合ギルド出張所にいる、バロルドさんかキースさんに渡せば良いらしい。
総合ギルドを出てからは、巡回馬車で西側の城門まで行きたかったが、時間が合わなかったので歩きで向かう。城門では、衛兵にギルドカードのチェックをしてもらい、俺は城塞都市バルガにしばしの別れを告げ、マイラル村へと繋がる街道を歩き出した。
ある程度歩き、城門からこちらを視認することが出来なくなったところで周囲を確認し、近くに誰も居ない事を確認すると、TSSを起動した。選択した項目は、支援兵器召喚である。
VMBには幾つかの支援兵器があり、据え置き型の遠隔操作型重機関銃の『セントリーガン』や、小型無人偵察機の『RQ-11 レイヴン』など、攻撃的な兵器、偵察などの支援機、そして今から召喚する移動用車両などがある。
迷宮の中で支援兵器の召喚を使う事は、そう多くはないだろう。だが自然界での移動や依頼達成には、大いに活躍してくれるだろう。異世界に落ちたばかりの頃は、CPを得る手段が判らなかった為、多額のポイントを消費する支援兵器の利用は避けてきたが、VMBのゲーム時代に購入してあったものは、稼動させる為の燃料としてCPを消費するだけなので、今回のマイラル村への移動が、良い機会だと考えていた。
TSSのメニューから支援兵器召喚、ガレージへと進み、以前より持っていたいくつかの移動用車両の中から選択したのが、『カワサキ KLR 250-D8』といういわゆるミリタリーバイクだ。
VMBの支援兵器に戦闘用車両は存在しない。しかし、移動用車両は4輪・2輪共に豊富な種類が存在し、俺は特に2輪でVMBのマップを走り抜けるのが好きだった。
まぁ、元の現実世界ではバイクに乗った事はないが、だからこそVRな世界で走りまわりたかった。そして、この異世界の大地を走るなら、4輪よりも2輪だろう!
KLR250-D8を選択すると、補給BOX同様の光の粒子が現れ、それが収束していくと、俺の目の前にはダークグリーンのオフロードバイク、KLR250-D8があった。 さっそく跨り、ハンドル中央にある二つのメータの間にある、通常ならキーを挿すところがスターターボタンになっており、それを押し込むとエンジンがかかる。
TSSによって召喚された乗り物は、現実の乗り物とほぼ同じ形はしているが、その操作方法はあくまでもゲーム的操縦である。つまり、このバイクにはギアチェンジ的な操縦要素は存在しない、自動車で言うオートマチック車と同じようなものだ、アクセルを捻って速度が上がれば、自動的にギアが変わっていく。
俺はアクセルを捻り、静音マフラーによって抑えられつつも、唸り声を上げるエンジン音と共に、マイラル村へと続く街道をKLR250-D8で駆け出した。
「うっほぉぉぉぉぉぉぉぉ きもちぃぃぃぃ! おほぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーこ、こぇぇぇぇ!」
自然界の澄んだ空気を切り裂くように、KLR250-D8で街道を走り抜けていたが、サスペンションの効いているオフロードバイクとは言え、揺れる物は揺れる。 さらには調子に乗ってアクセルをずっと開けていたので、ぐんぐん速度は上がり、時速100km近くまで出ていた。この速度をヘルメットも着けずに、縦揺れしながら爆走するのは、正直怖すぎた。
速度を落としながらも、馬車と比べれば圧倒的に速い速度でマイラル村へと向かい、2時間もかからずにマイラル村の近くまで移動できていた。ここまで来る間に、2台の馬車を追い抜いてきた。
後方から近づいていく段階で魔獣に間違われ、馬に鞭打って逃げる馬車を追い越し、サイドミラー越しに見る御者の唖然とする顔がチラッと見えたが、こちらの顔は見えていないだろうから、マイラル村で見かけても騒がれはしないだろう。
アバターカスタマイズでヘルメットを装着しても良かったのだが、VMBの一般的な装いであるヘッドゴーグルにより、様々な機能が得られるため、ヘルメットを被るプレイヤーは少なく、俺も被る事はなかった。
それでも一時期流行った、『タクティカル ケブラーマスク』という、黒いジェイソンマスクで、穴が目の部分にしか開いていない、台湾やボリビアの特殊部隊が使用しているマスクを着装していたことはあったが……。
このマスクは、非常に威圧的な印象を持たせる防弾マスクで、9mmFMJ弾やマグナム弾にも耐える防弾性があった。実物は眼の部分が完全に開いているのだが、VMBでのケブラーマスクは、目の部分にヘッドゴーグルと同じ機能を持つレンズが付いており、ヘッドゴーグル同様の機能が利用できた。
しかし、視界が狭くなるので次第に使用者は減り、俺が異世界に落ちる頃には殆ど見かけなくなっていた。
街道の先に見えるマイラル村の門から見えない所へとKLR25-D8を移動させ、KLR250-D8をTSSのガレージへと収納した。ガレージでは、車両の修理や燃料補給をCPを消費する事で行えるので、収納ついでに万全の状態へと回復させ、歩いて夕暮れのマイラル村へと入っていった。
マイラル村の総合ギルド出張所へ行くと、中に居たのは……たしかキースさんと言う名の方だったか、長身短髪だが持っている雰囲気は柔らかい。着ているのはレザーアーマーだろうか、レミさんやアシュリーさんもそうだったが、ギルド調査員や職員は、冒険者と似た装備が基本なのだろうか。
「こんにちは、キースさんですよね? 城塞都市バルガからこちらの仕事の協力をレミさんに頼まれて来たのですが」
「おや、君は以前アシュリーを助けてくれた……」
「Dランク冒険者のシュバルツです、レミさんから手紙を預かってきました」
俺は総合ギルドで受け取った手紙をキースに渡した。手紙を受け取ったキースさんは、すぐにそれを開封し中の便箋を読み始めた。
「なるほど……ご協力に感謝します、シュバルツ君。とりあえず、今日は村の宿に部屋を取ってください。宿の女将には、宿泊料は総合ギルドで持つとお伝え下さい。現状を簡単に説明しますと、緑鬼の迷宮の地図作成は一時中断しています。現在は、迷宮に引き寄せられた周辺の魔獣・亜人種の討伐を行っているところです。地図作成は、一人もしくは信頼できるもの数人でとの事ですが、緑鬼の迷宮前に設営しているキャンプから二人つけます。明日の朝、8時頃にはこちらへ来て下さい、キャンプへ一緒に向かいましょう」
「わかりました、ではまた明日の朝参ります」
俺は総合ギルド出張所から、マイラル村唯一の宿屋、「清流の小川亭」へと行き、一晩の宿を取った。この宿も「迷宮の白い花亭」と同じレイアウトで、一階が食堂になっていた、この形が異世界の一般的な宿屋のスタイルなのだろうか? 丁度夕食が食べられる時間ということで、食堂で夕食を頂いた。